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ハルルの森の調査に乗り出したエディ・サーシェスは、事前に聞いていた異変を報告した精霊術師を訪ねることから調査をはじめた。
「さて……」
エディは意識を集中させ、心の中で自身の契約精霊達に呼びかける。
(シーヴァ、レイドお仕事を手伝ってください)
エディが両手を前にかざすと、右手に白の光の粒が、左手に黒の光の粒が集まり始める。やがてそれは1点に集中するとするするとエディの手に絡まり2匹の小竜が現れる。
「シーヴァ、ここに」
「レイド、ここに」
2匹はするするとエディの肩に登ると再会を喜ぶかのように頭をエディの頬に擦り寄せる。
右肩に乗るのが白竜のシーヴァ、左肩に乗るのが黒竜のレイドである。
「ふふっ、くすぐったいです」
「レイド、レイド、ご主人様はまたお仕事を押し付けられたご様子」
「どうせまた精霊達の宴が原因だ。そう説明して遊んでしまおう」
「そういうわけにはいきませんよ。しっかり調査しないと。まずは実地調査です」
ルートン伯爵はエディが問題なく聞き取りが出来るように手配してくれていた。
報告をあげた精霊術師の代表だという男は小さな小鳥の精霊を連れた精霊術師で30代くらいの優男だった。訪問してきたエディが2匹もドラゴンを連れていることに驚いていたが、すぐに持ち直し、手を差し出してきた。エディは差し出された手を握り返す。
「お話はうかがっております。私のことはエギーとお呼びください。実際の現場に案内するように仰せつかっておりますので、これからご案内させていただきます」
「エディ・サーシェスだ。よろしく頼む」
エギーに案内されたのは、明確な不審火があったとされる場所だった。まだ人里に近い森の中、1本の木が燃やされていた。消火が早めに行われたのだろう木の上の方は燃えて炭になっていたが根元の方は健康そうな普通の木だった。
「ここで発生した不審火が精霊によるものだと私が判断しました。痕跡は既に薄れていますが……」
「流石に日にちが経っていますからね。シーヴァ、レイド、どう?分かりそう?」
両肩に乗る小さなドラゴン達はフンフンと鼻を鳴らした後に首を振った。
「ご主人様、ご主人様、精霊の痕跡はもう分からないよ」
「雨と風と太陽の光が痕跡を洗い流していて分からないよ」
「でもその程度で消える痕跡なら下位精霊の仕業だよね」
「シーヴァ、シーヴァ。下位精霊が不審火を起こす?」
「あんまり聞かないかもね」
ふうむとエディは考え込む。確かに下位精霊は力の強くない大人しい精霊達の総称だ。
火の下位精霊は確かに発火能力はあるが、本当に微々たる物なのだ。火花が少し散る程度といえばいいか、ともかく、大きな火になる危険にはなり得ない物なのだ。
(たまたま火の付きどころが悪かった可能性もある。一概には言えないからな)
「ご主人様、ご主人様。でも確かにこの森何か変だよ」
「変。変?確かに変かも?ちょっと違和感。あるかも」
「違和感とは?具体的にはどんな?」
「この森、精霊の気配あんまりない〜」
「サーシェスの森に比べたら明らかに少なめ〜」
シーヴァとレイドはしっぽをパシパシとエディの背中に叩きつけながらそういった。言われてみれば、サーシェスの森とは違い森は薄暗く、精霊が放つ特有の輝きがないように思えた。
「この森は元々そういう精霊の少ないいわれのある森なのですか?」
エギーに尋ねると、彼は大きく首を横に振った。
「いえまさか、古くから精霊の多い豊かな森であるとそう言い伝えられています。何度かサーシェス辺境伯家の方にそうお墨付きを貰った記録もあるくらいです」
「そうですか、それは不穏ですね……この辺りで精霊が好みそうなのはやはりハルルの森の奥ですか」
「ええ。しかし、魔獣も出る危険な場所です」
「大丈夫です。私が奥まで行って見てきます。エギーさんは麓の村で待機していてください。もし、私が夜までに戻らなければルートン伯爵家に一報を入れてくれますか?」
―――
エギーを麓の村に返し、エディとシーヴァ、レイドはハルルの森の奥を目指した。
ハルルの森は鬱蒼とした手入れの行き届いてない森で、叢を自らかき分けてけもの道でも探さないと進めないような場所だった。
期限は夕方。日が落ちるまで進めるところまで進んでみようと決め一人と2匹は歩を進める。
「なんか嫌な感じがするよう、ご主人様」
「魔獣も居ないよ、ご主人様」
「でも、安心してね、シーヴァがいるから」
「レイドもいるから安心してね」
「心配なんかしていませんよ。頼りにしていますからね2人とも」
シーヴァとレイドはエディにとって最も頼れる相棒だった。
シーヴァは定期的に森の上空に飛翔し、周囲に何があるか報告してくれる。レイドはエディから片時も離れず周囲を警戒してくれる。
「ご主人様。ご主人様。湖があるよ。なんか、不気味な湖」
「気を付けてね。気を付けてね」
「不気味な湖ですか……」
何度目かのシーヴァの偵察で進行方向の湖になにかがあることが分かったので、エディはまっすぐそこを目指すことにした。
「気を付けてね。なにか変だよ」
「うんうん。不気味。不気味だよ。まっすぐは不気味」
シーヴァとレイドがそう言うのならば、諸悪の根源はそこにあるのかもしれない。エディは気を引き締めなおす。
しばらくすると前方が開けてくる。陰鬱な森が開け薄緑色に染まった湖が見えてくる。湖というよりかは、あまり水の入れ替えのない沼といった方がいいか。
エディは沼に近づいて目を疑った。
「なんだ、これ……」
湖を囲う木々に巨大な蛇が絡まっていたのだ。
長さ10メートルもありそうな巨大な蛇はピクリともせずにそして複雑に木に絡まっていた。所々、その巨体を押さえつけるかのように木が生えているところもある。
「ウロボロス……」
上位精霊では格が高めの存在。
それがウロボロスだった。
―――
「……そうして、ハルルの森の奥で瀕死の……瀕死という状態が正しいのかは分かりませんがウロボロスを見つけたのですが、私ではどうすることも出来なかったので、やむなく屋敷に戻ってきたというのが経緯です」
イリーナはしずかにエディの話を聞いていた。
「なるほど。で、この完璧スーパーレディであるお姉様を頼ろうと言う事ね」
「不本意ですが、一度バケモンに見てもらった方が早いと思ったので」
酷い言い草である。バケモンという自覚はイリーナにあるが面と向かって言われるのは話が別だ。
「姉様がいるだけで事件が厄介事に昇華する。流石です姉様。姉様が居ないところではこうはなりませんよ。今回もどうせ精霊の宴だろうくらいに思ってた私が甘かったです」
「エディ?貴方私に手伝ってもらいたいのよね?」
もちろんですともとエディはうんうんと頷いているが、その態度はどう見ても尊敬する姉に対するものではないなとイリーナは思うのだった。




