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「どうするか迷ったけれど、やっぱりこういうことは権力者に頼るのが1番よね」
ぽんぽんとパティがイリーナに化粧を施してくれている。
ミーチェは後ろでイリーナの長い髪と格闘中だ。
今日は王都に来た目的の一つである王妃様のお茶会の日だ。
朝から準備のためにミーチェとパティはバタバタしている。
イリーナは大人しくされるがままになるのが仕事である。
「例のバンデラの飴の件ですか?あ、動かないでください」
「そう。私じゃどうしようもないんだもの。国に動いて貰うのが1番だわ」
「そうした方がいいとお嬢様がお考えなら意のままに動けばいいのですわ。あ、ちょっと上向いてください」
幸か不幸かイリーナが飴屋を見つけてからは不審死は起こっていない今のうちに対策を取ってもらえればあの飴を販売中止に出来なかった罪悪感も薄まるはずだ。
「悔しいわ。原因がわかってもそれを説明する手段が無かったんですもの」
「そういう時もありますわ。でもお嬢様にはまだまだ使える手札が残っているじゃありませんか。ふぅ。終わりましたわ」
「私も終わりました!お綺麗ですイリーナ様」
以前に決めた薄水色のAラインのドレスに、髪は綺麗に結い上げて貰った。しっかりと化粧もしてもらってなかなか見れるようにはなっていると思う。
王妃様のお茶会は王宮の中にあるテラスで行われる。
参加者は少数だが、王妃様に覚えめでたい者が集まる集まりだ。
イリーナ以外は全員既婚者というすこし肩身の狭い場所だが、イリーナを貶すような人柄の人も居ないので、イリーナはなんだかんだこのお茶会の時間を楽しんでいる。
「聞きましたわよ。イリーナ様。あのエンディオ・レイトン公爵とお近づきになっているそうじゃないですか」
「まぁ、イリーナ様にもとうとう春が来たのですか?」
「しかもお相手がエンディオ様だなんて」
「もう。私とエンディオ様はそういった関係ではありませんわ」
と言いつつ、内心のイリーナは満更でもなかった。
だが相手はエンディオ・レイトンである。間違ってもこんな所で「預かり知らぬ場で恋人面する厚かましい女」になってはいけないのだ。
「そんな噂をたてられたらエンディオ様にもご迷惑ですわ。私はただ彼の弟子を預かっているだけなのですから」
「まぁまぁそういう事にしておくのね」
さすがは社交界を牛耳るご婦人達である。イリーナの企みなんてお見通しだと言わんばかりである。
「うまくいったらきちんと馴れ初めまで報告してもらいますからね」
そう言うのはこの国の王妃様その人だった。
それから近況報告も兼ねた雑談が行われるのだった。
この場で得られる情報はとても価値のあるものばかりであったが、
お茶会もお開きの時間がやってきた。
ではまたと、散っていく華の中で、イリーナは別室に案内されていた。
後ほどお時間をとっていただきたいと内密に王妃様に伝えていたのだ。
「イリーナから時間を取って欲しいと言われるなんて珍しいこともあるものね」
「そうでしょうか?」
「そうよ。貴女はいつも言いたいことだけ書面で言ってくるじゃない」
確かにそうだったかもしれない。だが、きちんと礼節に則って書面に要件をかいているので、言いたいことだけ言っているという認識は変えていただきたいところだ。
アーライル王妃セレナ様とイリーナは切っても切れない縁で結ばれていた。というのも、セレナ様が王妃に選ばれたのは、王と恋仲であっただけでなくその身に宿すフェニックスの聖印の力があったからだ。
そしてその聖印の力を表面化させたのは他でもないイリーナである。
当時アーライル王ジークベルト様とセレナ様は恋仲ではあったが、セレナ様の生家が落ち目の伯爵家と低い身分であったため、結婚を周囲から猛反対されていた。
当時の2人は駆け落ちを考えるほど追い込まれていたが、そんな中イリーナに聖印を発現させる能力があると分かり、たまたまセレナ様が聖印を発現できる条件を満たしていた。
かくしてフェニックスの聖印持ちとなったセレナ様は聖印持ちであると公表し王妃の座に座ることとなった。
イリーナがセレナ様に可愛がられているのにはこういう背景があったからだ。
なので王も王妃もそれに近しい者たちもイリーナがバケモノ級の力を持っていることを知っているのである。
「それで、今回はどんな厄介事を抱えているの?エンディオ様を落とすのを手伝えばいいのかしら?」
「違います」
こほんと咳払いをして、イリーナは先日あったバンデラの花の危険性と不審死の関係を説いた。




