幻想的オキサイド8
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「何かのヒントにならん事を願って。では私は自室に帰る事にします」
そう言い終えると、白い手紙を僕の手に残して、銀色作家は部屋を後にする。
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して、その手紙をすぐさま開くわけにはいかなかった、特段何か危機意識が働いているとか、そんな特異体質でも無いけれど、ただ手紙というパーソナリティの強い物を勝手に閲覧する事に抵抗があるのだ。
「さてと…じゃあ、次はと」
「ちょい、ちょい、ちょい、ちょい。そんな意味深な手紙を貰ってそれを後回しにするなんてそんな事あって良いわけないじゃん。早く見ようよ」
こいつには、秘するという優しさが無いのか、流石マスコミ志望はちげぇや。
じーっとこちらの手元を見る大学生の視線に耐えかねて、手紙をそっと広げる動作に移る。
視線程度で自分が揺らぐ、己も酷いやつだ。
「えっと…………うわっ」
字を見た途端に、瞬発的にその喉の音が口から発せられた。容赦なく。
『弱座切落様
好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。』
改めて、見て読んでも、うわって感じだ。
愛情が溢れている。他人から、他人への愛は読むに重い。他のどんな手紙の類よりももしかすると、これは読んではいけない呪物なのではないか。
しかし、重ねて言うまでもないが、言わせてもらうが、これは凶悪だな。
「小鳥、お前、これはやり過ぎだぜ」
お前がロリコンなのは少しばかり分かっていたけれど、そのつもりだったけれど、もしかすると想像しうる以上に、異常なのか。
「いや、違う、違うよ。あたしじゃないよ。あたしだって、ロリコンだけれど!」
「ロリコンなんじゃないか!」
「違うよ。あたしはロリコンの中でも、分別のあるロリコン。ある意味でファッションロリコンと言っても過言じゃないよ!」
ファッションロリコン。それで良いのか知らないけれど、その言葉に自分の何かが削がれ落ちないか追求してやりたいけれど、それは後でいいか。緊急事態はまさにこの手の中にある。
「では何か。たまたま、自分と似た趣味思考のロリコンが弱座切落の部屋に、その付近に態々、手紙を落として帰ったって」
「趣味思考が似ていないって言ってるの。どれだけ好きでも、こんな手紙を送ったりしないよ」
ふーん、疑わしい奴。
こいつほどの、つまりはロリを見るや否や、槍のようにロリに襲いかかる奴は見たことが無いんだ。
悪いけれど、僕の経験不足では無いだろうし、一番怪しいのは君です。
「あたしって、京介君から、それほどまでに信用されていないんだね」
「まぁ、信用しているか、信用していないかで言えば、信用したく無い」
「……せめて、信用してないって言ってよ。我が出てるよ、満ち満ちてるよ。あたしはこれ程までに、京介君に信頼を置いているのに」
どれ程までかは知らないけれど、言葉ではそういう。
真剣な表情から繰り出される、清廉とした言葉が耳に這いつくばって、染み入っていく。
真実か、嘘か。この二者択一の判別は難しいけれど、多分嘘。
「嘘って判断しないでよ!なんで、そんな表現してから、勿体ぶって嘘なんだよ?!」
「いや、嘘っぽいから」
「うん、そうだね。嘘っぽかったかも知れないね。だからと言って、信じてとか、更に言えないけれど。あたし達相棒じゃん、右京さん、信じて貰わなければ話がまとまらないでしょ?」
「信じて貰うとは、また似合わず卑下的だな。何か我に献上品でもあるのかえ?」
「献上品って何も無いけれど、こんな山奥で……いや有る、有るよ。『とっておき』があるんだったよ」
「とっておき?」
「ほら、あたしマスコミ志望だからさ、すごい特技というか、すごい技術を一つ持ってるのよ。情報収集の一つ技能だけれど。この場所は、電波が届かないけれど、外部との連絡が断裂しているけれど、およそ弱座切落を目を掻い潜って連絡できるよ」
何だその裏技。早く言えとも思わない程の、突飛な発言というか、それこそ『とっておき』なのだろうが。
連絡が出来るのか、外部と通信。
「通信なんて程の文明的では無いけれど、アナログだけれど、およそ3度の質問なら受け付けてくれるよ」
「どういう仕掛けかなんて事は聞くのは野暮なのか?」
「野暮だね、企業秘密だよ。この言葉、人生で一度は言ってみたいよね」
企業秘密をそれほどまでに言いたいかは人それぞれとしか言えないけれど、企業秘密の一つや、二つある位の企業に属したい気はします。
「企業秘密、企業努力。努力はひた隠しにするのがカッコいいものね。でもでも、努力だから内容は明かさないけれど、質問は高度でも大丈夫。昨今流行りのAIに質問するってわけでも無いし、使うのはあたし達の新聞部ネットワーク」
「超人為的アナログ主義ズムだからね!」
小鳥の在籍する新聞部。何だか、企業的なサイズ感の喋りだけれど、大学のキャンパスにポツリとある範囲の、サークル活動の延長みたいなのですよね。
想像とは違うのか、これをジェネレーションギャップと言うのかな、違うか、違うね。
「出来る限り、向こうに情報を流すのも宜しく無いだろうから、数は調整して欲しいけれど、どうする?『とっておき』使うかい?」
「あぁ、使わせてもらおうか」
信用の代替として確約するのは少しばかり、それこそ信用に値しなそう『とっておき』だけれど、ただで貰えるなら貰う。
ただより性能が高いものは無い、と言うからね。




