第五章 アリーシアの誤算
その後、ティーはセレスティンの指示のもと、税務管理の仕事を手伝うようになった。
エマが休みに入ってから溜まりに溜まった事務処理で、セレスティンと2人夜まで仕事に追われる日々。税務管理表の作成のみならず、領地管理に関わる様々な業務があったが、ティーにとって初めての仕事も、セレスティンは忙しい中でも丁寧に教えてくれた。
あっという間に一週間がたった頃には、ティーもすっかり、セレスティンの補佐業務を一通りこなせるようになっていた。
一方で侍女の仕事には中々関われず、アンヌやマリナたちには申し訳なかったが、彼女たちは嫌な顔一つせず、むしろ笑顔でお茶やお菓子を差し入れて応援してくれる。
そして今日も、15時のティータイムに、マリナが紅茶と焼き菓子を持って来てくれた。
「いつもありがとう。全然手伝えなくてごめんね」
ティーセットを受け取りつつ俯くティーに、マリナは満面の笑みを浮かべて。
「ううん!だってこの仕事はティーにしか出来ないじゃん?こういうのってあれだよ、ほら…そう、適材適所!」
マリナはいたずらっぽくウィンクしてみせ、そっとティーの耳元に顔を寄せる。
「それにさ…私、ぶっちゃけセレン様ってちょっと苦手で。ティーがセレン様に付いてくれて、ほっとしてるんだ」
ひそひそ声でそう打ち明けてから、マリナはぱっと笑顔に戻ると。
「それじゃ、ティーも頑張ってね!」
そう言って、元気に仕事に戻っていくマリナの背中を見送ってから、ティーも静かに部屋に戻るのだった。
「セレン様、お茶をお淹れいたしますね」
ティーセットをダイニングテーブルに置き、ティーが早速準備を始める。
「ああ…やれやれ、今日も気付けばこんな時間か」
セレスティンも仕事の手を止め、ゆっくりと伸びをしながら立ち上がった。
こうして2人でお茶をする時間も、新しい日常になりつつある。
セレスティンが静かに紅茶をすする前で、ティーも焼き菓子を一つ頬張った。
チョコチップ入りの甘いクッキーが、連日の疲れを癒してくれる。
 




