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王子に恋をした村娘  作者: 悠木菓子
◇3章◇

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第132話 縁談



 フィーを客室に案内し、ショールとチェザライを連れたレイフォナーは国王の自室を訪れていた。


「かしこまった席じゃないから。バラック、座って」


 国王は空いている自分の隣をぽんぽんとたたいて、傍にいるバラックを見た。そして向かいのソファーに座っているレイフォナーの後ろに立つ二人に視線を移した。


「ショールとチェザライも」


 バラックが国王の隣に座ったのを見て、ショールはレイフォナーの右側に、チェザライは左側に腰を下ろした。


 ツィアンから自力で戻ってきた二人は一度自宅に戻り、身なりを整えて再び王城にやって来た。この席に呼ばれたのはショールだけだったが、レイフォナーはチェザライにも参加するよう声をかけた。


 父がショールに個人的な話があるのだろうとわかっていたが、自分たち三人は隠し事をする間柄ではない。それに帰還祝いも兼ねた席だと聞いていたため、チェザライがいてもなんの問題もないはずだ。

 だが父はどうやら、チェザライも参加するだろうと予想していたらしい。テーブルには五つのグラスが置かれているのだ。


 国王は自らそれらにワインを注いだ。そして全員がグラスを手にしたことを確認し、号令をかけた。


「此度の件、みなよく頑張ってくれた。レイフォナーたちの帰還に、乾杯」

「乾杯!」


 五人がグラスを合わせると、美しい音色が響いた。ワインを口に含んだ彼らはみな、恍惚とした表情だ。


「はぁ〜、今宵の酒は格別にうまいな!」

「またこうして酒を飲めるとは・・・美味しいです」

「祝い酒サイコー!」

「こんな上等なワイン久しぶり〜!」

「うむ、よい出来ですな」


 国王とバラックはワインについて語り始め、レイフォナーはそれが終わるのを待って早速本題に入った。


「父上、ショールになんのご用が?」

「うん、実はね。ショールに縁談の話があるんだ」

「えっ!?」


 バラック以外の三人は、予想もしていなかった内容に目を丸くした。


「俺に縁談ですか!?」

「そうなんだよ。家柄、器量、容姿、どれも素晴らしいお嬢さんでね。ずっとショールを慕ってたんだって」

「なんて物好きな・・・」

 と呟いたのはチェザライだ。


 それが聞こえていたショールはレイフォナーの背中側から手を伸ばし、チェザライの頭を叩いた。


「いたぁーい!」

「父上が縁談を持ってくるということは、当然・・・貴族の令嬢ですよね?」


 国王はグラスを口に運んでから答えた。


「いや、他国の王族」

「王族!?」

 とレイフォナーたち三人は同時に声を上げた。

「待ってください、陛下!俺、ほぼ平民ですよ!?王族を嫁になんてできません!」


 背もたれに寄りかかり足を組んだ国王は、反論するショールに思惑たっぷりな笑みを向けた。それはもう、謀略を企て、権力を振りかざす悪王の如く。


「ショールさぁ、レイフォナーを守れなかったよねぇ?護衛なのに転移を阻止できなかったよねぇ?無事に戻ってきたからよかったものの、下手すれば私は息子も孫もアンジュも失うところだった」

「うっ・・・はい」


 国王に痛いところを突かれ、レイフォナーの護衛失格という烙印を押された気分のショールは、完全に戦意喪失してしまった。


「ある程度の責任をとってもらわないとねぇ?」

「そう・・・っすね」

「縁談、引き受けてくれない?ちなみに、チェザライは減給五か月ね」

「ええぇぇー!!そんなぁ〜」

「俺も減給――」

「縁談、引き受けてくれるよね?」

 ショールは、俺も減給でいいっす、と言い切る前に国王に遮られてしまった。


 国王はショールに恋人も婚約者も、好いた相手もいないことを調査済みだ。


 そんなショールは結婚に踏み出せず悩んでいる。といっても国王からの縁談話など断れるはずもないのだが。これまで恋愛経験もなければ結婚を考えたこともなく、ましてや相手が王族なんて身分が違いすぎるのだ。


 だがショールには一応、貴族の血が流れている。父親・マイルは伯爵家の次男で、騎士団に入るため実家を出たのち平民の娘と恋愛結婚をした。そのため貴族のような生活ではなかったが、一般的な平民より裕福な家庭であった。


「お相手の王女は、大層お前に惚れ込んでおられるぞ。怖いくらいにな」

 と言ったバラックは、この件についてすべて知っているようだ。

「そう、その()すごいんだよ」


 国王は、なかなか衝撃的な話を始めた。


 なんとその王女は、何年も前にメアソーグ王城に侍女を送り込み、ショールの情報を手紙で報告させていたという。本人がそう申し出たそうだ。国王は、「セキュリティを強化しないとねぇ」と改まったが、その王女を気に入っている様子だ。


 レイフォナーは性格に難ありの姫君という印象を受け、ショールはどう思ったのだろうと横目で見た。


「こえぇぇー・・・」


 ショールは鳥肌が立っているのか、腕をさすっている。個人情報がだだ漏れだったのだから、当然の反応だ。


「なかなか粘着質・・・いえ、行動力のある姫君ですね。一体、どこのどなたなんです?」


 国王はテーブルに手を伸ばした。いくつかのつまみや軽食が用意されており、数種類のナッツが混ぜ合わさった中からアーモンドを手に取り、それを見つめたまま答えた。


「バッジャキラ王国のラハリル王女だよ」

「は?」


 と声を揃えたレイフォナーたち三人は、聞き間違いだろうか、と困惑している。


 国王が手にしているアーモンドは国産で大粒だ。これまで小ぶりなものしか収穫できなかったが、アンジュが光の魔力を開花させた頃からよく育つようになった。国王はアーモンドが好きなのだ。


「うん、美味い」

 アーモンドを口にした国王は、大きさも味も食感も大満足といった顔だ。

「あの・・・父上?話が見えませんが・・・」


 ラハリルはレイフォナーに嫁ぐことが決まっている。バッジャキラから光剣を譲り受ける条件に、ラハリルとの婚姻を突きつけられた。今月中には両国民に発表する予定だ。


「お前がいない間に、バッジャキラ王宮に突撃訪問しちゃったよ」

 アーモンドをもう一粒口にした国王は、バラックと目を見合わせた。



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