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王子に恋をした村娘  作者: 悠木菓子
◇3章◇

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131/154

第131話 帰国②



「おかえりなさいませ」


 レイフォナーが執務室に入ると、サンラマゼルが平常通りの声と姿勢で頭を下げた。


 その言葉をかけられたのは今日だけで何度目だろうか。この部屋にたどり着くまでに、すれ違った使用人たちからも声をかけられた。いつもはただの形式的な挨拶にすぎないが、今日はその言葉がやけに胸に沁みる。


「心配かけたな」

「まったくです。こんなこと、二度とごめんですよ」

 と言った声にはどことなく怒りがこもっており、レイフォナーは苦笑いをした。

「ああ、私もだ」


 執務席に腰を下ろすと、不思議な気分になった。毎日この椅子に座ることは王子としての義務であり、好きでも嫌いでもない。だが一週間ぶりに座ってみると、気分が安らぐような心地だ。毎日代わり映えしない生活を送れることは、こんなにもありがたく感じるのか。

 さらには、どれだけ仕事が溜まっているのだろうと思っていただけに、存外スッキリしている机にも安堵した。


「非常事態でしたので、私が執務を代行させていただきました」

 サンラマゼルの目の下には、うっすらと隈ができている。

「お前、私より執務に向いてるんじゃないか?」

「まさか。戻られたばかりですが早速」

 と言って、レイフォナーに書類を渡した。


 それは、サンラマゼルがレイフォナー不在時に処理した案件をまとめたものだ。そんな彼は一連の出来事に触れることなく一つずつ説明を始めた。バラックからすべて聞いているからだ。

 その間にも、文官たちが「おかえりなさいませ」と笑顔で書類を運んでくる。


 レイフォナーは執務に取りかかった。まだ明るい時間ではあったが、疲れが溜まっているサンラマゼルを帰らせ、その後アンジュと夕食をともにし、また執務に戻った。




「あいつら、本当に今日中に帰ってくるのか・・・?」

 レイフォナーは時計に視線を送った。


 あと三時間もすれば日付が変わってしまう。父にショールを連れて部屋に来るよう言われているが、そろそろ自分だけでも向かうべきだろうか。


 などと考えていると、ショールとチェザライがツィアンから帰ってきた。


「なーんで俺たちは自力で戻ってこなきゃいけなかったんだよ」

「間に合ったぁ〜!ただいま、レイくん」

「本当に帰ってきた・・・どうやって?」


 ツィアンから今日中に帰ってくるなど、バラックの転移でもないかぎり不可能だ。それなのに彼らは自力で、たった半日で帰ってきた。


「ああ、チェザライ(こいつ)の魔法すごくて・・・」

 と言ったショールの脇腹に、チェザライは拳を叩き込んだ。


 ショールは脇腹に手を当ててその場に座り込み、チェザライを見上げて睨んだ。


「な、何しやがる・・・っ」

 チェザライはショールを無視して、レイフォナーに笑顔を向けた。

「めっちゃ飛ばして帰ってきたんだよ〜」

「てめぇ・・・」

 

 チェザライは、まだ何か言いたそうなショールの尻を蹴った。その反動でショールは前のめりになり、床に顔面を強打した。


「こんなにはやく帰ってこれるなんて、自分でもビックリ」

「そ、そうか・・・???」


 レイフォナーは床に突っ伏して動かないショールを不憫に思いながら、チェザライの後ろの人物に目を向けた。それは、元メアソーグ国家魔法士のフィーだ。

 そんな彼は、「余計なこと言わないでね?」とでも言いたげなチェザライの視線から逃れようと、キョロキョロと執務室を見渡している。


「こ、この感じ、懐かしー」

「フィー、来てくれたのだな。感謝する」

「一国の王子様に関わってしまいましたからね。なんでも素直に話すんで、拷問はご勘弁ください」

「ははっ、恩人にそんなことはしない」


 フィーに来てもらったのは、自分とアンジュを発見したときの状況を父やバラック、大臣たちに直接説明してもらうためだ。


「客人として迎えたいのだが・・・なかには難色を示す者もいるだろう」

「まあ、そうでしょうね」


 かつて馴染みのあった者が十五年もメアソーグと関係を断っていたにもかかわらず、偶然とはいえレイフォナーたちを助けたのだ。クランツの間者だと怪しまれても仕方がない。



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