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風俗画廊  作者: 南清璽
9/10

手に包丁を

「いつも自死するつもりでいました。殺し終えた後に。けど…」

「けど?」

「けど、果たせませんでした。それもこれも自己性愛の結果です。」

男のこの言葉に分別なく納得しました。そうして男は続けました。

「女なのに身体が男であることに苦しみ続けていました。その苦しみのため、自身の陰茎を切断しました。その後、性転換手術を受けたのです。でも、外観は女になったものの、何故か満たされないという想いは払拭仕切れずにいました。」

 しみじみとした語り方でした。ただ、こんな具合に語りながらもふとしたことで激情するタイプの御仁だと見て取りました。だから、自らの陰茎を切断するなどできたのだと考えたのです。むしろ、こうして穏やかに話していることが、そうしたことへの予兆だと思えたのです。だとすればこのまま何も話さず黙しているのが賢明であろうと。そして、蔑むものでも、無関心でも、興味を示すものでもないという程でいようと思いました。

「そういった満たされない想いはやがて厭世感へ変わっていきました。私は自らの死顔を想像しました。そうして描いてみました。不思議とたおやかな表情をしたものになりました。」

 男は、そう話しつつ席を立ちました。それを認めるや次の瞬間思わず身構えてしまいました。でも、一瞥もせず、ショーウィンドウへと行き、そこに掲げた絵を取り外し私の目の前に置いたのです。丸いテーブルの上です。二人が対峙し、会話を交わしているまさにそのテーブルの上に。ただ、唯一これだけが、調度品として私のセンスに適う感じがしました。それも、白い塗装が程よく薄っすらと木目が浮かび上がらせていたからでしょう。アンティーク調?そういえる向きにありました。

「あなたが買おうとしたこの絵こそが自分の死顔を想像して描いたものです。だから、あなたがこの絵を求めたときふと過ぎったです。一種のインスピレーションとして。あなたこそが私の存在するこの世界に終末をもたらしてくれると。もちろん、それは瓦解するという向きのものでした。私を覆っている全ての事象が崩れ落ちるという具合に。思えば魂を売ったのです。邪悪なるもう一つの化身に。意識の底で女性になろうと。女性であるから男性を異性として愛おしく想える様になろうと。でも、厭世感は拭えないままでした。私にとってそれは歪でした。」

 男は不意に立ち上がり、レジ台へ向かいました。相当に自分の世界に入り込んでいたのです。何とそこの引出しから出刃包丁を取り出しました。

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