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風俗画廊  作者: 南清璽
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恐ろしい形相で

 不覚にも想像してしまったのです。つまり、男が自分の陰茎を切断する情景を。そして、自身の局所にありえない痛みを感じる次第となったのです。でも、そうなったばかりに男がこのテーブルに近づいていたのを気付かずにいました。既に、私のすぐ側にいました。もちろん、手には包丁を持ったままです。私は椅子を引き男に体を向けました。ただ、男はそんな私を一瞥するでもなく、先ほどの絵に視線を落としていました。そうです、あの日買おうとした絵です。それを黙して見つめていました。でも、突然でした。キャンバスを包丁で切り裂いたのです。

「そう、この絵からよ。これを描いたばかりに。」

 驚くべき光景でした。女性の話言葉になっただけではありませんでした。声も女性の声になっていました。そう、あの日、私を殺害しようとした、完全に女だったときの声です。その為か、記憶が蘇り、同様な現象が生じました。あの有害ハーブに冒され意識が朦朧とした状態です。でも、このままだと危険であることには変わりありません。気を確かに、そう鼓舞し、男でも女でもあるそいつの様子を見ました。

 すると、実に恐ろしい形相で立っていました。しかも、手にある包丁の刃先はこちらを向いていたのです。

「不思議よね。女として男を愛おしく想う様になると、きっとこの人もこの世に生を賜ったばかりに苦しんでいるんだと。だから死にたいって考えているんだと。そうよ、涅槃よ。あなたを安寧に導かないと。」

 私は朦朧としながらもタイミングをはかっていました。私の方へ体を向け相たいした次の瞬間でした。私の腹部めがけ包丁をん突き刺そうとしたのです。私はそれを盾にし、防ぎました。刃は折れ、腕と肩をそこに激しくぶつけたのです。かなりの衝撃でした。何分、二つ折りの例の会議用テーブルでしたから。見ると包丁は床に落ちていました。でも、身の安全が確保されたものでもなかったのです。すかさず、顎に一撃見舞いました。案の定、床に崩れ落ちそのままうつ伏せに倒れました。

 それから暫くして警官が駆けつけてきました。そして、そのままそいつを殺人未遂の現行犯で逮捕しました。もちろん私も警察署に行きました。ただ、できれば翌朝に聴取をしてもらえればと願い出ました。幸い、今回の捜査官も昨年、私の現住建造物放火被疑事件を担当してくれた方でした。全くの自己都合で心苦しかったのですが、快く応諾してくれました。もっとも嫌疑不十分で不起訴となった私を、一旦は緊急逮捕した後ろめたさもあったのでしょう。

 警察署を後にした私が向かったのはやはりあの雑居ビルでした。そして、そこに佇みツィッターを確認しました。すると「どちらかにご案内差し上げましょうか?」と聴いたことのある声がしました。そうです。あの日、私を画廊に連れって下さったご婦人です。

「やあ!」

 そう云ってしまいました。ありえない気さくさです。やはり、一つ重しが取れたからでしょうか。でも、当の彼女は私の顔を覚えていない様です。

「あの日、殺人の舞台になった画廊に案内された者です。」

「ああ!思い出しました。てっきりあなたも!」

  一応は心配してくれてるのだと知りました。でも、その始終を話すつもりはありません。何分、安っぽい英雄劇であるばかりか、犯人が死ぬのを認容し、スプレー缶を火にくめたものですから。結果的に審判者ともとれる行いをとってしまったのです。

「これから行きたい所があるもので。」

 先手を打ちました。でも方便ではありません。先程ツィッターで確認したら、憧れのかの女優さんがママを務めるスナックは開店しているようでした。そのビルのエレベーターに乗ったときゾクゾクとしました。


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