第67話 今年の文化祭は大忙し(その2):朝長慎吾と軽音楽部
【おことわり】
本作は全体的に、軽い下ネタがある程度で、基本的には健全な構成です。
ただし、今回は少々危ないシーンがありますので、苦手な方はブラウザバックをお願いします。
<AI依存度>:
ほぼそのまま使用:5%
AI文をベースに改稿:5%
作者独自の構成・設定・加筆:90%
ほとんど自力で書いてます。AIに書いてもらったのは、〆のちょっとした部分と、後半の方の先輩の煽りぐらいです。それも煽り度を自分で書き換えて高めたんですけどね。まだまだぬるいぞ、ChatGPTくん。
慎吾の回想をはさみつつ、基本的には前回の続きです。なので、66話から読んでくださいね。
文化祭、まあ、学園ものでは定番っちゃ定番ですが、チーアネがバンドに挑戦します。
朝長慎吾は去年の十一月、一部の人から顰蹙を買いながらも、妹の雛灯とともにアネックス久世に入居した。
世界が変わった。南町という最果ての地から、往復三時間かけて通学する必要がなくなったのである。
二人には、『自分の時間』ができたらやってみたかったことがあった。それは、部活に入ることだった。
雛灯は、漫研に入った。今も、部活には顔を出したり出さなかったりだが、継続中である。少なくとも、今度の文化祭には、短編漫画を出稿し、部員全員で持ち寄った同人誌を売る予定である。当然ながら、健全な漫画である。
さて、慎吾はというと、軽音楽部に入った。小学生のうちから、父親のおさがりのギターで遊ぶようになり、高校の入学祝いとして、新品のギターを買ってもらった。しかし、遠距離通学ゆえ部活に入ることはできず、自室で独り、ヘッドホンをつけながらかき鳴らすのみであった。
軽音部にいたこと自体は、当時まだアネックスにいなかった美佳以外は知っていることである。しかし、それと同時に、慎吾が軽音部をたったひと月足らずで退部したこともよく知っている。
これらの話をしているうちに、ぼちぼち料理が運ばれてきていた。
「慎吾くん、軽音部にいたこと、あったのね。ギターが好きだそうだから、入ってないのかしら?って思ったことはあるけど」
唯一、元軽音部であることを知らない美佳がコメントした。
「すぐやめたよね、確か」
千宥も当時を思い出しコメントする。
「あー、そういえば。お前、あんとき確か先輩と……」
今回の件の理由は知らないまでも、健介は軽音部退部の顛末自体は知っているらしかった。
「まあ、その絡みではあるんだよ。お前にはある程度話したけど、話してないこともあるからな。……でも、ちょっと女の子には話しづらいな。すんげえ下世話な話だからな」
慎吾はため息をつく。この中で段違いで高貴な美佳を一瞥する。
「私は別にいいわよ。普通に興味あるわ」
けろりと言う美佳。慎吾は深くため息をつき、ゴーヤーチャンプルーを一口食べ、話し始めた。
以下、慎吾の会話内容である。
軽音楽部の部員は、この当時、六名。慎吾が七人目の部員だった。十一月だったため、すでに三年生は引退済みで、当時二年生の先輩が四名、当時一年生、すなわち慎吾と同学年が二名いた。
同学年の部員の一人、古川璃早は、今でもすれ違えば挨拶ぐらいはする。もう片方の同級生、浦葉介とは、今では目すら合わない。
先輩たちは男女二名ずつだった。ただ、女子の片方は良くも悪くもマイペースで、部活にさほど顔を出さなかったし、慎吾自身が短期間で退部したため、あまり会話もしていない。名前も忘れたが、確かさっちゃんとか呼ばれていた。
問題はもう一人の女子の先輩だった。南里妃愛華。名前は派手だが、一見清楚そうな、長い黒髪の似合う女子生徒だった。
なお、男子の先輩は中尾拓真と富永という。富永の下の名前は忘れた。
入部から少し経過した十一月下旬のある日のことである。この頃、春若栄久高校では、インフルエンザが軽く流行していて、欠席者が増えていた。もともとあまり来ないさっちゃんはさておき、富永と浦が、熱が出たとか、のどが痛いとか言い始めたため、部長の中尾の判断で、この日の部活は中止となったのだ。もっとも、二人ともインフルエンザもコロナも陰性だったそうなのだが。
よし、部活ないなら帰るか。そう思ったそばから、慎吾のスマホがまた震えた。通知欄に「ひめか」と書いてあった。
『しんごくん! この後用があるんだけど、時間ある?』
ひめか先輩が俺に? 慎吾は首をかしげる。用ってなんだ? シメられるのか? もしかして、告白か? いやいやまさか。恐ろしさ半分、期待半分で返事する。
『何すか?w いいですけど。どこに来たらいいですか? 部室?』
返事は割とすぐに来た。
『うん。部室で待ってます』
敬語。この返事にちょっと「不安」の方が勝ってきた。でもまあ、行くといったからには仕方ない。ひとまず、『了解です』とスタンプを返した。
部室棟。軽音楽部の部室前。ぼちぼち通いなれたこの部屋のドアには、カレンダーかポスターらしきものがかけられていて、中の様子がうかがえない。……こんなのあったか?
首を傾げつつ、ドアに手をかける。ノックすべきか迷ってしまったが、もともと自分の部活の部室だし、行くことも予告済みなので、ノックするのはやめて、そのまま入室した。
「先輩、どこすか? ……あ」
一瞬見回すと、部屋の奥には二脚の椅子が並べられていて、その片方に妃愛華が座っていた。慎吾は妃愛華に駆け寄る。
「先輩、どうしたんすか? 説教?」
「え? なんで? 違うよー。慎吾くん、私に怒られるって思ってたの?」
そう笑い飛ばす妃愛華。慎吾が妃愛華を見て首をかしげる。制服を着ているはずなのに、どことなく違和感があった。普通の制服と何か違うぞ? ……あ。リボンをしていない。そして、ブラウスのボタンが上三つほど開いており、胸元がはだけている。思えば、憧れの養護教諭・泉先生や、少し前に「ご近所」になった茉衣子ほどではないが、妃愛華も胸が大きいと入部当時から思っていた。なんだこれ。こんなフリーパスで見せてもらえるのか……? それなりに女子には慣れているはずの慎吾だが、どぎまぎし始めた。それを見て、妃愛華はくすっと笑う。
「立ったままもなんだし、座りなよ」
妃愛華は隣の椅子を叩く。
「うす。……失礼します」
ちょこんと姿勢よく腰掛ける。
「そこも立ってきたところだし……?」
挑発的な妃愛華のささやきに、慎吾はぎょっとする。
「なんなんすか、え、何しに俺呼んだん?」
慎吾は動揺し始めた。
「別にー。退屈だったから。ほら、トミーも浦ちゃんも休んでるし、拓真くんもすぐに帰っちゃったからさ。……さっちゃんは元々あんま来ないし?」
「璃早ちゃんは?」
「もう期末二週間前じゃん。りさちー、テストが近づくと、部活から遠のくのよ。LINE来てから、ガッツポーズして帰ったと思うよ」
「……で、残ったのが俺? てか、用って?」
「そうしないと来てくれないって思っちゃってねえ。だから、説教って勘違いしてるの、私的にはめっちゃ狙い通り」
Vサインをする妃愛華。
慎吾は、浮足立っていた。美人だと思っていた先輩の色仕掛け。どうやら、最初から掌で転がされていたようだ。うーむ、このまま転がされるべきなのか。千載一遇のチャンスにも思える。ただ、嬉しいはずなのに、どうにも妙だった。そして、素直な感想として――清楚そうに見えて、ずいぶん大胆な人である。
「その後、どうなったの……?」
なぜか美佳が興味津々である。
「いや、まあ、こんなレストランでする話じゃねえよ」
慎吾はジューシーをかきこみつつ、焦ったような声で言う。
「あんまり、聞いてもいいことないと思うけど?」
雛灯がため息をつきつつ言う。この後、妃愛華とどこまで行ったかは、雛灯と健介、そして実は現彼女の茉衣子も知っている。
「このひめかって先輩だけどさ、松学なんだよ。あたしらの一個上でさ」
茉衣子もため息をつきつつ言い、同じ松が丘学園中学校出身の健介もうなずく。
「中学ん時から有名なビッチだったんだよ。一年しかかぶってねえあたしでも知ってるもん。このアホは、見事に引っかかったわけよ。いいんだけどな? あたしと付き合い始める前のことだし」
茉衣子が慎吾を小突く。いろいろと察したようで、千宥は苦笑し、美佳はにやにやしている。
「で? その、浦くんだったっけ? 今も仲が悪いの、ひめか先輩をとったから、とかそういう話なの?」
千宥が尋ねる。
「いや、そうじゃないんだ」
慎吾がため息をつく。
随分前の先輩が置いていったというソファ。二人で寝転ぶには狭いが、逆にいえば、寝転べるのはここしかなかった。
慎吾は、思いがけずやってきた「その時」の余韻の中にいた。
その時だった。部室のドアが急に開いた。
現れたのは、部長の中尾だった。後で知ったが、忘れ物を取りに来たらしかった。
「ひめか?! お前、何してんだ。え、誰だよ、それ。……慎吾か? お前何やってんだ」
「先輩? すいません。ちょっと、つい」
慎吾は動揺した。だが、別に、先輩に言い寄られて、ついそうしただけだ。自分はフリーだし、一つ上の先輩とそういう関係になること自体、別に悪いことではない。そうだな、部室でしちゃったことだけは謝るか。
「場所間違ったのは、すいませ」
慎吾は謝罪を言い終える前に、中尾にぶん殴られた。
「え? あ、は、何すか?」
「お前、誰と何したか、わかってんのか?!」
軽音部の部長にしては穏やかな性格をしていると思っていた中尾が、カンカンに怒っている。話が見えない。
「はあ? ひめか先輩と、したんですけど。何すか? 部内恋愛禁止とかすか? 聞いた覚えないけど」
「何言ってんだお前! 誰の女と何したってんだよ」
「……誰のすか。知らねっすよ」
この時点で、中尾が何を言いたいかはわかってきてはいたが、本当に知らない。まず、言い寄ってきたのは妃愛華だ。
「しらばっくれてんなよ。ひめかが俺の女だって、知っててやってんだろ」
「いや、マジ知らんすけど。先輩が誘ってきたんすよ」
「適当なこと抜かしてんじゃねえよ。ひめかのせいにすんなよ」
よくわからないが、どうやら、今、この男に冷静に状況を説明しても、聞き入れてもらえないのだろう。慎吾は悟った。
慎吾が寝取った。たぶんそれ以外の答えを、この男は一切受け入れないだろう。かくなる上は――
「そっすか。わかりました。どうせ俺が悪いです。あざした。お幸せに」
逃げるのみだった。
一気に空気が悪くなった。話を聞く側の反応も、先ほどまでとは変わっていた。妃愛華とごたごたあって退部したことは知っていたが、てっきり単に振られたからだと思っていた健介、退部自体は知っていたがそういう騒動があったのは知らなかった千宥、そもそも軽音部の件を一切知らなかった美佳、ほぼ全部を知っていた茉衣子と雛灯で、受けた衝撃にはかなりの差があった。
「その後、どうなったの?」
妃愛華とのひと時までは笑顔で聞いていた美佳が、顔をこわばらせつつ聞く。
「まあ、秒で部活LINEは抜けて、翌日、もう中尾とかひめかには会わずに、顧問の馬場に退部届を出しに行ったよ」
すでに食べ終えた慎吾が、頬杖をつきつつ言う。
「その後は、何も接触はなし? ほかの部員とは? ……じゃあ、浦くんとは」
千宥が、先ほどした質問を改めてぶつける。
「ああ。もう絶縁だな。当事者二名はもちろん、浦は中尾に心酔してるから、先輩に喧嘩売ったあたおか認定よ。富永さんも挨拶ぐらいはするが、話すのは避けてる感じだな。璃早ちゃんだけは、ちょっと心配してくれた」
古川璃早は、この場の面々とは同級生だが、去年は一組、今年は三組で、出身も菊水寺中学校である。したがって、慎吾を除き、誰とも面識がない。
「なんて?」
茉衣子もその辺のことは知らないらしく、尋ねた。
「急にLINE抜けたから、最初、特に何も知らず、『急にどうしたの?』って次の日、朝一で声かけてくれた。まあ、中尾とかひめかとトラブったからいられなくなったって。たぶん、部内全体的に俺のこと敵認定だから、近づかんがいいぞ、って言った」
「じゃあ、その子ともそれっきりか?」
今度は健介が聞く。
「まあ、基本は没交渉。ただ、事件の顛末を中尾づてに聞いたらしいけど、あの子もひめかの股の緩さは知ってるらしくてな。どうやら、俺がハメられたの、なんとなく察してるらしい。いつだったかなあ。まあ、今年に入ってだけど、まだ二人は続いてるけど、ひめかの方は、あちこちで男食い荒らしてるらしい、と聞いたよ。校内で致してんのをめっかったバカは俺ぐらいらしいがな」
慎吾は自嘲気味に言う。
「中尾は中尾でバカというか天然でな。今でも俺が寝取ったと思ってるばかりか、浮気されてんの、知らないっぽい。……ある意味じゃ、あいつも被害者じゃあるんだろうけどな。まあ、俺はもうこうして幸せだから、敢えてあいつらに何もせんけど、いつか何か起きればいいのに、とは思ってるよ」
また、一気に空気が重くなる。
「最初に話聞いた時から、ずっと思ってんだけどさ」
雛灯が口を開く。
「なんだ?」
「あんたさ、入部して、中尾先輩とひめか先輩が付き合ってるの、気づいてなかったの?」
「ああ……。璃早ちゃんに聞いたんだがな、それもひめかの常套手段だと」
「……?」
雛灯が首をかしげる。
「中尾には、『私たちが付き合ってるの、知られるの恥ずかしいから、慣れるまで内緒にしといて』と言うらしい。で、フリーのふりをして食い散らかすのが、あいつの手口なんだと。……あんま言わすな。俺、それに引っかかったんだから」
慎吾はため息をつく。そして、ごまかすように続けた。
「おう、みんな食い終わったんだろ。スタジオの予約の時間、ぼちぼちだから、行こうや」
慎吾は席を立った。
いつものスタジオに入り、バンドの全体練習を行った。いつもの――とはいっても、ここで全員そろって練習したのは二日前が久々だった。その前となると七月まで遡る。美佳が帰省してからは、人数が欠けた状態で七月いっぱいまでここで練習していたが、その後、ほとんどが帰省したため、全体練習もへったくれもない状態になっていたのだ。
このバンドは、元軽音部の慎吾がギターをやる前提でパート分けが行われた。ピアノ歴十三年の美佳がキーボード、以前カラオケに行ったときに上手だったこと、なおかつ美佳以外で最も華がある千宥がボーカル、というところまではすんなり決まった。
残る三人は、全員が楽器未経験だった。慎吾の采配の結果、雛灯は兄に直接指導を受ける形で二人目のギター、健介がベース、茉衣子がドラムに決まった。
曲は、一曲のみを演奏する前提で、慎吾が作詞作曲して、かねてより温めていた楽曲を、今回のバンドのために慎吾自身が少々アレンジして演奏することになった。また、歌詞は、メンバーの目に触れて以降、多少の変動はあった。
慎吾のギターは自前、雛灯のギターと健介のベースは朝長家にあった父・大輔のお古、ドラムは練習ではこのスタジオのものを、本番では学校のものを使う。練習用の電子ドラムはなんと、玉井絢那の家にあったため、借りたそうだ。というのも、玉井の父・雅仁が大学時代にバンド経験があり、ドラムをやっていたそうなのだ。今、玉井家にさすがに本物のドラムセットはないらしいが、なんと練習にも付き合ってくれたらしい。
健介は、一度か二度、ギターとベースと両方経験がある大輔に練習をつけてもらったが、基本的には動画サイトとかを見ながら勉強している。そして、初心者の健介でも耐えられるように、曲自体、ベースパートは割と単純な構成にしている。これは、ドラムパートも同様なのではあるが。
数時間の練習。日に日に形になっている気はする。慎吾はにんまりとする。
「よしよし。みんな、いい感じになってきてるぞ」
満足そうな慎吾の声に、くえ~ぶ~を出る直前に重かった空気は、かなり良くなった。
「がんばって、見返してやろうぜ」
「……誰をだよ?」
健介が冷ややかな視線で慎吾を見る。
「あ、そうだな……」
うろたえる慎吾に、健介はため息をつく。どうせ茉衣子と雛灯は知っているのだろうが、なんとなく、なぜ慎吾がバンドをやりたいかが見えてきた。
スタジオを出て、全員で宮川電停へと向かう。
「慎吾、お前さ」
「なんだよ」
道中で、健介は慎吾に声をかける。
「もしかしなくても、今回の件、軽音部と、なんかあったろ」
「……」
「あったぞ。珍しいよな、こいつがここまでムキになるの。それも込みで面白かったから、あたしは乗ってあげたんだけど?」
黙る慎吾の代わりに、茉衣子が口を挟む。
「やっぱりお前は知ってたんだな」
「ああ。お前が怒るのも、まあわからんくもない」
茉衣子がうんうんとうなずく。
「……別に怒ってねえよ。今更バンド抜けるとかあるわけじゃないから、最後まで聞かせろよってことだよ。千宥も美佳さんも、やっぱり知らないわけだろ」
「そうね。……聞くのが怖くなってきたけど」
「でも、知っておいたほうがいい気はする」
美佳と千宥がそれぞれ答える。
「こっから先は、さっきみたいな重たい話じゃねえよ」
ここで慎吾自身が口を開いた。
宮川電停のホームに「7 春若・旭里」という行き先を掲げた電車が入る。この宮川で降りる客が多く、何人かが座れる程度のスペースが空いた。
「まあ、中で話そうや」
話は、先々月――七月のことになる。
文化祭で、軽音部はステージイベントで演奏を披露するのが昔から恒例であった。まあ、当然といえば当然である。十年ぐらい前の時点では、軽音部だけで三、四組のバンドが出演していた状態だった。
コロナ禍を境に、軽音部の部員は激減した。その後も以前の人数には戻らず、去年やおととしは五、六名で一つのバンドを組む状態だった。おととしは、この一つのバンドがツーステージやったことから、軽音部員が文化祭で、あまりほかのことができなかったらしい。このため、軽音部以外の生徒からも、出演バンドを募るようになったそうだ。去年は、二組ほど出たらしい。
今年、軽音部には新入部員が三名入り、部員は九名になった。よって、二バンド体制になったそうだが、それでも、バンド募集はかけられた。実行委員会の都合上、募集が七月にかけられ、〆切は終業式の何日か前だった。
慎吾はこの当時、あまり気にも留めていなかった。
正直、自分の演奏でステージに立つのは魅力的だ。だが、そうなると、「あいつら」と顔を合わせるのは避けられないだろう。
そして、何よりも、組む仲間がいない。たぶん、自分の周りに楽器ができるやつがいない。それは慎吾自身、よくわかっていた。
ただ、それでも未練たらしく、掲示板をぼーっと眺めていたのがいけなかった。
ふと左に気配を感じた。はっとした。この距離で見たのは、久しぶりだった。
「中尾……先輩」
「何やってんだ、お前。出たいのかよ」
「別に。先輩と同じステージにあがりてえとか、思ってねえっす。……ひめか先輩とは、順調っすか?」
一応、これは聞いておきたかった。
「別れててほしかったか? 残念でした~。順調だよ」
馬鹿にするように顔をゆがめた中尾だが、慎吾はあまり不快にも感じなかった。だまされ続けてるんだな。むしろつい口元が緩む。
しかし、挑発が効かなかったからか、ほどなく、中尾がため息をついた。
「お前もさあ、別に今更いいんじゃね? なんか、派手だけどかわいい彼女捕まえてるし。今更何だってんだよ」
茉衣子のことだろう。派手なのは、お前の彼女の下半身だがな、とは言わないでおいてあげた。
「別に? 興味本位っすよ。俺のせいで別れた、とかなったら、末代まで呪われそうだし。安心したっす」
慎吾も、憐れみを込めた笑みで応酬する。
「ふーん。……なんかさっきから、めっちゃ掲示板見てるけど、出たいん?」
「は?」
そこはかとなく感じる侮蔑的な視線に慎吾は顔をしかめる。
「お前、ギターはまだ弾いてんだろ?」
「弾いてたら、なんなん」
「なら出りゃいいじゃん、学祭ライブ」
中尾はそう言ってから、わざとらしく、何かに気づいたように笑った。
「……ああ、悪い。無理か〜」
「何がっすか」
「お前、組む相手いねえもんな」
「……」
「ギター一人じゃバンドになんねえし。軽音辞めてから、そういう仲間もいねえんだろ? まあ、客席から見てろよ。今年、軽音部は二組出るから。……じゃ、せいぜい寂しい文化祭を過ごすといいさ。じゃな」
中尾は去っていった。慎吾は舌打ちをする。嫌な奴だ。あの「騒動」までは微塵も感じたことなかったのに。
「……別に、出たいなんて言ってねえけどな」
そうつぶやき、ポスターを改めて見る。募集の〆切が書いてある。あと三日ほどだ。
「……誰が客席から見てろ、だよ」
「……まあ、そういうわけよ」
「ふーん?」
健介は冷ややかな目で慎吾を見る。そして、ここから先はもう、健介たちも知っていることだ。
七月のその日の夕方、チーアネのLINEグループが動いた。健介はスマホの通知に気づいた。
『お前ら! バンドやろうぜ!』
健介はため息をついた。また、茉衣子が妙な思い付きを起こしたものだと思った。文面自体も茉衣子が書きそうなもので、違和感はなかった。しかし、よく見ると、名前が『Shingo Tomonaga』になっていた。慎吾かよ。
でも、よく考えたら、バンドをやりたがるのは、確かに慎吾の方だろう。
さて、茉衣子が「思い付き」をした場合、たいてい、事前に慎吾に、そして芋づる式に雛灯にも話が行くものである。今回もその形で茉衣子と雛灯からは返事が来るのかと思いきや、そうではなかった。
例によって、健介はいったん既読をつけずスマホを閉じた。
約五分。通知が鳴った。誰だ? 茉衣子か? ひなちゃんか? 健介はスマホを確認した。
新宮領美佳『はい! 私、ピアノやってるので、キーボードできます! でも、こういう形で演奏は...』
美佳さんかい。そして、例によって、美佳の返信が長く、通知欄には表示しきれていなかった。しかし、このような催しに、どうかすると一番前のめりなこともある美佳は、今や健介よりアネックスに溶け込んでいるかもしれない。
Shingo Tomonaga『美佳ちゃん、器用だから大丈夫よ。今、茉衣子とひなはOKもらった。健介...』
と言いながら、返信をよこさない二人。もしかすると、非常にしぶしぶなのかもしれない。健介は苦笑しつつ文面を読むと、自分が名指しされていることに気づき、ぎょっとする。こいつ、俺を巻き込もうとしている。
はあ。ため息をつき、LINEを開く。
『...にちひろちゃんは特に参加をお願いしたい。つぐみちゃん玉ちゃんはどうする?』
本格的に名指しで巻き込まれている。
新宮領美佳『千宥さん! やりましょうよ』
やはり、美佳が一番前のめりなのは、千宥に対してのようだ。どこまでもぶれない。
返事はない。どうしようか。まあ、名指しされたからなあ。
樋口健介『俺、何も楽器できないぞ』
Shingo Tomonaga『だから2か月あるんじゃねえか。文化祭でバンドやんだよ。1曲仕上げれば十分だぞ。ちな茉衣子ひなも初心者やで』
あの二人、本当にOKしたのか……? 健介は首をかしげる。
古波蔵茉衣子『巻き込まれるときは一緒だぞ。健介。ちひろはボーカル! 歌うまいもんな!』
茉衣子は普通に受け入れていた。そして、千宥だけではなく、みんな等しく巻き込みたがる茉衣子も、やはりどこまでもぶれない。
ともながひなひ『私と健ちゃんは目立たないパートに置くつもりみたいよ。やるだけやってみよ』
ああもう。これは逃げられないパターンだ。健介はそろそろ腹を据えた。
樋口健介『わかった。慎吾がセッティングしてくれるんなら、ひとまず乗っかる』
ほどなく、千宥からも返信が来た。
杠千宥『みんながそこまで言うなら、やるだけやってみます。でも、超あがり症の二生は勘弁してあげてください』
結果から言えば、二生は千宥の「代返」のみで一切会話には加わらず、既読すらつけなかった玉井絢那は本当に気づいていなかったのか、翌朝、『あやなは応援してるね』という返事だけくれた。
そして、全員の意向を確認し終えた慎吾は、その日のうちに出場届を実行委員に出したらしい。バンド名は、特に相談はなかったが、事後に明かされた名前が「Team☆ANNEX」だったため、結局は、誰も大して文句を言わなかったという。
一か月半前のやり取りを思い出し、ため息が自然と出てくる。
色々と考え事をしていて、雑談に適当に相槌を打っているうちに、久世栄久校前電停に降り立った。六人は残りわずかな家路を歩き始めた。
考え事は続く。当初はまるで乗り気ではなかったのに、いつの間にか案外形になってきた。それはまあ、よかったと思う。ただ、今後もこうやって巻き込まれていくのだろうか?とも思う。
「まあ、いいんだけど」
健介は独りつぶやく。そして、ため息をつく。
「なんだ、健介。まだなんかあんのか? やめるのか? 脱退か?」
茉衣子が眉をひそめる。
「やめねえよ」
「そんな複雑な演奏はしてねえけど、今、一人しかいねえベースに辞められるのは困るからな」
慎吾が笑い飛ばす。
「だから違うって言ってんだろ」
「じゃあ、ギター二人いるから、私、やめちゃおっかな」
今度は雛灯まで口をはさむ。
「おう、やめろやめろ。ギターは俺が二人分やっとくべ」
「ちょっと!」
雛灯は冗談をさらに冗談で返され、兄に文句を言う。
「なになに? 脱退宣言がブームなの? じゃあ、私が辞めちゃおうかしら」
今度は美佳が面白そうに手を挙げる。
「それだけは勘弁してください」
慎吾が深々と頭を下げる。
「やだもう、必死じゃない。そろそろ私の冗談にも慣れていい頃だと思うんですけど?」
「美佳ちゃんには、もうマジレスで返すという、アレだよ」
「わかりにくいわよ!」
こうして巻き込まれているようでも、自分の言動が話の発端になったりもする。誰かが何かを始めれば、なんだかんだで他の連中も放ってはおかない。良くも悪くも、よくできたチームだ。健介は最近特にそう思う。
アネックス久世に到着した。
「じゃ、あと半月な。今度の土曜が次の練習だから、さらっとけよ」
慎吾の音頭で解散となった。共用廊下、一階の奥まで健介と茉衣子の二人だけで歩く。
「珍しいな、お前が巻き込まれポジションって」
何かあれば「また茉衣子か」と思う程度には、茉衣子は巻き込むポジションだった。
「ああ、絢那のクリスマス会以来のな」
「なつい……。迷惑だった?」
「迷惑だよ。あたしもドラムとか叩いたことなかったし」
茉衣子は苦笑する。
「いつもはお前が慎吾のポジションだけどな」
「でも、あたしは、今は楽しいぞ。お前は、どうだ?」
「まあ、なんだかんだ、面白いよ。アネックス来て以来、こんなんばっかだけど、まあ、飽きはしないな」
「だろ。あたしは、面白えと思うから、お前らを巻き込むんだよ。お前もなんか面白そうなことあったら、巻き込んでみろよ」
「なんだよ、その妙な体育会系ノリ」
健介が顔をしかめる。
「まあ、気負わずにあたしらは楽しむだけだよ。ヘマしたら慎吾のせいだ。んじゃな」
文化祭まで、あと半月。誰かの意地から始まった六人のバンドは、いつの間にかちゃんと「チーム」になりつつあった。
【次回予告】
さて、決戦の文化祭本番!
次回に続きます。お楽しみに。
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