【第十七話】突然の出来事
「文化祭、どうなるのかな。顧問様としては、今の準備状況をどう思いますか?」
「生徒会長代行様はどう思いますか?」
「悪くはないと思うけど」
「けど?」
「晩餐会の件がやっぱり気になるかなぁ」
結局、会議の結果、晩餐会は自由参加にして予算は文化祭全体予算から持ってくる事になった。最初はケータリングを取り寄せるとか考えていたんだけど、全校生徒が参加の可能性を考えたら無理筋というものだ。
「晩餐会なのに食べ物がないなんてね。名前を変更した方がいいんじゃないの?」
「じゃあ、なんて言うんだ?」
「そんなの。後夜祭でいいじゃない。何の祭りなのかー、って聞かれたらアレだけど。その辺は企画力って感じじゃないの、生徒会長代行さん」
「なんだよ、その投げやり感。しかし、後夜祭って言うからにはなにかないとな。今決まってるのは参加模擬店の投票ランキング発表くらいだしなぁ。そうだ。校庭でキャンプファイヤーなんてどうなんだろう。よく聞くじゃん」
「アニメの世界でしょ?あんなの。んで、その周りでダンスをしたカップルは結ばれるとか言うんでしょ?」
「ぐ……」
「そんなに考え込まなくてもいいのよ。要は参加者が増えれば勝手に盛り上がるんだからら。景品つけてビンゴゲームでもやれば人は集まるわよ」
「うーん」
「なに?もっと派手なのやりたいの?」
「いや」
「あ、やっぱりカップルになれる的な何かが欲しい?」
「話のタネにはなるかなーって。ほら。誘うきっかけになるのは良いかなって」
「純香ちゃんでも誘うの?成功確率は高そうだもんねー。でも今月中に誘ったら浮気だからね」
「そんなんじゃないんだよ。ちょっとクラスのやつに遠回しにそんなことを言われただけで……」
カップルイベント。陰キャには関係のないものだが、陰でそういうのを眺めるだけなら面白い。人間関係の一喜一憂を眺めるだけであれば。
「良いんじゃない?それじゃ、こう言うのはどう?公開告白!みたいなの」
「ド直球だな。舞台に上がって告白するのか?参加者出るのかそれ」
「んー。そうね。ビンゴゲームのカード番号を呼び出して◯◯をしてもらう、的なくじ引きをして貰って……。その中に公開告白とか入れたら良いんじゃないの?」
陰キャにも及ぶ恐ろしいイベントだ。舞台上に上がるだけで多分だけどトラウマになる。それで告白して断られようものなら一生這い上がれない気がする。
「いやいやいや。それは厳しいでしょ。せめて参加者を募ってからにするとかさ」
「じゃあ、景品と引き換え。当たった人は何かやって帰るとか」
「陰キャには厳しい内容だな。仮に豪華賞品が当たってもやることによっては辞退するレベルだ」
「そんなの気軽にやれば良いのに」
「気軽に告白なんてするものじゃないだろ?」
「高校生はそういうナチュラルな感じの方が良いのよ。思ってても言うことなんて、よっぽどのきっかけがないと無いんだから」
と、今朝話していた内容を文化祭実行委員会で話に出したら、青年の主張というテレビ番組のパクリイベントはどうか、という話が出てきた。主張をしたい人の番号をボックスに入れて抽選を行って舞台上に上がってもらう、みたいな感じに。
「どうですか?」
僕が更なる意見を求めて皆に声をかける。
「あの。それって実行委員も参加可能なんでしょうか?」
「ん?良いと思うけど。だめ?」
僕は皆を見回す。そして最終判断を仰ぐように杏香を見る。
「生徒会長代行は強制参加」
「は?」
「イベントの先陣を切って言わないと。盛り上げないと」
「いやいやいやいや」
「良いと思います!最初に指名された人がまごついたら空気が澱むと思うので!」
書記代行め……。
イベントの意見を出したのも書記代行だ。恐らくは辞めた書記から何らかの入れ知恵があったに違いない。しかし、全会一致の空気を醸成されてしまって断るに断れなくなってしまった。
「じゃあ、決まりね。がんばってね、生徒会長代行さん」
「他人事だと思って……」
「あら。だって他人事だもの。側から眺めるのは楽しいものよ」
参った。完全に参った。何を言えば盛り上がるのか。確率の高い告白をしてフラれたらどうしたら良いのか分からない。そもそも僕は純香に告白しても良いのか?純香がそんな気がなかったらどうする?
「あー、もう!なんで杏香はあんなことを……」
ポコン……
メッセージアプリの着信音が机の上に置いたスマホから流れてきた。差出人を見たら知らない人からだった。
「新宿?誰だ?」
そう思いながらメッセージを開く。
『突然失礼します。文化祭の後夜祭の件、聞きました。イベント開会のトップバッター、やらせてくれませんか?』
渡りに船とはこの事か。どのクラスの人が分からないけど、積極的な参加は歓迎だ。それに僕が木を揉む必要がなくなる。
『大歓迎です。明日、生徒会室に来ていただけませんか?』
『いえ、正体不明でお願いします。ちょっと本気でびっくりさせたいので、気配を完全に消したいんです。なので、開会の言葉の後に僕が名乗り出ますので、それで』
なるほど。周囲にも隠しておきたいのか。自作自演のような格好になるけども、仕方ないかな。僕はそう思って了承の返事をした。
「うーん……」
「なに?圭介、何か考え事?」
「ん?ああ。ちょっとな。昨日正体不明の人から連絡があってさ。って、話したらダメなんだった。聞かなかった事にしてくれ」
「それって新宿って人?」
「あれ?なんで?」
「あ、やっぱりそうなんだ。私のところにも連絡が入ったから。だから圭介も知ってると思って」
「内容も聞いた?」
「うん。後夜祭に参加させて欲しいって。何か言いたいことがあるのかな」
「それって秘密にしてくれって言われた?」
「え?うん。なんかびっくりさせたいからって」
純香のところにも同じような連絡が入ったようだ。連絡先をどうやって仕入れたのか気になるところだけど。まぁ、僕の連絡先を知っている人物なんてたかが知れているから、突き詰めたら新宿ってのが誰なのか分かるだろう。でもサプライズで登場するのは何か楽しそうだ。
そして放課後。教室から出ようとしたら純香が何か話がありそうな顔をしているのが見えた。
「なんだ?何か話か?」
「ええっと……」
「なんだよ」
「ううん。なんでもない。なんでもないっていうか圭介には言わないほうが良いと思うし」
「なんだよ。マジで」
「だから内緒。と言ってもそんなに害があるようなことじゃないから安心して」
そう言いながら帰り支度をを済まして教室の出入り口に向かって行く純香。ああいう時の純香は結構重大なことを隠している事が多い。気になるけどもいつも追求をしない事にしている。昔一度、問い詰めて泣かせてしまった事があった。僕の誕生日にサプライズプレゼントを用意してくれていたのを白状させてしまったのだ。おかげでその時のプレゼントはいまだに貰っていない。
「もう圭介の家かぁ」
「そうだな。公園にでも行くか?」
「そうしてくれると嬉しいかな」
僕たちは昔、いつも遊んでいた公園に向かって歩き始めた。そうしたら純香が井の頭公園に行きたいと言い始めたので、それも良いかも知れないと思ってついて行くことにしたのまでは良いんだけど……。
「圭介、そこのベンチに座って目を閉じて」
「また変なことをするんじゃないだろうな」
「こんな人の往来があるところで変なことなんてしないわよ。早く目を閉じて」
「分かったよ。これで良い?」
「うん」
「……。なんだ?何もしないのか?」
返事はない。なんなんだ?いつまで閉じていれば良いんだ。とその時、隣に誰か座るのを感じた。僕は純香が座ったものだと思ってそちらを向いてから、再び「なにもしないのか?」と尋ねた。しかし、返答はない。
「良い加減、目を開けるぞ」
そこまで言っても返事がないので僕は目を開けた。
「圭介」
「え?あれ?え?なんで?」
声がしたのは僕の後ろ。そしてそちらに振り向こうとしたら隣に杏香が座っていた。そして杏香が僕に話しかけてきた。
「譲ってくれたのよ」
「何を?」
イマイチ状況が飲み込めない。譲る。何を?
「今日はこのまま杏香と一緒に過ごしてあげて」
「なんでだ?純香は良いのか?」
「いいの。それじゃ、私はこれで」
「ちょ、純香?」
僕は純香と杏香を交互に視線を向けていたが、純香は小走りでベンチから離れていってしまった。そして本能的に追いかけようと腰を上げようとしたら、シャツの裾を杏香に掴まれてベンチに逆戻りしてしまった。
「いいの。純香ちゃんからは話、聞いてるから」
「聞くってなにを?僕は何も聞いてないんだけど……」
「そうなの?簡単なことなんだけど、私が家以外で圭介とデートしたいって話したのよ。もう時間がないから。そうしたら純香ちゃんは、いいよ、って」
確かに家の外では純香との時間を約束したのだ。杏香はその話の義理立てをしたって事か。理由は分かったので、あとは杏香の用事を聞くだけだが……。
「それで何かやりたいことがあるの?」
「特にないかな。来てみたかったの。井の頭公園。この前は違うところに行ったでしょ?」
「そうだな」
とそこまで言ってキスをしてしまった事を思い出した。もしかしたら杏香は今日もその機会を伺っているのかも知れない。そして、そうだったとして僕はどうしたら良いのだろうか。
「あ。また私がキスしようとしてる、とか考えてるでしょ?」
「え、いや……」
違うのか。と安心した時だった。
「圭介、ちょっとこっち向いて」
何気なく言われて隣に座った杏香の方を見る。すると両頬を両手で押さえられて顔が固定されてしまった。
「なになに」
「このまま、キス、したらどうする?」
「しないんじゃなかったの?」
「事情が変わった、って言ったら?」
「どうすれば良いのか分からないかな」
「意気地無し。純香に対して何か考えてるでしょ」
図星。ここで杏香とキスをしてしまったら後に戻れないような気がした。僕はそれを望んでいるのか。分からない。分からないけど、このまま流されるのも一つの答えのような気もする。
「逃げないの?」
手が少し震えているのが分かる。杏香もこの行為について決心がついていないようだ。そもそも純香はこうなることを想定していたのだろうか。
「逃げたら追いかけてくるでしょ?」
「流石に分かってるわね。でも今日はちょっと違うのよね」
「ん?」
そう言ってから杏香は手を離してから、話すかどうか迷った感じで目線を右に左に動かしている。
「なにか話しにくい事なのか?」
「ううん。話さなきゃダメなこと。純香にはもう話してある」
なんだ?なかなか決心がつかないようなことなのか?杏香がこうなるのは初めて見た。いつもは独断と偏見で僕の意見なんて聞き入れない感じで行動に移すのだが。だから、この状況を鑑みるに、相当言い難いことなのだろう。
「僕は何を聞いても驚かないから。大丈夫だから話して」
何を言われるのか分からないけど、心の準備は整えたつもりだった。しかし、杏香から聞いた言葉は予想だにしなかった事だった。
「私ね。入院することになったの」
「へ?」
「ちょっと身体の具合がよくないところがあってね。しばらくは会えないと思う」
「お見舞いに行けば良いんじゃないの?」
「その……、面会は出来ない、かな」
「なんだよそれ」
「詳しくは話せないんだけど、っというより、話したら圭介は絶対に会いにこようとするから。先持って釘刺し。というわけで明日から会えません。あと半月残ってるのに残念だけど」
杏香は僕から視線を自分の足先に移して言葉を選ぶように話した。
「そんなに悪いのか?」
「分からないかな。頑張るのはお医者さんだし。私がどうこうするものでもないし」
話の雰囲気からして、相当に悪いと感じる。だから僕はこの後の時間を精一杯、杏香のために使いたいと思った。
しかし
「杏香?杏香!」
ベンチから立ち上がって公園の売店に歩き始めた時だった。杏香が僕にもたれかかってきてシャツを掴みながらうずくまってしまった。
「圭介。やっぱりちょっとダメかも知れない。今まで騙し騙しやってたんだけど……」
「救急車……、救急車を呼ぶぞ!」
それからはあっという間だった。病院に到着するにすぐに面会謝絶になってしまった。純香にも連絡したんだけど、連絡がつかない。僕は父さんに連絡を入れてから自分の家に帰って行った。
「ああ、圭介くん」
「ええっと……」
そこには杏香の母親が待っていた。娘があんな事になってるのに、と思ったけども、もしかしたら知らないのかもしれないと思って、杏香の事について話そうとしたんだけど、先に話を切られた。
「あと半月。だったのよね。でもその半月、杏香のために使って欲しいの」
「その……、今の杏香って何が起きて……」
「それは知らない方が良いと思うから言わない。杏香からも言わないでって言われてるのよ」
「そうなんですか」
ここまで聞いて僕は最悪の事態が脳裏を過った。杏香の命はもう短いのではないか。そんなことを考えてしまった。杏香の母親はそこまで言ってから出掛けると言って家を出て行った。杏香の元にむかったのだろう。




