勧誘と誘拐
「頼む、ぜひうちのクランに!」
「い~や、こっちが先だ、俺らのクランに来てくれ!」
「いやいや、ボクたちのクランこそ彼らに相応しい!」
「あ~もぅ、帰るんだから邪魔すんな!」
教頭が忠告した通り、俺たち魔法科の面々は行きと帰りにクランへの勧誘が多発。実に面倒なことになったと実感している。
「うちだ!」
「俺らだ!」
「ボクたちだ!」
「間を通って私のクランに――」
「「「ふざけんな!」」」
「聞いてないなお前ら……」
聞いてないなら仕方ない、知らんぷりして帰ることにしよう。
「これから毎日こんななんスかねぇ――っと、俺はこっちなんでさよならッス!」
「いっそのことテキトーなクランに入った方が良いかもなのん――っと、それじゃまた明日なのん!」
「だが一度クランに入ると抜けるのは難しいと聞くが――と、待ってくれリスティ!」
そうなんだよなぁ。クランに入る、もしくはクランから抜けるにはクランリーダーの了承が必要で、必ず契約書でのやり取りが行われる。つまり、クランリーダーが首を縦に振らなければ出入りが出来ないんだとさ。
どうだい、これを聞いてクランに入りたいと思うかい? そうとも、答えはノーだ。パーティメンバーに不服がないなら無理に入る必要はないのさ。
「……バースト、こっちは家じゃない」
「ああ、帰る前にギルドに寄ってこうかと思ってな」
「……学校で溜まったストレスをギルドで発散するつもり?」
「そんなつもりは……」
うん、ぶっちゃけエリーの言う通りだったりする。初心者のフリしてると喧嘩売ってくる奴がたまにいるからな。
でも昨日ブチのめしたばかりだし、さすがに今日は居ないか?
ギィィィ……
「バーストくぅぅぅん!」
「ぬおっ!? て、敵襲!」
「違う違う! 私だ、ザックだよ」
ああ、よく見りゃファーナの父さんじゃんか。
「緊急クエストでも発生しました?」
「いや、いまだにファーナが戻らなくてね。見たところ一緒でもないみたいだし、何か知らないかと思ったんだよ」
はて、ファーナは一足先に帰ったはずで、俺とエリーより先に着いてなければおかしいって事になる。
「学校で別れたきりですね。とっくに家族と合流してるものだと」
「そ、そうか……」
ああ見えても(←どう見えるんだろうね?)ファーナは冒険者だ。危険だと感じたら引くことを覚えてるはず。何かトラブルに巻き込まれたか?
「心配ですね、俺たちも捜しますよ」
「すまない、私の方でも手分けして聞き込みをしてみる」
ギルドを出ていくザックさんを尻目に受付の方へと向き直る。
「ハレー姉ちゃん」
「話は聞いてたよ~。でもファーナちゃんは見てないかな~」
「――と見せかけて~」
「いや、本当に見てないよ~」
「――からの~」
「だからね、本当に見てないから~」
「――と思いきや~」
「いい加減怒るよ?」
「ごめんなさい」
ハレー姉ちゃん、怒ると間延びしなくなるのな。
バァン!
「バーストくぅぅぅぅぅぅん!」
「ふげぇ!? 敵襲再びぃぃぃ!」
「だからザックだって!」
なんだ、派手なカチコミかと思ったぜ。
「それより大変なんだバーストくん! さっきそこで南クラウンの生徒からコレを渡されたんだ!」
「コレって……手紙?」
「内容を見てほしい!」
何々……ファーナの身柄は我々ジェノサイダーが預かった。返してほしくば1人で帝都の南門まで来い。無論、来るのはバーストお前だけだ。必ずお前1人で来い。
「ってことは!」
「うむ、ジェノサイダーというクランに捕まってしまったようだ」
ジェノサイダー……大型クランの1つで、金儲けのためなら多少の汚いことは平気でやってくる連中らしい。まさか誘拐までするとは思わなかったが。
「けど連中、何だって俺を……」
「恐らくはクランへの勧誘だな。大人しく参加すれば無傷で返すとでも言うつもりなのだろう」
なら余計に参加する気は失せたな。危害を加えるような連中に黙って従う義理はない。
「ザックさんはギルドで待機しててくれ。ファーナは俺が助け出す」
「すまないが宜しく頼む!」
…★★★★★
多少の不安を抱えつつも帝都の南門へと急いだ。もちろんファーナの安全を考慮し、エリーもギルドで待機している。やや日が傾いてはいるが充分に明るく、門の外へと向かう一団に紛れて例のクランが待ち受けていた。
「お前がバーストだな? んじゃ目的地に行くとすっか」
6人組の冒険者の1人を先頭に門を出ると、西に聳える山の麓へと向かって行く。
「どこまで行くつもりだ?」
「フッ、心配すんな。すぐそこだよ」
不適に笑う先頭の男。ソイツの言葉通り、滅多に人が寄り付かないであろう雑木林を少し進んだところで不意に立ち止まる。
「ここらでいいか。ここなら目撃者も出やしねぇ」
「何の話だ?」
「なぁに、もしもの話だ。お前が頷けば無事に帰れる。断れば……そういう事になるってだけさ」
コイツら本気か? クランに入る入らないだけでここまでするとはね。かくいう俺も冷静にしているのは端から見て異質かもしれないが。
「たかがこの程度で――と思っているんだろうがな、こっちも生き残りに必死なのさ。余計な戦力は他に回したくはねぇ、特に他を圧倒するような連中はな。障害になるくらいなら消えてもらった方が好都合、そう考えるのが妥当ってやつさ」
「ふ~ん? ま、理解はしたよ」
「なら返事を聞かせてもらおうか」
「返事か? それならノーだ」
「だよな、最初から分か――ってえぇ!? 正気かお前!」
目の前の男のみならず後ろの連中までザワつき出す。
「もちろん正気さ。特に俺の場合は利用されるのが好きじゃないんでね、お前らに協力するつもりは微塵もない」
「チッ! 妙な正義感を出しやがって。お前みたいな世間知らずは長生きできた試しがねぇ、大人しくくたばんなぁ!」
元からそうするつもりだったのか、男は素早く剣を抜いて斬りかかってきた。俺はいつものように障壁で弾こうとしたのだが……
スッ――――ガキン!
「なっ!?」
「悪いなバースト、この男は我輩に任せてもらおう」
後ろから駆け抜けて来た第3者、いや正確にはアド兄が男の剣を弾いた。
「あの……何でここに?」
「今日は我輩の番だった、それだけだ」
「はぁ、左様で」
短いやり取りの後、アド兄は改めて男と向き直る。
「剣の腕には自信があるとお見受けする。我輩はアドセルト・J・キルロード。貴殿の名は?」
「何だぁ決闘の真似事かぁ? まぁいい、俺の名はグリフィス、フェルディオ・グリフィスだ」
「よかろう。ならば尋常に――勝負!」
「――――!」
意外にも男――フェルディオは実力者らしく、危なげなくアド兄との打ち合いに身を投じていく。
「惜しい――実に惜しい。これ程の腕を持ちながら何故に人としての道を踏み外す?」
「ハッ、年下のくせに説教か? テメェみたいなガキは一番ムカつくんだよ!」
しかし威勢が良かったのも最初だけ。徐々にペースを乱すのはアド兄の方だった。
「――ってアド兄、大丈夫か!?」
「……大丈夫だ、これしきの事……」
「フッ」
不適に笑うフェルディオとは対称に苦しそうな表情のアド兄。らしくない姿に何か原因があるはずだと周囲を見渡す。フとギャラリーと成り果てたフェルディオの仲間と目が合い気付いた。
「あ、そうか、バインドツリー!」
「「「うおぉ!?」」」
近くに生えていた樹木に触れ、枝や根っこでギャラリー共を拘束させた。これでアド兄も集中できるはず……が!
「どうした、もう息を切らしてるじゃねぇか。堂々と挑んできた割には大したこたぁねぇな?」
「クッ……」
状況は変わらず……か。だったら何が原因だ? アド兄なら意味もなくへばったりはしないはず……
「あっ!」
よ~く目を凝らすことで見えてきた。アド兄の身体からフェルディオの持つ剣へと流れ移る何か。つまりあの剣はマジックウェポンなんだ。恐らく体力を吸い取られているんだろう。
だったら俺も容赦しない。手出しは控えたいが卑怯な手段をアド兄は好まないからな。
「フン!」
ボォォォン!
「ぐおっつ! け、剣が破裂しやがっただとぉ!?」
あの剣が餌を欲しがってたからな、大量の魔力を送ってやったのさ。容量オーバーで壊れたみたいで御愁傷様だねぇ。
「クソッ、だが予備の剣ならある。コイツで――」
キィィィン!
「グッ!?」
「残念だがチェックメイトだ。武器の有無は生死に直結する。紛い物を使うべきではなかったな」
正確には紛い物とは違うんだけどな。
「これより詰所まで連行する覚悟を――」
「フッ、甘いな」
「――何?」
「甘いと言ったんだよぉ!」
ブン!
諦め悪くフェルディオは強引に斬り払おうとしてきた。が、無理な動きがアド兄に通じるはずもなく……
ズシャ!
「ガハァ!?」
「真剣での不意打ち、斬り殺されても文句は言えま――む?」
言い終える前に顔をしかめるアド兄。フェルディオの身体が点滅し始めたんだ。
「そ、それはまさか!」
「ああ、代わり身の護符だ。背に腹は代えられねぇからな。だが覚えとけ、次に会った時がテメェの最後だ!」
シュン!
「チッ、逃げられたか」
代わり身の護符……身につけている者が死亡判定を受けると代わりに消滅し、安全な場所へと転移させる。
護身用に持っている貴族もいるけど出回っている数が少なく、入手が困難なレア物だ。
「おい、ど、どうすんだよ、クランリーダーがやられちまったぞ?」
「お、俺に聞くなよ、こうして捕まった状態じゃどうにも……」
「何とかして逃げんだよ、お前らも身体を揺らせ」ユッサユッサ
あの野郎クランリーダーだったのか。先にファーナの居場所を聞き出しとくんだった。
「おいお前ら、フェルディオの居場所を知ってるよな?」
「「「知らん!」」」
「吐かないならこのまま魔物の餌になるだけだぞ?」
「「「本当に知らないんだって!」」」
「ならファーナの居場所は?」
「「「知ってます!」」」
協力的なクランメンバーによりジェノサイダーの拠点が明かされた。そこにファーナが居るらしい。
「待ってろファーナ、今助けるぞ!」
★★★★★
その頃、ジェノサイダーの拠点では……
「クソッ!」
ガシャーーーン!
悔しさのあまり、飾ってあった骨董品の壺を叩き割る。まさかあんなガキに命を奪われるとは思わなかったからだ。
「ホッホッホッ、これはまた随分と荒れておりますなぁフェルディオ殿。己の敵をあらゆる手段で沈めてきた狡猾っぷりが嘘のようですぞ」
来客として来ていたメッシオールが茶化して来やがった。
「るせぇよボケ、没落貴族がほざくんじゃねぇ」
「ま、まだ没落しとりませんぞ! 失態を犯したのは兄のエドウィン、このメッシオールではないのですからな!」
コイツの兄――エドウィン伯爵は改革派の連中を謀殺した罪でヴィクトルに斬り殺されたらしい。
前々からオルノーゼ家当主の座を狙っていたコイツは今回の出来事をまたとないチャンスと捉え、手始めにキルロード家の弱点を狙うという作戦に出た。
上手く行けばキルロード家を慎重派に取り込め、派閥への貢献度を上げようとした。つまりファーナという小娘を誘拐したのはクランへの勧誘ではなく、バーストを捕らえるための餌だったわけさ。
「だが残念だったな? バーストの確保は失敗したぜ」
「むぐぅ! 他人を貶しておきながら自分は失敗ですと!? ふざけないでいただきたい! これまで貴殿の行いをどれだけ揉み消したと思っているのだ!?」
他のクランを弱らせるために多少の殺生もやってきたからなぁ。コイツのお陰でのらりくらりとやり過ごせているのも事実。
「へぃへぃ、悪ぅ御座んしたね」
バカみてぇにとち狂っているメッシオールを見てだいぶ頭がスッキリしてきた。これに関しちゃ礼を言いたいね。実際には言わねぇけどよ。
「悪いが伯爵、今日のところは帰ってくれ。次の作戦を考えなきゃならないんでね」
「むぅ……。だが今日にでもバーストの身柄を押さえる予定だったはず……」
「それに関しちゃ――」
バタン!
「たたた、大変です! バーストって小僧がカチコミを掛けて来ましたぁ!」
「「何ぃ!?」」
嘘だろおい! 帝都の外から一瞬で戻らない限り、こんな速さで乗り込んで来るなんざ有り得ねぇ!
「と、とにかく人質だ、あのファーナって小娘を連れて来い! ソイツを盾にすりゃ安易に暴れたりは出来ないはずだ」
「了解です! ――ブハッ!?」
捕らえている小部屋に向かおうとした手下が扉から弾き飛ばされた。何事かと目をやれば、有り得ない存在がそこにいた!
「ま、まさか……アンタは!」
「ヒィ!? なぜここに!」
「拠点を出る前に挨拶をと思ってね。一応名乗った方がいいかな? 現皇帝の三男――」
「――ヴィクトルだよ」
やっぱりか!
「え~と……ファーナと言ったかな?」
「は、はい、そうでふ!」(←噛んでる)
「この娘は返してもらうよ。今頃バーストくんが血眼になって捜しているだろうからね。何か文句はあるかい?」
「い、いえ……」
「…………」ブンブン!
相手はランタール11世の三男ヴィクトルだ。刃向かえるわけがねぇ。いや……
「…………」
今のコイツは1人。ここで殺っちまっても有耶無耶に終わらせれば……
「さっきから押し黙ったまんまだねぇ、どうしたのかな? 意義があるなら聞いてあげるよ?」
「……だったら1つだけ伝えたいことが」
「ほぅ、言ってみたまえ」
スチャ……
「バカが! 1人で乗り込んで来るたぁ頭の弱い皇族だぜぇぇぇ!」
不意打ちは成功! 俺の剣は奴の喉元へと一直線に延び――
ドスッ!
「ゴフゥ!? ……バ、バカな、なぜテメェの方が速く動け……る?」
有り得ねぇ、有り得ねぇが、奴の剣が俺の心臓を深々と突きやがった。
「こう見えても剣の腕には自信があるんだ。若輩者と侮ったキミの負けかな」
「フッ……」
「ん?」
まさか1日で代わり身の護符を2つも使っちまうとはな。悔しいがジェノサイダーは今日で解散だ。俺は新天地を目指すとするぜ。
「フ、フェルディオ!? このメッシオールを置いて逃げるのか!」
「悪ぃな、生憎と命は1つしかないんでね、アンタとつるむのはこれで最後さ」
シュン!
光の粒となって消えたフェルディオ。残されたメッシオールはこの世の終わりかのような表情でガクリと肩を落とす。
╲ファーナァ! どこだぁぁぁ!?╱
「この声は、バースト!」
「フフ、どうやら王子様が助けに来たようだね」
「ええっ!? べべべ、別にそういう関係じゃ……」
ドガン!
「ファーナァァァ! ――っと、ここにいたか!」
「バースト、助けに来てくれたんだね!」
「ああ、ファーナも無事で良かったよ」
ファーナは無事だし、もうここに用はないな。しかし目の前のオッサン、見たことないがここに居るってことは今回の黒幕か? 身なりからして貴族みたいだし。それと……
「ヴィクトル様、数日振りです」
「ハハ、そうだね。相変わらずの活躍で将来が楽しみだよ。ところでフェルディオは護符を使って逃げたようだ。追わなくていいのかい?」
「ハッ!? も、もちろん追います、いくぞファーナ!」
「ちょ、ちょっと、無理に引っ張んないでよ!」
さて、これで邪魔者はいなくなりました。
「メッシオール卿」
「え? ヴィクトルさ――」
ズバッ!
「ひぎゃぁぁぁ!? な、何を!」
「無益な輩は邪魔なだけ。帝国をクリーンに保つのがボクの役目さ。だからキミには消えてもらうよ」
「ぞ、ぞんな……」
★★★★★
「はぁ、結局フェルディオの野郎は見つからなかったなぁ」
「新天地がどうのとか言ってたし、帝都から逃げたんじゃない?」
「な~るほど」
こうしてファーナを救出できたのはいい。だが今後を考えてもっと強化を重ねる必要が有りそうだ。




