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姫君は幾度も死ぬ  作者: 雨咲まどか
3.黒
18/18

エピローグ


 ジューンベリーが食べ頃を迎えている。これが終わったら、サンザシと収穫しよう。パイにして貰って、アンゼリカに教わったハーブティーを入れなくちゃ。お茶の時間にはカトレアとアランも呼ぼう。忙しいだろうけれど、少しだけ。

 照りつける太陽に汗を拭って、デイジーはスコップで土を掘り起こした。


「キュウ」


 庭を飛び回っていたハリィがジューンベリーに齧り付く。


「ああ! 待って、後でだってば! サンザシ、ハリィを捕まえといて!」


「少しくらいならいいじゃないですか」


 言われたとおりにハリィを抱き上げてサンザシが肩を竦めた。

 デイジーはもぐもぐと口を動かすハリィを見やって唇を尖らせる。


「駄目、放っておいたら全部食べるもの」


「まあそれは否めませんが。……何を植えるんです?」


 サンザシはデイジーの手元を覗いて首を傾げた。ハンカチの上に広げた種を摘まんで、デイジーはにやりと口角をつり上げる。


「見てのお楽しみ」


「なんとなく察せられますけどね」


「……じゃあ聞かないでよ」


 サンザシの言いぐさにむっとしつつ、種を土に埋めてゆく。水をやってから、ハリィの頭を撫でた。


「よし、ハリィ出番だよ。この辺びゅーっと吹いちゃって」


 ハリィは嬉しそうに片翼を上げ、サンザシに抱かれたままで白い息を吐いた。見る間に芽が出てたくさんの白龍草が花を咲かす。


「最高! ありがとう!」


 デイジーはサンザシの腕からハリィを抱き寄せて頬ずりをした。


「どうなさるのですか、この花」


「明日のカトレア姉様たちの結婚式で、ブーケに使って貰うの。楽しみだなあ」


 カトレアとアランの結婚式はクローチアでも盛大に執り行われる事になった。本番を翌日に控えた城は大騒ぎで、使用人たちが駆け回っている。

 お茶の準備、ちゃんとしてくれるだろうか。少しだけ心配になったが、押し切ればどうにかなるだろうとデイジーは一つ頷いた。


「カトレア様、きっとお綺麗でしょうね」


「私も結婚したいなあ」


「……アラン王子と?」


 サンザシの言葉に、デイジーはお腹を抱えて笑った。よくそんな考えが浮かぶなあ。年下の従者は、デイジーが思っていたよりもずっと変わり者のようだ。


「私なら、アラン兄様よりサンザシの方がいいかな」


 笑いすぎたらしく顔を顰めていたサンザシの頬が、一瞬にして赤く染まる。表情は険しいのに頬と耳だけ赤くて、またおかしくなって笑ってしまった。


「お父様に反対されたら、また二人で家出しようよ」


「……殴られるのはもうご免です」


「次はサンザシのお父さんとお母さんを探そう。ご挨拶したいの」


 僅かに目を丸くしてから、サンザシはふわりと笑った。今ならやっとわかる。二年前のあの日、デイジーが一日中奔走してまで手に入れたかったのは、きっとこれだった。

 デイジーはサンザシの手を取って歩き出した。小さな白龍が二人の上を飛んでいる。

 ねえサンザシ、やっぱり一緒に死のうか。飽きるほど一緒に、生きた後で。

 口には出さずに、デイジーは繋いだ指先に力を込めた。









最後まで読んでいただきましてありがとうございました!

改稿して新人賞への応募を考えています。

ご意見ご感想等頂ければ幸いです。

ここまでお付き合い下さった方、心から感謝申し上げます。

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