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偶然、出会して

「いいのか、学校の案内なんかしてもらって?」


 まだまだ茜色の日差しが差し込むには早い時間。

 新鮮さを未だ覚える同年代の生徒達が行き交う廊下にて、横に並ぶ芽衣が楽しそうな笑みを浮かべる。


「いいのいいの、望くんってあんまり学校の中見て回れなかったでしょ?」


 ―――どうやら、転校してきたばかりの俺に校舎を案内してくれるらしい。

 とてもありがたい申し出だ。時間もあるし校舎の中を一人で見て回ろうかと思っていたが、案内があれば覚えるのも幾分か早くなるから助かる。


「それはそうなんだが、芽衣の時間を奪うことになるしなぁ」

「そんなこと気にしてたの? 別に早く家に帰ったところで、私は親の監視下で義務教育以上の知識を教材セットで叩き込まれるだけだよ」

「……家はそんな厳しい感じなのか?」

「普通の家庭なんだけどね。悲しいことに、私はお馬鹿さん部類だから……次のテストで最下位を復刻しようものなら、今度こそお尻が腫れるまでのお仕置きが……ッ!」


 今時のご家庭にしては珍しい折檻方法だ。

 うちの国でも、もはや時代遅れである。


「けど、望くんは頭いい部類なんでしょ? 羨ましいなぁ」

「ん?」

「だって、うちの学校編入試験は激ムズだって聞いてるし」


 あー……なるほど、そういう話か。

 俺は別に《《編入試験なんて受けてはいないんだが》》—――


「そうだな、芽衣の頭よりかは色んな知識が詰まっていると思う」

「わぁお、喧嘩の特売だやったね買ってやんよ」


 流石に、傭兵辞めて日本で生活するために用意してもらった、なんて言えないしなぁ。

 横で額に青筋を浮かべている女の子がいるものの、素直に言うわけにはいかないだろう。


「はぁ……望くんだけだよ、私にそんな扱い」

「そうなのか?」


 同年代の子供達は時折からかったりからかわれたりすることでコミュニケーションを図ったりするものだと事前の調べて学んだんだが。


「あんまり自分で言いたくないけど、私ってこのビジュでこの性格じゃん? そりゃもうですよ、クラスでは大層持て囃されるわけでして」

「ふむ」

「好かれたいって思う人が多いから、あんまりぞんざいに扱われることないんだよねぇ……嫌ってわけじゃないんだけど、ちょっと窮屈というか若干息苦しいというか。特に男の子は顕著だねぇ」


 ふむ、なるほど。

 つまり、好意的に接させるのではなく、ぞんざいに扱われたいと。


「この豚が」

「罵られたいわけじゃねぇよ」


 日本人は未だとても難しい。


「ぷっ……あはっ、久しぶりだよこんなノリ。ちょっと楽しっ」


 そう言って、楽し気な笑みを浮かべながら先を歩く芽衣。

 ……罵倒したあとに、この笑みか。


(芽衣は俗に言う『M』というやつか)


 これはメモしておかなければ。


「それで、どこ行こっか? 案内人芽衣ちゃんは優秀だからね、今ならダンジョンの最深部まで安全に連れて行ってしんぜよう!」

「そうだなぁ、正直何があるか分からないから一階層の初心者向けコースからでも―――」


 そう、言いかけた時だった。

 廊下の先。先程まで楽しそうに談笑していた生徒達が一斉に道を開け始めた。

 だからこそ、開ける視界。

 そこから姿を現したのは、艶やかな銀髪を靡かせる一人の女の子の姿で。


「(うわぁ、今日二回目のエンカウントだよ望くん)」


 いきなり、袖を引っ張ってくる芽衣。

 気が付けばいつのまにか芽衣も他の生徒と同じように壁際に寄っており、自分も寄るように促される。


(……凄いな)


 これが西条院柊夜という女の子の影響か。

 無理に力を誇示しているわけでも、権力を使って生徒を支配下に置いているわけでもなく、自然と周囲が控えるようになる。

 西条院グループの影響か、それとも滲み出るオーラと美しい容姿がそうさせているのか。

 いずれにせよ、とりあえず俺も道を開けるように壁際に寄った。

 すると―――


「あら、見かけないお顔ですね」


 ふと、通り過ぎるはずだった足が止まり。

 西条院は目の前で、潤んだ桜色の唇を開いた。


「え、えーっとだね……その、望くんは今日転校してきたばっかりだから、西条院さん図鑑に載っていないのも仕方ないかなーって」


 気を遣ってくれたのか、少し緊張気味に芽衣が代わりに答えてくれる。

 すると、西条院は顎に手を添えて何やら考え込み……やがて、誰もが見惚れる淑やかな笑みを浮かべた。


「初めまして、私は西条院柊夜と申します」

「あー、時森望……です?」


 敬語、でよかったのだろうか? 芽衣は気さくに話してほしいと言っていたし、同年代の女の子はそういうものだと思っていたが、皆敬っている様子だったし。

 それに―――


『ねぇ、西条院さんが男に話しかけたよ。羨ましい……』

『中々自分から話しかけることなんてないのにね』

『転校生だからでしょ? そうじゃなかったらおかしいもん! だって、あの西条院さんが興味を持ったってことでしょ!?』

『そ、そうだよね……だって、西条院さんって誰にも自分から近づこうとしないし。まぁ、そこが凛々しくてかっこいいんだけどさ!』


 ……なんとなく、馴れ馴れしく話したら騒がれそうな気がする。

 別に学校で有名人になりたいわけじゃないし、普通の高校生活が送りたいだけだ。変に目立って今の現状が悪化するのであれば、大人しくしておいた方が賢明だろう。


(それに、この子って)


 あの、バスジャックの時に出会った子……だよな?

 まさか、同じ学校でしかも同じ学年の女の子だったとは。

 あの時はフードもマスクもしてたし、バレることはないと思うんだが。


(バレた時が面倒すぎる。せっかく、隠し通せると思ったのに……ッ!)


 平和な高校生活のため。

 バスジャック犯を一人で捕まえた日本人らしくないレッテルは不必要。

 ……極力、西条院とは関わらないようにしよう。

 声は聞かれているわけだし、俺とバスジャックの時に出会った男と紐づけられたら大変だ。


「………………」


 と、思っていたんだけど。

 どうしてか、西条院は俺の顔をマジマジと見始め―――


「あ、あの……どうか、しました?」

「いえ、どうかしたかと言われればどうかした、ではあるのですが……もしかして、《《私達どこかでお会いしました》》?」

「ッ!?」


 いけない、何がいけないって普通に気づかれそうなところがいけない。

 確かに声は聞かれていたわけだし、会話を続ければイメージと合致されるリスクが生まれる。

 ここは早急にこの場から離れなければ……ッ!


「い、いえ気のせいでしょうえぇうん! 俺みたいな街で生まれた一般男性が山を登って高嶺の花を見に行くことなんてないですし!」

「なるほ、ど?」

「あ、そうだ! 俺はこれから校舎を案内してもらう予定でして行こうか芽衣さんはりあっぷッ!」

「ちょ、ちょっと待ってよ望くん!」


 これ以上の長話は危険。

 そう思い、俺は即座に芽衣の腕を引っ張って西条院の目の前から離れた。


『なに、あの転校生』

『西条院さんがわざわざ話しかけてくれたっていうのに、あの態度……』

『ねぇー、めっちゃよくないよ!』


 ……悲しきかな。転校初日からさらに評判が下がっているような声が耳に届いてしまった。

 俺の高校生活に暗雲が立ち込め始めたような気がするのだが……勘違いであることを切に願おう。


「い、いいの……望くん? 西条院さんとお話してたのに」


 俺に腕を引かれながら、おずおずといった様子で芽衣が尋ねてくる。


「いいんだよ、別に。俺はそれより《《芽衣と一緒にいられる方が嬉しい》》」

「〜〜〜ッ!?」


 だって、学校案内してもらってないし。

 それに、あのまま西条院と一緒にいれば目立つ。なおかつバレる恐れがある。

 であれば、芽衣と一緒にいたいと思うのは必定なのだ……ッ!


「そ、そっか……」


 ほんのりと、どこか芽衣の顔が赤く染っていたのに気がついた。

 ただ、触れている手から伝わる体温的に、風邪などではないだろう。


(まぁ、西条院のことはおいおい考えるか……)


 今はとりあえずこの場から離れることが先決である。

 そう思い、俺は周囲の視線を浴びながらも廊下を真っ直ぐ進んでいくのであった。



 ♦️♦️♦️



 ───遠くなっていく、転校生《かれ》の姿。

 横にいたのは、確かお隣のクラスに在籍している小鳥遊さん、でしたでしょうか?


「……………………」


 いや、それよりも。

 私はどうしても気になることができてしまいなした。

 その証拠に、《《時森望という生徒から目が離せません》》から。

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