報告
(※愛羅視点)
PMCは国によって、その活動範囲が異なる。
軍に所属する人数が少ない地域では活動が盛んで、軍の人数も多く平和な国では活動が少なく、他国へ赴くこともしばしば。
私───来栖愛羅の所属する民間軍事会社《PMC》は、どちらかというと後者です。
何せ、平和な国という表舞台では活動しない、日本の裏社会ですから。
知っている人間はごく一部で、その分依頼の料金はばか高い。一部の金を持った野郎ばかりが依頼して来ますからね。
そして、私が今受けている依頼も……まぁ、おっきなお金もらってる案件です。
じゃないと、《《今さら普通の高校生活を送りながら》》、《《女の子を護る》》なんて長期で面倒な仕事、やんねぇですから───
「なるほど、ここ数日の間に三件……やはり、件数が増えていますね」
パラパラと、無駄に広すぎる執務室で秘書らしき男が書類を捲ります。
私はその姿を、明らかな来客用のソファーに座りながら眺めます。
「大変ではないかい? 私から依頼を出しておいてなんだが」
秘書さんの横。
堂々と座っていながらも、私に心配そうな瞳を向ける男。
───西条院源蔵。
今回の、私の依頼主です。
「大変っちゃ大変ですよぉー、この前だって学校に忍び込んでくるわ、配達員装って来るわで休む暇もねぇですー」
「……そうか」
「まぁ、新しい人を追加してくれたんで、増えた分の帳尻は合わせてもらいましたけどねぇ」
どうして、この対象の父親が私達にこんな依頼を持ってきたのかは理解してます。
更なる事業展開のため、軍事案件に手を出したから。
国内勢力のバランスってのは非常に繊細です。
どこか一カ国が力を付けるのはよしとしない、敵対国に戦力を与えたくはない、平和のために他国に圧力をかけられるような武力をつけたい。
それぞれの考えがあるのに、皆んな「平和」を謳っていて、それが絶妙に保たれているのが今。
そこにスパイスをかけようとすれば、味に文句をつけたい国が出てきてもおかしくはありません。
(要するに西条院グループと取引をしている日本、それとヨーロッパ圏の国を敵視していて……敵視していなくても、自国との差をよしとしない人が介入してるって現状)
西条院グループの軍事事業を撤回したい国の人間が、西条院柊夜という女の子を狙っている。
何せ、西条院源蔵の周囲は当然ながら固い。まともに狙っても返り討ちに遭うだけ。
ただ、その周囲は違います。張本人よりかは狙いやすい。
さらに、時に脅しっていうのは、本人じゃなくて身内に危害を加えた方が要求を呑みやすいことだってあります。
(だから、やたらと件数が多いわけですが……)
まぁ、私はお金さえもらえればそれでいいですし。西条院柊夜という個人に対しても、然程興味はありません。
傭兵なんて、所詮はそんなもんですよね。
「最近、アジア圏での一カ国が躍起になっていると情報を受けた」
秘書の人が、書類を見終わったのか閉じて私に視線を送ります。
「恐らく、西条院グループが支援している国との勢力バランスが崩れたからだろう……近々、件数が増えたのも、その国が色々な方面で依頼をかけたと報告に挙がっているのと関係あると思われる。特に、直近で《《グローブ》》という傭兵集団が依頼を受けたとも情報を受けた。充分に気をつけてくれたまえ」
「はいはーい」
私は軽く手を挙げて返事をします。
(グループ……グループねぇ? こりゃまた、変なのが食いついたものです)
アジア全域で活動する、PMCの一つ。
護衛、保護、守護といった依頼の一切を引き受けず、暗殺や拉致、戦争の参加といった攻撃的な依頼を受ける傭兵集団……界隈でかなり有名ではありますが、あまりいい噂を聞かないです。
何せ、請け負っている依頼もそうなのですが、すぐに依頼主を裏切ったり別の相手へ鞍替えすることもあったり。
(あとは、手段を本当に選ばない人間ばかり集まってる……ってところでしょうか?)
まぁ、といっても日本でできることなんて限られますし。
平和な国で生きている人に手を出すって難しいですよねぇ。
「何か困ってることはあるかい? 必要であれば、こちらからも手配しよう」
「んー……人数増やしてほしいって要望もあるんですが───まぁ、こっちは無理ですよね?」
「………………」
「知ってる人数を減らしたいっていう話ですし、依頼主の要望がある以上、私はお口チャックです。生活も、今のところ困ってませんし」
本音を言えば、三人だけじゃなくて別に増やしても問題ないとは思うんですが、そうもいきません。
何せ───
「……柊夜は、目敏い子だからね。これ以上増やすとなると、間違いなく違和感に気づく」
「……………………」
「恐らく、すでに君達には何かしらの違和感は持っているだろう……まぁ、今はそれ以上はないだろうが。ただ、さらにとなると『自分が護られている』と気づくのも時間の問題になるだろう」
───すべては、娘のため。
自分が手を広げたことによって娘の自由を奪うのは不本意なのでしょう。
まぁ、特に西条院であれば。西条院っていう名前だけで、すでに普通の高校生よりかは不自由な生活を送っているはずです。
(それでも、羨ましい限りですけどね)
《《私なんて》》、《《心配してくれる親すらいないですし》》。
「そういえば、君が報告に来るなんて珍しいね」
「はい?」
「いつもはヨーデルくんが来るじゃないか。それなのに、君が来るなんて……確か、身辺担当じゃなかったかな?」
あぁ、何を言い出すかと思えば。
私は秘書さんに思わずクスッと笑ってしまい、ソファーから立ち上がります。
「その点で言えば、お嬢様のお気に入りが護ってくれているから、とお答えしておきましょう!」
報告も終わりました。
これ以上長居するのも意味がないと、私はそのまま軽くお辞儀をして部屋から出ていきます。
(あんまり長居しちゃうと、もしかしたらもしかしたらでお嬢様と鉢合わせることになっちゃいますし)
そうなると、言い訳作るのが面倒なんですよねぇ。
♦♦♦
そう、思っていたんですけど。
「あら、来栖さん? どうして、うちの本社に……」
「………………」
あぁ……やっちゃいました。
まさか、例のお嬢様と鉢合わせてしまうなんて。
ただ───
「あの……なんで、横の時森さんはさめざめ泣いてるんです?」
「……ぐすっ」
それ以上に、気になることがありました、はい。
一体、私が報告に来てる間に何があったんでしょうね……ほんと。




