心配で追いかけたら
(※芽衣視点)
『おい、転校生があいつらに呼び出されたぞ?』
『西条院さんと仲良くしてたからかな?』
『まぁ、でも仕方ないんじゃね? 調子乗ってたのは事実だし』
『で、でもさ……』
『いいんだって、西条院だけじゃなくて小鳥遊とも話しててさ……正直、あいつ調子乗ってたって』
『しかも、あの不良って教師達でも手に負えないんだろ? 噂だけどさ、この前先輩達のクラスで一人病院送りにしたって』
『あー、終わったな、転校生』
昼休憩、時森くんが不良そうな人達に呼び出されてから。
皆が弁当を広げている中、さっきからそんな声が耳に届いてきてしまう。
(酷い……)
どうして、そんなこと言うんだろ。
同じ女の子達はそうでもないけど、特に男子達から時森くんに対しての非難……ううん、不良達への同調が聞こえてくる。
時森くん、別に悪いことなんてしてないのに。
確かに、どうして西条院さんがあんなに時森くんにだけ興味を持ってるのかは分からないけど、誰と誰が話すなんて本人の自由なはず。
(私だって、私が時森くんと話したいから話してるだけなのに)
まぁ、時森くんは少し不思議な人だ。
世間知らず? っていうのかな……同じ日本人なのに、外国人と話しているような気がするし、同い年のはずなのに大人と話している気がして。
《《まるで違う場所に住んでた人》》みたいな空気を感じる。
ただ、悪い人ってわけではなさそうなの。
だから、ついつい気になっちゃって。
(しかも、他の男子とは違って……ちゃんと、私を見てくれているって……その、思うし)
自分で言うのもなんだけど、私はそれなりに可愛いとは思う。
そりゃ、西条院さんに比べたら全然だけど、中学の時から色んな男の人に告白されてきたから「あ、私って可愛いんだ」って嫌でも自覚する。
しかも、そういう外見で見てくる男の人の視線は顕著だ。
体とか、口元とか。私の話をすると少し興味なさそうに視線を逸らしたり、二人きりになろうとしたり、私に褒められたいのか自分の話ばっかりしてくるし、何かの話をしても興味を引こうってチラチラ見てくるし。
(けど、時森くんはそうじゃないんだよなぁ)
ある意味私に興味なくて、ある意味私に興味がある。
外見よりも、《《小鳥遊芽衣って女の子と仲良くしたい》》って気持ちが伝わってくるの。
……なんとなく、だけど。
話している時に真っ直ぐ私の瞳だけを見てくる。無理に話を合わせようとしてくれている感じがしない。
まぁ、私の勘違いかもしれないけどさ。
それでも、そういうのがあるから私は時森くんに興味があって―――
『め、芽衣? どこ行くの?』
私が立ち上がると、一緒にご飯を食べていた友達が不思議そうな顔をしてくる。
「時森くんの様子、見てくる」
『え? あ、ちょっと!』
友達の声を無視して、私は教室の扉へと向かう。
すると、今度は。扉付近で食べていた男子達が笑いながら、
『やめとけよ、小鳥遊! 別に放っておけばいいじゃん!』
『そうそう、お前が気にすることなんてないって!』
『やって来たばっかの転校生を気にしてもしゃーないって。しかも、調子乗ってたのは事実なんだからさ』
私は別に、他の人をそこまで嫌ったことはない。
普段滅多に怒ることもない。我慢すれば、空気が悪くならなくて済むから。
……そうやって生きてきた。
だからいっぱい友達もできたし、好意を寄せられてもきた。
今も、皆に合わせて波風立たず時森くんを放置すればいつも通りには過ごせると思う。
けど―――
「……少なくとも」
『ん?』
「私は、《《お前らなんかよりかは》》時森くんとお話ししたいよ」
そう言って、私は教室を飛び出した。
最後、呆けたような男子達の顔を見たけど、気にしない。
気にするとすれば……ちょっと、いつも言わないような変な言葉を使っちゃったぐらいだ。
♦♦♦
それから、私は時森くんの姿を捜した。
何かあったとしたら、すぐに先生を呼ぶためにも場所だけは分かっておかなきゃって思ったからだ。
そして、少しして。すぐに、校舎裏で時森くんの姿を見つけた。
ただ、見つけたのにもかかわらず私は……どうしてか、《《校舎の物陰に隠れていた》》。
何もなかったから? ううん、何かはあった。
だったらなんで先生を呼ばないの? って思われるかもしれない。
でも―――
『ばッ!?』
『ちょ、ちょっと待って! 殴って悪かった! 俺らが手を出して悪かったから!』
『ば、化け物……がッ!?』
何かあったのに、呼べなかったのは。
私の視界で、時森くんが……不良相手に戦っていたからだ。
しかも、それも一方的に。
相手は三人いるのに。
しかも、先生ですら手に負えないような、悪い人達なのに。
だから、私は心配で足を運んだのに……心配するような光景は、何もなかった。
それを見て、私は―――
(す、凄い……)
暴力は悪いことだと思う。何があってもやっちゃダメだって、《《普通の人と同じ感覚》》で思っている。
でも、止めるどころかどうしてか、私は思わず魅入ってしまっていた。
あまりにも一方的に不良達を倒していっている時森くんの姿に。
《《とても高校生とは思えないほどの》》強さに。
不思議と心臓が高鳴ってしまっている。よくないって分かっているのに、目が離せない。
―――そうして、私は注意することも先生を呼ぶこともなく。
結局、時森くんは不良達全員を倒してしまった。
『さっき言ったこと、忘れてねぇよな? はい、復唱』
『『『今日のことは今後一切口外せず、いち学生として仲良く友達として時森さんと接することです!!!』』』
『おーけーだ』
……まぁ、どうしてか。
一人の不良の体の上に座って、正座させてるけど。
なんか、不良達を従えるボスみたいな感じになっちゃったけど。
(け、結局倒しちゃった)
時森くんって、格闘技とかやってたのかな? ボクシングとか、空手とか。
でも、テレビで観かけたそういう競技者の動きとは違っていて……なんていうのかな、こう……《《相手を倒すためだけの動き》》っていうか。
喧嘩とは、なんか違う。喧嘩よりも、あまりにもスムーズで……って、表現が難しいけど。
(そ、それより……これからどうしよ)
今までは隠れて見ちゃってたけど、もう終わったみたいだし声をかけた方がいいのかな?
でも、勝手に見ちゃってたって―――
「ッ!?」
と、その時。
時森くんの視線が、急にこっちに向けられた。
だからからか、私も思わず覗くのを辞めて校舎の物陰へと身を隠してしまった……いや、慌ててその場を走り出してしまった。
だって、こっちを向いた時の時森くんの瞳が《《あまりに冷たかった》》から。
「ど、どうしよう……望くんが心配で様子見に来ただけだったのに……っ!」
見ちゃった、って素直に出ればよかったかな? 隠れて覗き見するのって時森くんに悪いことしてるような……こっちを向いた時の瞳が怖かったし、もしかしたら見られたくなかったのかもしれないし。
それなのに、覗いた挙句に逃げるって失礼だ。あとでちゃんと謝った方がいいかもしれない。
でも―――
(な、なにこれ……)
心臓がさっきからうるさい。
顔もいつも以上に熱いし、走っているのに……申し訳ないって思ってるのに、怖いって思ったのに、《《さっきから頭の中で時森くんの姿》》ばっかり思い浮かぶ。
……この感情と現象に、心当たりがないわけじゃない。
けど、あれだけで? あのたった一幕で?
(女の子は強い男の子が好きになりやすい……って、あれ本当だったの!?)
わけが分からない。
それでも、心臓の鼓動は変わらなくて。
わけが分からないまま、私は教室に向かって逃げるように走り続けた。




