Whispers of the Past
迷宮の扉を抜けると、薄霧に包まれた廊下が続いていた。
冷たい空気に混じる微かな香りは、どこか懐かしく、アレンの胸の奥に小さなざわめきを生む。
歩くたびに、遠くから囁く声のような響きが聞こえる。
それは過去の記憶の残響――迷宮に残された名前の力の余韻だった。
「……誰の声だろう」
アレンは小さくつぶやき、耳を澄ませる。
足音も、呼吸も、すべてが静まり返った空間に吸い込まれるようだ。
でもその静寂の中で、心の奥がじんわり温かくなる感覚を覚える。
「……俺、前に進んでる」
微かに笑みを浮かべ、アレンは胸の中で名前を呼ぶ力を感じる。
それは、迷宮での恐怖や孤独に対する小さな盾のようで、
過去の記憶のささやきさえ、勇気へと変えてくれる。
廊下の壁に映る影が揺れるたび、アレンは自分の心の動きと重ね合わせる。
焦り、迷い、不安――それらすべてが彼の一部であり、
名前を呼ぶ力を意識することで、少しずつ受け入れられるようになる。
「……もう、逃げない」
小さく決意を呟き、アレンは足を止めず、霧の中を歩み続ける。
霧の奥には、光が差し込む扉の輪郭が微かに揺れ、
次の試練が待っていることを知らせていた。
名前を呼ぶ力は、遠くにいる誰かだけでなく、
自分自身の心を守り、支える光として確かに胸に存在している。
アレンはその光を握りしめるように歩き、迷宮の影と過去の囁きに立ち向かう。
「……どんな試練も、俺は進む」
心の中でそっと自分に誓う。
迷宮の奥で待ち受ける未知の影も、恐怖も、
名前を呼ぶ力と胸の光があれば、きっと越えられる――
そしてアレンは、霧の廊下を抜け、揺らめく扉へと一歩を踏み出した。
静かな決意を胸に、迷宮の奥へ――




