Sealed real name
光の紋章に触れた瞬間、アレンの体を柔らかな青白い光が包み込んだ。
まるで深い水の中に沈んでいくような、静かで透明な感覚。
けれど、不思議と怖くなかった。
隣では、ホワイトがアレンの手を強く握り、
チェシャは腕を絡めたまま、光に逆らわず寄り添っている。
――三人なら、どこへだって行ける。
そんな安心感だけが、胸の奥に広がっていた。
視界がゆっくり戻ると、三人は“青の部屋”と呼びたくなるような静謐な空間に立っていた。
壁一面に、古い文様や鍵の図案が浮かび上がっている。
「……ここ、なんだ?」
アレンが呟くと、ホワイトが慎重に周囲を見渡して答える。
「鍵の継承が行われる場所だ。
本来は王族か、選ばれた守護者しか入れないはずだけど……
君は招かれたんだね」
チェシャは壁に近づき、ある一点をじっと見つめた。
指先でなぞると、青白い光が薄く揺れる。
「これ……“真名の封印”じゃない?」
「真名?」
アレンが聞き返す。
ホワイトがゆっくりと説明する。
「この世界で“鍵”として選ばれた者は、
真の名前――本当のアイデンティティの一部を封印されることがある。
力に飲み込まれないように、あらかじめ守るための封印だ」
アレンは思わず胸を押さえた。
ずっと感じていた違和感、時折襲う記憶の曇り……
あれは単なる疲れでも、この世界の影響でもなく――
「……俺、何かを忘れさせられてるってこと?」
その声は震え混じりだった。
チェシャはすぐにアレンの手を握り、
困ったように笑いながら顔を寄せる。
「うん……でも、怖がらないで。
その封印は、鍵くんを守るためのものなんだ」
ホワイトも反対側からそっとアレンの肩に手を置く。
「君が弱いからじゃない。
“力が強すぎるからこそ”、負担を軽くする必要があったんだ」
二人の声が重なり、アレンの胸のざわつきが少しずつ静まっていく。
その時――
壁の中央に、ひときわ大きな紋章が浮かび上がった。
それは鍵の形をしているが、中心には“欠けた文字”が刻まれている。
「これが……俺の真名?」
アレンがそっと近づこうとすると、
胸の奥の鍵が――
ドクンッ、ドクンッ……!
先ほどよりもはっきりと脈打つ。
呼びかけられている。
戻ってこい、と。
チェシャが驚いた声を上げる。
「すご……鍵くん、封印が反応してる!」
ホワイトは険しい表情でアレンの手を掴む。
「アレン、深呼吸して。焦るな。
真名を思い出すのは……嬉しさもあるけど、痛みも伴うことがある」
アレンは二人の顔を見て、ふっと息を吐いた。
怖くても、二人がいれば平気だ。
「……大丈夫。感じるままにやってみるよ」
三人で壁の紋章へ手を伸ばす。
指先が光に触れた瞬間、部屋全体が震えた。
紋章の欠けた文字が、青白く輝いて――
アレンの“真名”が、ゆっくりと形になろうとしていた。
胸の鍵は、まるで歓喜しているように激しく脈打つ。
チェシャとホワイトはアレンの両側から支え、
その瞬間を共に見守った。
光の幕がゆっくりほどけていく――
アレンが忘れていた“本当の自分”が、
ついに戻ってこようとしていた。




