中性
できることならそうしてると反論を述べたかったが、
無為な口喧嘩するのは好きではないし
それは心の奥にそっと仕舞っておくことにしたのだった。
「そうですね、そうしようと思います」
大人しく相手の意に従ったはずだったが、
彼女はまだ不満があるらしく有心を帰そうとはしなかった。
「……そう言えば君は、
赤の他人である男子生徒を
兄にしようとしていると聞いたけれど、
それはあまり褒められたことではないわね」
言い返したかったが、
言い返す言葉は見つからなかった。
おかしなことをしている自覚はあるが、
それでも諦められないのだからどうしようもないだろう。
「第一、他人を兄にするなんてそんな――」
「そのくらいにしておきなさい。
彼が困ってるでしょう」
険悪なムードの中、
颯爽と立ち入ってきたのは
悠然と着物を着こなす長髪男子だった。
凛とした立ち姿は堂に入っていて見る者を魅了し、
たじろかせる。
「如月先輩、そうは仰いますが……」
「いけませんよ、
なんでもかんでも目くじらを立てるのは。
――大丈夫ですか? 逢坂有心くん」
にこりと微笑みかけられ、
有心は彼の纏う優美的な雰囲気に思わず息を呑んだ。
つるばみ色の羽織を着、
若草色の着物を身に纏う彼は、
その肩に一つ結びにされた黒髪を下ろし、趣きある風情だ。
白肌と伏し目がちな睫毛が彼に色気を与え、
線は細いがすらっとした体躯らは中性を思わせた。
「……はい、大丈夫です。
ただ叱られただけですから。
それよりもあなたは……?」
そう問うと、
なぜか彼はきょとんとした目で有心を見つめ返してきた。
「え、本当に知らないの?」
それは詞にさえ衝撃的な発言だったらしく、
口元を押さえている。
「いや、彼とは
初対面なのだから当然と言えば当然でしょう。
むしろ、
周知されていることの方がおかしかったのですから」




