如月清花
「そうは言いますが如月先輩――」
「自己紹介が遅れましたね、私は三年の如月清花。
着物を着ているのには訳がありまして、
そちらはあまり気にしないでいただけると助かります」
「は、はぁ……まあ」
あまりに似合いすぎて
指摘という行為すら思い付かなかったが。
「ところで如月先輩はどうしてこんなところに?
誰かにご用でもあったんですか?」
詞が質問を投げかけると清花は静かに首肯した。
「あぁ、
化学室にノートを置き忘れてしまいまして。
それを取りに行ってきた帰りですよ」
そう言うと、
清花は小脇に挟んでいたノートを掲げて見せた。
「しかしまあ――
本当に困っていることができたなら
相談していただきたい。
力になりますよ」
クラスは一組だと告げると、
彼は着物の裾を翻して颯爽と去って行った。
「それじゃあ私も帰ろうかしら」
と、清花に続いて詞も有心の元を離れてしまい、
ついには一人きりになっていた。
「なんか、静かだな……」
キャラの濃い二人と僅かながらも時を過ごしたせいか、
誰とも言葉を交わせない一人に
一抹の淋しさを覚える有心。
「ま、まあだからってセンパイに
凸撃されるよりは数倍マシなんだけどさ」
「――呼んだ?」
「ぅああっっ!!
い、いつからそこに……」
唐突に現れて、
ふふと微笑む一人の女子生徒
――言うまでもなく玉響に有心は腰を抜かしかけた。
「ついさっきだけど?
それよりも――」
逃げるが勝ちとはよく言ったもので、
有心は彼女が言い終える間に駆けだしていた。
しかし当然のごとく迫り来る凄まじい足音。
少しずつ距離を縮めてくる
彼女の執念に有心は背筋を震わせ、
駆けた先にあった空き教室に逃げ込んだのだった。




