043話 行動力
「フィナ様を部屋まで送ってくる」
アランはプレゼントを机に置きながら、書類に目を通していたギルに声をかけた。
「フィナ様がいらっしゃっていたんですね。送るって、アリスと一緒に来ていたわけじゃないんですか?」
「ああ、一緒にいたらしいが今はいないようだ」
ため息まじりにアランが答える。
ギルは"アランを一人にしないように"と昨夜セイン王子に言われていたことを思い出し、アリスはどこかに隠れているのではないか推測した。恐らくアランとフィナを二人っきりにさせたいのではと。ただ、これは推測なため、万が一ということもある。
「では、俺が後方から付いて行きますね。あ、でもちゃんと気配を消して、離れているので安心してください」
「そうすることに何か意味があるのか? ……まぁ、良く分からないがどちらでもいい」
ギルが小声でそう伝えると、アランは僅かに首を傾けたが、気にすることなく扉の前に立つフィナの元へ向かう。
「えっと……お手間おかけしてすみません」
恥ずかしそうにしつつも嬉しそうなフィナであった。横に並んで、明るい廊下を二人で歩き始める。
「いえ、大丈夫です。これも仕事の内ですから」
仕事……。フィナはチクリと胸が痛む。どうしたら自分に興味を持って貰えるのだろうか。迎えが来るまでに、少しでもそう感じてもらわなければ、次は会ってもらえないかもしれない。
「あのプレゼントは焼き菓子でしょうか? 良い匂いがしましたので」
「え? あ、はい。エーデル様に今日のことをお伝えしたら、一緒に作ろうと仰ってくださったので……。あっ! もしかして、甘いのはお嫌いでしたか?」
本当はお祝いの言葉だけでもと思っていたフィナであったが、エーデル王女の提案でクッキーを焼くことになったのだ。エーデル王女は何故か料理が得意だと言う。それについてフィナはとても疑問に思ったが、深くは聞けなかった。
「いえ、好きですよ。わざわざ作って頂いたのですね。ありがとうございます」
横を見上げたフィナの視線を合わせ、アランが見下ろして伝えると、フィナの顔がぼっと勢いよく赤く染まる。決して悪い気はしないが、アランはどうしてよいのかさっぱり分からなかった。そもそも、会ったばかりだというのに、何故こうまで想えるのか?
「……フィナ様は、私の何処が好きなのですか?」
「……え? えええ! あ、えっと……」
とりあえず、分からないことは聞いてみることが一番だ。感じるままに聞いてみたが、フィナはかなり動揺をしているようだった。
「ああ……。そう言えば、好きとは言っていませんでしたね。失礼しました」
「好きです! アラン様のこと、ずっとお慕いしておりました! あの日……、アトラス城で開かれたパーティーでっあっ、きゃあっ――――」
フィナなの頭の中は今、まっさらな紙のように真っ白だった。ごつごつとした硬い手がフィナの肩に置かれ、温もりを前面に感じる。
「大丈夫ですか?」
「……アラン様……あ、ありがとうございます……」
いつもは、自分のドジさに腹を立てるところだが、今は違う。何もないところで、またもや転びそうになったところを、アランが抱いて阻止してくれたのだ。
これは、チャンスなのでは? アランが離れようとしたところを、フィナはきゅっとアランの腰に腕を回した。心臓がはちきれそうではあったが、今だと思う時に動かなければ。今までもそうやって行動をしてきたフィナは、勇気を出して行動に出た。
「ど、どうしたら、アラン様のお嫁さんにして下さいますか? 私、今みたいにドジではありますが、度胸はあります。健康ですし、母のように子供も沢山産めると思います。アラン様のお仕事の邪魔にならないように待つことだって出来ます……」
顔を見なければ、フィナは自分の気持ちをなんとか伝えることができた。
「初めてお会いした時、アラン様の優しさに触れ、恋に落ちました。ですので、今回の機を逃したくないです」
「フィナ様……」
この段階では応えることも断ることもアランには出来なかった。しかし、マーサのことが好きなことは間違いない。まだ決めかねることを伝えようとしたその時だった。右腕にズキンと小さな雷が走ったような痛みが響く。
「っつ。フィナ様、この話は後ほど……。すみませんが少し急ぎましょう」
「え? あ、はい」
声を潜めたアランの態度に驚きつつつ、同意してアランから体を離す。アランは、フィナの腰を抱きながら足早に歩いた。




