042話 大切な日
翌日、フィナは一日中エーデル王女と室内でのんびりと過ごした。拐われてから怒濤の日々を過ごしてきたため、こんなにのんびり寛いだのは久しぶりだった。
柔らかなベッドに、美味しい食事。露出の少ない綺麗なドレスも着させてもらい、エーデル王女の優しさにとても心が休まった。
しかし、せっかく可愛くしてもらったものの、今日はアランとも、アリスとも、他の誰とも会えなかった。皆、忙しくしているようだ。
「フィナ、夕食後はまた一緒にお風呂に入りましょうね。アリスはまだ戻ってこないし、二人ですが」
部屋のソファーで恋人同士のように寄り添いながら、エーデル王女は微笑む。フィナはこの距離に大分慣れた。
「はい。アリスさん遅いですね……」
エーデルがフィナの顔を覗きこむと、表情が少し曇っているような気がした。
「フィナ? どうしたのですか? どこか具合いでも悪いのですか?」
「あっ! えっと……」
急に顔を赤く染め、慌て出すフィナにエーデル王女は首を傾げる。フィナはアリスの名前を出してはいたが、頭の中では他の人物のことを考えていた。
今日は大切な日。
「じ、実は……」
フィナの話を聞いたエーデル王女は瞳を輝かせた。
「まぁ、素敵! アリスが戻るまでに準備して、皆で参りましょう!」
夜十時過ぎ。静かな廊下に、遠慮がちに扉を叩く音が響く。暫くするとカチャリと音と共に、扉が開いた。
「……フィナ様。こんな夜更けにどうされたのですか?」
少し怪訝な表情をしたアランがそう尋ねると、フィナはびくっと肩を震わせ涙目になる。
「ご、ごめんなさいっ。あの……その……」
尻すぼみしていくフィナは、怒られた仔犬のようにしょんぼりとしている。
「……怒ってはおりません。何かあったのかと心配しているだけですから」
安心させるように笑みを作ると、今度は顔を真っ赤に染めた。フィナの表情がころころと変わり、なんだか忙しそうだ。そんな風に思い、面白くなったアランはふっと笑う。
作った笑顔ではない笑顔を初めて見た。
フィナの胸がとくんと小さく鳴る。このままずっと見ていたい。今度はぽうっとキラキラと輝く瞳でフィナは見つめた。
今度はただ見つめてるだけのフィナにアランは咳払いを一つつく。
「……で、フィナ様。何か用事があったのでは?」
「あっ。はい。えっと、これを……」
手のひら位の大きさの白い紙袋に、青いリボンがかけられている。それをフィナは両手に持ったまま、前に突き出した。
「これは?」
アランがそれを手にすると、フィナは嬉しそうに笑みを浮かべる。
「お誕生日おめでとうございます!」
誕生日……。そう言われて、アランは初めて自分が誕生日だったことに気が付いた。
「……ああ、そうでした。フィナ様、わざわざありがとうございます。とても嬉しいです」
社交辞令のような言葉と作った笑顔ではあったが、フィナは受け取ってもらえたことだけで満足だった。
「それでは、えっと……おやすみなさいっ!」
フィナが深々と頭を下げると、後ろの様子が良く見えた。フィナの側には誰もいない。
「フィナ様。お一人でここまで来られたのですか?」
「いえ。エーデル様とアリスさんと来たのですが……あれ? いない?」
フィナが後ろを振り返り、廊下を見てもエーデル王女とアリスの姿は全く見えなかった。その様子にアランはため息をつく。
「お送り致します。こちらを置いてくるので少しお待ち下さい」
「え?」
まさか、え? ふふふ、二人で歩く?




