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041話 疑惑

 薄明かりの廊下をアリスは真っ直ぐ前を見据えて歩く。窓から差込む月明かりが、険しく歪んだアリスの表情を映し出す。




――――エーデル王女の母ナディアは、当時十八歳。使用人であったナディアは、バルダスに気に入られ寵愛を受けた。


 この時、ティスの息子カルディアが一歳の時の話である。


 ティスはデール王国で有力貴族の娘であり、婚前に側室は取らないと約束を交わしていた。しかし、バルダスはナディアを側室として迎え入れる。理由はナディアが身ごもったからだった。


 ティスは怒りで体が打ち震えた。


 鬼の形相でバルダスに迫るティスに、後宮には行かないことと、ジェルミアに王権を与えないことを約束をした。


 しかしバルダスは、ティスの目を盗み、何度もナディアのいる後宮を訪れていた。


 ティスはお世辞にも美しくはない。目は糸のように細くつり上がり、常に誰かを威嚇するように光らせている。首はひょろりと長く、全身棒のようで女性らしい柔らかみは何一つなかった。バルダスにとって夜の営みは苦痛でしかなかった。


 そんなティスに比べ、ナディアは黄金に輝く艶のある美しい髪に、宝石のような瞳、なにより魅惑的な女性らしい柔らかな肉体を持っていた。そして、ジェルミアの名前を出せばどんな要求にも応えたのだった。たとえ性的道義観念に反する下品で卑猥な行為だったとしても……。


 決して愛があったわけではない。バルダスは物足りなさを埋めるためだけに、ナディアを好きなように抱いていただけだった。


 バルダスはティスにばれないように気をつけてはいたが、それから五年後、ナディアは新たな命を宿した。それがエーデルである。


 これによって、今まで後宮に通っていたことが露見され、ティスは大激怒。子を産み落とした後すぐに、ナディアに手をかけた。二年もの間、ずっといじめ続け、ナディアはとうとう自ら命を絶ったのだった……。




「どうしてそれを?」

「お兄様がとある女人から聞いたそうです。それから、裏も取ったそうです。ここの城の者達は、あの人が怖いのです。お父様同様、人ととして扱わないですから。私たち兄妹に手を尽くせば……いえ、とくに私。私に手を尽くすとあの人は嫌な顔をするのです」


 エーデル王女は視線を落とし、震える手を自分の手でぎゅっと抑え込んだ。隣に座るフィナはそれに気づき、優しく手を添える。


「……フィナ……」


 触れられた手の温かさに、エーデル王女はフィナに微笑んだ。


「あの人は、自分の欲のためなら何でもします。アトラスの侵略も最初はあの人が言い出したこと。フィナを襲ったのがあの人と関係しているかはわかりませんが、アトラスの人達が嫌いなのは確かです。念には念を……。だから、フィナ。ここにいる間は側にいて」

「エーデル様……ありがとうございます……」


 フィナはエーデル王女の優しさに感謝しつつ、エーデル王女の悲しみや寂しさを埋めてあげたいと心から思った。こんなところにいては気が休まらないだろう。

 もしも、ティス王太后がアトラス王国の人達を拐っているのであれば、許すことはできない。自分は運良く逃げることが出来たが、一緒にいた人達は今頃どこで何をしているのか……。


「……ということは、アラン様は大丈夫なのでしょうか……? アトラスの騎士である制服に身を包んでいらっしゃいます。悪目立ちしているのでは?」




 アリスはとある扉の前に立ち、ゆっくりと二回叩く。少し間が空いた後、扉が開いた。


「遅くにごめん。ちょっといい?」

「うん、どうぞ」


 中から出てきたギルは、アリスを部屋に通した。時計の針は夜十時を指している。部屋には、セイン王子とお風呂から上がったばかりの様子の上半身裸のアランもいた。


「その痣、また濃くなってない? 疼くの?」


 アリスは顔をしかめてアランの右腕を見た。


「ああ、城に入ってからずっとな。ラッドに聞いたが、今は警戒しろというだけだった」

「そう……。ねぇ、ジェルミア様からはティス様のことは聞いた?」

「いや。何かあるのか?」


 エーデル王女から聞いた内容をアリスは三人に伝えた。


「んー。ティス様か……。ジェルミア様も恐らく何かしら動いているかもね。まだ疑惑では俺たちに言うわけにはいかないだろうし……。どうしてそこまでアトラスを嫌っているのか何か聞いた?」

「はい。ティス様は昔から誰かの下にいることを嫌っていたようです。何度もバルダスと共にアトラスを訪れているようですが、自分たちを下に見ている態度が気に入らないといつも愚痴をこぼしていたと。恐らく、いつも隣でそう言われ続けたバルダスも、いつしかアトラスに馬鹿にされていると思い込んだのでしょう」

「確かに、バルダスはこの世界を自分のものにしたがっていた。だから力のあるアトラスを憎んでいた……」


 セイン王子が眉間にシワを寄せて何か思案していた。


「フィナ様はエーデル様にお任せするとして、アランも一人での行動は避けて」

「ああ、わかった。しかし、アトラスに関係があるのであれば黙っていられないな」

「セイン様。この件は私が調べても宜しいでしょうか?」

「なら、俺も手伝う」


 アリスの申し出にアランも名乗りをあげた。


「では、二人にお願いする。だけど無理はしないで。俺たちは今四人しかいないから。潜入する際はギルの魔法も使うこと。ジェルドにも協力を依頼しよう」





挿絵(By みてみん)



挿絵(By みてみん)

※雪華さんからいただきました!

http://mypage.syosetu.com/631491/

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