037話 優しさ
何度か休憩をはさみ、デール城に着いたのは地上が黒い闇に覆われてからのことだった。民衆が国王の戻りを待っていたようで、城下では沢山の人々が出迎え、歓迎してくれた。城下は街の灯かりと人々の笑顔で輝いている。
「凄い……まるでお祭りのようだわ……」
「それだけジェルミア様に期待をしているのでしょう」
フィナの呟きが聞こえたのか、アランはフィナの耳元で囁く。フィナはまた赤くなり固まった。そんな反応にアランはただ困ったように眉を寄せるしかなかった。
民衆に挨拶をするために、ジェルミア国王は馬をゆっくりと歩かせ手を振る。そのため、城下についてから城門に入るまではかなりの時間を要した。
「お兄様! セイン様!」
城の入口ホールで、エーデル王女がジェルミア国王とセイン王子を満面の笑みで出迎えた。体のラインがよくわかる青のマーメイドドレスは、その場にいる全員の目を惹き付けた。フィナもまた、エーデル王女の豊満な胸に釘付けだ。
「ただいま、エーデル。そのドレスはどうしたんだい? 少し胸が開きすぎてるようだけど」
「もぅ、お兄様。せっかくセイン様が来てくださったのだから、おめかしをしただけですわ。セイン様。その節はありがとうございました。今夜は是非お相手をさせてくださいね」
エーデル王女はジェルミア国王にプイッと顔を背け、セイン王子の腕に絡み付いた。
わわわわわ!
大胆な台詞と柔らかそうな胸をセイン王子の腕に押し付けたエーデル王女の姿にフィナは赤面する。片やアリスは僅かにムッとした表情を見せた。
「セイン様、お疲れになりましたでしょう? まずはお食事を。さ、早く」
そんな二人には気付かず、エーデル王女はセイン王子を食堂へと引っ張っていく。
「では君たちも一緒に。わが国の大切なお客様だからね。フィナちゃんもおいで」
ジェルミア国王が優しく笑みを浮かべる。フィナはこのような場に付いて行っても良いのか分からず、不安な表情を浮かべたまま黙っていると、隣にいたアランが一歩前に出た。
「ありがとうございます。では、お言葉に甘えさせていただきます。フィナ様」
「は、はい。ご好意感謝いたします」
アランがフィナに振り返り目配せをすると、慌ててフィナは恭しくお辞儀をした。
「残念だけど、フィナちゃんはアランくんにエスコートを任せよう。私はそれほど無粋ではないからね。それに私には愛らしい赤毛のアリスちゃんがいるから。さ、私にエスコートさせてください」
「え? 私ですか? いえ……私は……」
顔を真っ赤にしたアリスは、ジェルミア国王の素早い動きに抵抗できず、腰を引き寄せられて歩き出した。アランはちらりとギルを見て、小さく息を吐く。
「行くぞ」
「は、はい……」
アランは、ギルの背中を軽く叩くと、ギルは我に返ったように返事をし、一人みんなの後に付いて行った。
「ではフィナ様」
エスコートをするためにアランがフィナに左腕を差し出す。が、なかなか手が添えられてこない。フィナの方を見ると、想像通り顔を真っ赤にして右手が寸前で止まっていた。突き放すわけにもいかず、かといって期待をさせるわけにもいかない。アランは、今は結婚などは置いておいて、令嬢を預かっているという体で接することにした。
「お嫌でなければどうぞ……」
「あ、嫌ではないですっ! よろしくお願いしますっ!」
アランのさり気ない優しさに、フィナはやっぱりこの人しかいないと腕に手を添えながら胸をときめかせた。




