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026話 報告

 暗い夜空に薄い雲がかかり、僅かばかりに星が見える。野営地ではいくつかのテントが並び、かがり火が各所で闇を照らす。

 暖を取るため、中央に設置された焚き火を囲いながら子供たちは食事をとっていた。しかし、子供であるにも関わらず、彼らは相変わらず会話が少ない。炎によって木が弾ける音の方が大きいくらいだった。



 そこへ討伐を終えたセイン王子等がガヤガヤと帰ってきたことにより、この野営地も急に騒がしくなった。その音に、アリスは一人テントから飛び出し、セイン王子の元へ近づく。


「セイン様、ご無事で何よりです。早速ではございますが、フィナ様よりお話を伺うことが出来ましたのでご報告申し上げます」


 セイン王子、ギル、アリス、アランの四名は、ジェルミア国王がいるテントへ向かった。テントの中には、ジェルミア国王の側近と騎士二名も待機している。中に敷き詰められた絨毯の上に座り、アリスは主にセイン王子とジェルミア国王に向けて報告を行った。


「――――そのことから、デールまたはその先の国で人身売買の取引が行われている可能性がございます」

「……確かに、その可能性は高いかもしれない。デールは格差が激しい。貴族等は、ずっと好き勝手を行ってきたからね……。しかし、他国から……ましてや貴族を……」


 報告を受けたジェルミア国王は、眉をよせ、瞳を閉じて両手でこめかみを押さえた。デール王国での取引の可能性は高かった。前国王はアトラス王国を嫌っていた。その風潮が貴族の間にもあったことは確かだ。であれば、アトラス人を奴隷にすることはステータスにもなっているのかもしれない。


「この近くに川が流れていました。フィナ様はその上流で飛び降りたということになります。まずそこから足取りを辿り、取引をしている現場を押さえたいですね。未だに捕らわれている人もいるため、早急に手を打つ必要があるかと思います」


 セイン王子は、ジェルミア国王にそう告げると、アランの方に向き直る。


「アラン。これにはアトラスの協力も必要だ。これ以上被害が拡大しないようにデールとの国境に警備を増やそう。また最近、行方不明になった者がいないかを調べなくてはならない」

「はい。直ちに手配します」


 セイン王子の提案に、アランは深く頭を下げた。それを見たジェルミア国王は顔を上げ、アランを真っ直ぐ見据える。


「デールの貴族は我々が調査するよ。もし我が国で行われていた場合は、またアトラスへ詫びねばならないな……。だけど、これは腐った根を見つける良い機会だね。人は一人ひとりがかけがえのない、尊いものだということを全ての者達に教え込まねばならない」

「はい、宜しくお願いします」

「ジェルミア様……。ローンズも協力致します」

「ありがとう、セイン様」


 ジェルミア国王は、セイン王子に小さく笑顔を見せる。二人はエリー王女の件に関してわだかまりは多少あるものの、仲良くやっていた。


 セイン王子はこの空白の二年に何があったのかは知らない。もちろん、僅かに二人の関係について耳にすることはあったが……。しかし、ジェルミア国王のエリー王女への態度が、しっかりと一歩引いたものに変わっており、親しい様子は全く見えなかった。そのお陰でセイン王子は安心できた。


 アランもこれくらいしてくれたら良いのに。


 それを感じた時のセイン王子は、ついアランを引き合いに出してしまっていた。アルバートもエリー王女とは、確かに親しく話してはいたが、ちゃんと距離感を感じられたし、自分に対して気遣いも感じた。なのに、アランからはそれが全く感じられない。


 エリー王女とアランが親しく手を取り合い、見つめ合う――――。


 突然良からぬ想像がセイン王子の脳裏をかすめた。そんなことがあるわけがない。エリー王女も信じているし、勿論アランも信じている。セイン王子はその想像に、直ぐ蓋をした。




「さて。それで、助けた令嬢、フィナちゃんはどうしようか? 送り届けるにも人手不足。また王都はあと一日もあれば着くし、フィナちゃんが嫌ではなければ我々と行動を共にするのはどうだろう? その方が安全だし、迎えを城で待つ方が良いと思うんだけど? もちろん、傷付いているのなら私が癒してあげてもよいしね」


 そう笑顔を見せるジェルミア国王は、根本的には変わっていないようだった。





挿絵(By みてみん)




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