025話 フィナとアリス
現実に引き戻されたフィナは体を起こし、息を整えながら辺りを見渡す。十人は眠れる広さのあるテントの中に、異国の制服を身にまとった女性が一人目の前にいた。赤い髪が印象的だ。
「ここは……? あなたが助けてくださったのでしょうか?」
最後に見た後ろ姿は、アトラス王国の騎士の制服を着た男だった。フィナは不思議に思い、そう訊ねた。
「初めまして。私は、ローンズ王国の騎士アリスと申します。今我々は、デール王国の王都を目指しております。この一行の中にアトラス王国の者もおり、その者が救助しました」
「ぁ……私、フィナ・バッファと申します。助けて下さってありがとうございます。……少しだけ覚えております。その方は今どちらに? その方にもお礼を申し上げなくては……」
フィナは納得した。やはりあの後ろ姿はアトラス王国の騎士だった。もし、助けが遅ければ自分は今頃……。頭に過る恐ろしい想像に、フィナの背筋は凍る。
「彼は今、フィナ様を襲った連中の討伐に出ております。直ぐに捕まりますのでご安心ください」
「……アリス様……、実は、最初はあの者たちに拉致されたわけではないのです……」
フィナは神妙な面持ちで、事の成り行きをアリスに語りはじめた。フィナは、話しながら恐怖を思い出し、喉を詰まらせながらも、なんとか全てを伝えた。
「……本当に怖かったことでしょう。それでも、よく頑張られました。フィナ様のご家族もきっとお喜びになられることと思います」
アリスは険しい表情で話に聞き入っていたが、最後には優しく微笑んでくれた。フィナはその言葉に涙目で「はい」と答えた。
「あ、あと、向かう予定だったお見合い相手の方も心配していらっしゃるかもしれませんので、その方にも早急に知らせを飛ばします。どちらの家でいらっしゃいますか?」
「ラッシュウォール家です……」
アリスは、その名前を何となく聞き覚えがあった。アトラス王国の騎士の中にそんな名前があったような……。
「あっ! もしかしてアランの家じゃない?」
「え? ご存じなんですか?」
思わずフィナを指さし、普通に話してしまったアリスは少しばつの悪い表情を見せたが、フィナは気にする様子もなかった。
「さ、先ほどフィナ様を助けた者というのが、アランです。アランはエリー様の側近ですが――――」
「きゃあ! ど、どうしましょう!? ああ、私、こんな酷い格好で……ほら、髪もこんなにボサボサで……。だって、まさか、そんな!」
急に慌てた様子のフィナを見たアリスは、少し驚いたが、その様子がなんだか可愛らしくて思わず笑ってしまった。
「ああ、ごめんなさい。凄く可愛いくって。そうよね、お見合い相手には綺麗な姿を見てほしいわよね。あ、すみません。つい、親しいような口調で話してしまいました」
「そんな! 全然構いません! 私としてはその方が嬉しいです。普通に接してください。ああ、それより、私こそ急に慌ててしまってすみません。もう、本当、恥ずかしい……」
フィナは赤らめた頬に両手を当て、小さく舌を出した。
か、可愛い! アリスは、アランからフィナは十八歳だと聞いていた。アリスとの年齢差は八歳。アリスから見ればそう思わずにはいられなかった。
それからフィナは、少し考える素振りを見せた後、もじもじとしだしたので、アリスはどうしたのかと訊ねた。
「じ、実は……アラン様は初恋の相手なんです……。だから、このお見合いのお話を頂いた時、凄く嬉しくて……。そして、今回助けてくれたのがアラン様だったなんて、なんだか……運命的だな~……なんて……。ああ、アラン様には言わないでくださいね! ちょっと恥ずかしいこと言っちゃいました」
ぽっと顔を赤らめるフィナは、恥ずかしそうに俯いた。
あああ、可愛い! こんな可愛い子があのアランを? アリスは、アランには勿体ないとは思いつつも、この小動物を思わせるようなフィナに協力してあげたくなった。
「もちろん言わないわ。そうね、じゃあ、とりあえずアランが戻る前に奇麗にしようか」
アリスはにこにことフィナに笑顔を振りまいた。




