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014話 距離 *

 マーサの言葉を聞いたアランは何かを考えている様子でじっと動かなくなった。変なことを言ってしまったのだろうかと、マーサが不安になり始めた時だった。


 アランが繋いだ手を引き、マーサを優しく抱き寄せた。


「マーサさんが良ければ……」


 急に抱き締められたマーサは顔に熱が集まるのを感じた。アランの言葉と行動の意味が分からず、動転した気持ちを落ち着かせようと試みる。


――――もう少し一緒にいてください。そして、もっと私を知ってください――――


 最後に言った自分の言葉を思い出し、はっとした。誘ってるようにも聞こえる。むしろ、アランはそう読み取ったのだろう。そう思ったら急激に恥ずかしさと緊張が込み上げてきた。マーサとしてはそういうつもりで言ったわけではなかったが、そうなったとしても嫌ではなかった。むしろ……。


 マーサはアランの胸の中で控えめに頷いた。どういうわけか昨日よりも緊張する。それはマーサだけではなくアランも同じだった。


 緊張で硬くなっている様子のマーサの肩を掴み、少し体を引き離すとアランは少し体を屈めた。ふっと縮まる距離にマーサが瞳を閉じると、唇が優しく触れ合う……。その瞬間、繋いでいたマーサの手にきゅっと力が入った。それを感じたアランは、同じように力を込めた。


 こんな小さな反応だけで、アランは嬉しく感じた。マーサは良く知っている人ではあったが、それは表向きの顔であって、本当の顔は知らなかった。それは恐らく誰もが、そう、エリー王女ですら本当のマーサを知らない。それを今は自分だけが知っている。そういう優越感をアランはじわじわと感じていた。


 アランが唇を少し離すと、マーサは瞳をゆっくりと開き、僅かに顔を後ろに退いた。それを逃すまいとアランは首をさらに傾け、マーサの肩に置いていた手を後頭部に回し、引き寄せるように唇を重ねた。他の誰も知らないマーサをもっと知りたくなって、求めるように舌を絡める。


 そのままゆっくりベッドへと近づき、アランはマーサを押し倒した。


「いいですか……?」

「……はい」


 アランは自分の腰ベルトを外し、上着を脱ぎ捨て、ネクタイを外す。その一連の動作に色気を感じ、マーサは下からそれに見入っていた。見られていることに気がついたアランは、照れ隠しをするかのようにマーサの唇を塞いだ。


 お酒が入っていない分、冷静でいられるかとアランは思っていたがそうではなかった。敏感に反応を示すマーサの一つ一つが鮮明すぎて、逆に高揚感を抑えられなかった。そして、乱れて行くマーサは得も言われぬほど美しかった。


 繋がったままマーサの体を抱き起こし、向き合った状態でアランの上に座らせる。マーサは、ぎゅっと体にしがみつき苦しそうな声で名前を呟く。


「…………アラン様……っ」


 名前を呼ばれることがこんなに嬉しいとは思わなかった。少し体を離し見上げると、切ない表情のマーサが見つめてくる。その表情にぞくぞくと気持ちが高ぶり、アランは頬を撫でた。


「マーサさん……」


 アランが忘れた言葉をもう一度言ってもらえるのだろうか? マーサは潤んだ瞳で小さな期待を込めてアランを見つめた。





挿絵(By みてみん)




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