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超能力を使えるわたしが異世界に拐かされて神々の王様になる話  作者: ちょろんぞ/小野崎まち
第一部 幼年編――《ネコとウサギのダンス》
18/28

17. そして彼女は目を覚ます

「ほら、起きろー近白このしろ。まだ授業中だぞー」


 声と、頭の上を軽く叩かれる感触で目を覚ました。

 うつ伏せになっていた顔を上げると、真っ暗だった視界に眩しい光が入り込み、目の奥がズキンと痛みを発する。


「まったく、頼むから出席しているときぐらいはきちんと授業を聞いてくれよな。先生、泣いちゃうぞー?」 


 状況が、つかめない。

 目眩。世界が歪み、揺れている。気持ちが悪い。

 頭の中は靄がかかったようにぼんやりしており、自分が誰で、ここがどこで、なにをやっていたのか思い出すことができない。


「聞いてるか、近白。先生はこっちだぞ?」


 声のするほうに顔を向けてみれば、わたしのすぐそばに立った男の人が呆れ顔でこちらを見下ろしていた。

 黒髪、眼鏡、白いワイシャツにネクタイ、紺色のスラックス。

 見覚えのある顔だった。

 ついこの間までは、ほとんど毎日顔を合わせていた人。

 

「せん、せい?」


 その言葉が口から零れるのと同時。

 それまで曖昧だった周囲の全てが、突然クリアになった。

 定かではなかった意識も、はっきりとする。


「――――」

 

 小学校の、教室。

 整然と等間隔に並べられた数十の机と椅子。

 その席に着いて机の上に教科書やノートを開いているのはわたしと同年代の子で、やはりどれも見覚えのある顔ばかりだった。

 彼ら彼女らはわたしを見てクスクスと小さな笑い声を漏らし、隣席の子と何事かをささやきあっている。

 中にはうんざりした様子で顔をしかめたり、睨みつけるような目をわたしに向ける子もいた。

 

 それは、いつもの光景・・・・・・だった。


「――――ひ」


 息が、止まった。

 血の気がざぁっと引いて、手足の先から熱が失われて冷たくなっていく。

 

「は、……な、ん」


 うまく息を吸うことができない。

 息苦しい。

 空気を求めてあえぐ口が、ぱくぱくと開閉を繰り返す。

 

 わけが、わからなかった。

 なにがどうして、こうなっているのだろう。

 ここは、わたしのいるべき場所・・・・・・・・・・ではなかった。

 こんな苦しくて辛いことだけしかない世界からは、解放されたはずなのに。

 迎えに来てくれたとても美しいあのひとに、ここではない何処かへ――わたしが本当に生きるべき場所へ連れていってもらったはずなのに。

 どうしてわたしは、またここ・・に戻ってきてしまったのだろうか。

 

「どうした近白? 顔が真っ青だぞ。……もしかして苦しいのか? おい、近白?」


 胸元を握りしめて、机の上に倒れ込む。

 苦しい。

 息が、できない。

 鼓動がどんどん速く激しくなっていき、まるで大きな鐘を鳴らしているかのような騒音が頭の中に響き渡る。


 まちがっている。


 ここは、わたしのいるべき場所じゃない。

 ここには、わたしをありのままに見てくれるひとなんて、ひとりもいなかった。

 わたしの味方になってくれて、大事にしてくれる誰かなんて、この場所のどこをさがしてもいなかったのだ。


「い……や、だ」

「近白!? しっかりしろ近白! まずい、もしかしてこれは過呼吸か!? 誰か紙袋をもっている子は――」


 いや、だ。

 いやだ。

 イヤだ。

 嫌だ。

 嫌だ、嫌だ、嫌だ。

 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。


 こんな場所には、一秒だっていたくない。

 帰りたい。

 あの場所へ。あの世界へ。

 この世のものとは思えないほどに幻想的で綺麗な風景と、そこに暮らす綺麗なひとびと。

 彼女たちのもとに、戻りたい。

 あれは、あの世界は絶対にわたしの妄想なんかじゃなかった。

 たしかにあの地は、ここではない何処かは、存在していたのだ。


「ほら近白、この紙袋の中に息を吐いて――」


 視界が明滅して、端のほうから徐々に暗くなっていく。

 目に見える全てが、黒く塗りつぶされていく。

 そうだ。それでいい。

 こんな世界、わたしを拒絶する誰も彼も、闇の中に消えてしまえばいい。

 そうやってこの世界の全てと一緒に、まちがった場所にいるこのまちがったわたし・・・・・・・・も消えてしまえばいいのだ。

  

 きっとこれは、悪い夢だから。

 夢が終われば、現実で目を覚ます。

 わたしの本当の居場所で、心に平穏をもたらす地アタラクシアで、目覚めるはずなのだ。


 だから、どうか。

 ――こんな世界、なくなってしまえ。


 世界が闇に沈む直前。

 遠くて近いどこかで、「ご馳走様」と囁く声を聞いた気がした。







 

 ――そうして、わたしは寝室で目を覚ました。


 目に映るのは暗闇。

 遠くから聞こえるのは虫の声。

 香るのは畳のい草の匂い。

 

「……へへ、へへへ……あっしに逆らうとどうなるかわかってんのかぁ……? あっしのバックにはキングがついてるんだぜぇ……?」


 胸の上には丸みを帯びた物体が乗っており、ほどよい重さとほのかな冷気を感じる。

 このお手本のような三下ムーブの寝言。

 まごうことなくミャーくんである。それ以外の何者でもない。


 つまり、ここは《天上世界アタラクシア》。

 わたしがいるべき場所だった。


 そう認識した瞬間、ドッと全身に安堵が押し寄せてきた。

 心臓の音が耳に煩い。

 夏の夜だというのに全身が冷えていた。

 襦袢の肌に張り付く感触で、初めて自分が汗だくになっていることに気づく。

 

「……はぁ」


 ミャーくんを起こさないようそっとわきにどかして、身体を起こした。   

 あたりを見回す。薄暗いが、完全な闇というわけではなかった。

 廊下側の仕切りである襖を透過して室内を照らす月明かりは、畳の上に薄っすらと影を作る程度には強い。

 どうやら、いまだ夜明けには遠い時間帯のようだった。

 

「……?」


 枕元でなにかが動く気配を感じて振り返れば、そこに置かれていた旅行鞄――ポチがこちらを窺うような動きを見せていた。

 なんとなくではあるけれど、わたしを心配しているのが伝わってくる。

 たぶん、あの夢を見ているときに魘されでもしていたのだろう。

 

「……大丈夫」


 手を伸ばして撫でてあげると、ポチはすぐに大人しくなった。

 ただの鞄のように身動きを止めて静かになる。

 小さく息を吐くと、自然と肩が落ちた。

 妙に怠い気分だった。しかしだからと言ってすぐに寝直す気にもなれず、しばらく身体を起こしたままぼうっとする。

 そうしていると、ふいに喉に渇きを感じた。汗をかいたせいかもしれない。

 億劫だったが、気分を変えるのにもちょうどいいかと考えて、気怠い身体を動かして寝床から這い出た。

 居間に向かう。


「…………」


 しん、と静まり返った廊下を歩いていたわたしは、もう少しで居間に辿り着くというところでその足を止めた。

 縁側に、人影を見つけたからだ。


 サクラ、だった。

 わたしとおそろいの白襦袢を着た彼女は、縁側に腰掛けてなにをするでもなく空を仰いでいた。

 宝石箱のように彩り豊かな星空を見上げる、煌々と輝く月明かりに照らされた彼女の横顔。

 それは彼女の美貌に慣れつつあったはずのわたしでも、思わず息を呑んでしまうほどに綺麗だった。

 青く見えるほどに白い肌、頬。

 そよ風に靡く黄金の髪。

 まるで小さな月であるかのようにきらめく、黄金の瞳。


 その様は星空に見惚れているようにも、人の目には決して見えない空の彼方、深淵を覗き見ているようにも思える。

 そうしているサクラは無心な少女のようでありながら、同時に深い叡智を備えた人にあらざるもの――まさに神様のように神秘的な存在に見えた。

 その眼差しが、つぅ――と宙を滑るように動いて、呆然と立ち尽くすわたしに向けられる。


「そんなところで、どうしたの?」


 小首を傾げてそう問われて、ハッと正気に返ったわたしはすぐに言葉を返そうとした。

 ――のどが渇いて。

 ――たまたま目を覚まして。

 けれど、どうしてだろう。その言葉が口から出てくることはなかった。

 喉元まで迫り上がってきているというのに、それより先に出てこようとしないのだ。

 

 混乱するわたしの頭の中に過ぎるのは、夢に見た光景。

 酷い、夢。

 悪い、夢。

 この世界で見た景色も、この世界で出会ったひとも、なにもかもが幻で。

 本当のわたしはずっとあの場所でひとりぼっちで、息苦しさを感じながら毎日を生きている。


 あまりにも、ひどすぎる夢だった。

 思い出すだけで全身が冷たくなって、目眩がして、気分が悪くなる。

 わたしの中からなにかがあふれ出そうになって、それを外に出すまいと必死で唇を噛みしめた。


「……まったく、あなたは。そんな顔をして」


 呆れたような声と、溜め息が聞こえて。

 夜の闇の中を、黄金のきらめきが走った。

 それはわたしの身体に巻き付くと、抵抗する隙もない速さと力で瞬きの間にサクラのもとへ引き寄せた。

 その勢いのまま彼女の胸元にぼすっと顔を埋める形になったわたしは、突然のことに声をあげようとして――。


「ぁ」


 それ以上の言葉を止められた。


「――――」


 柔らかくて、あたたかいものに、包まれる。

 まるで、全てを受け入れてくれるかのような。

 わたし以外のあたたかさ。温度。他者の、ぬくもり。


 わたしは、サクラに抱きしめられていた 

   

 花の匂いがする。

 桜の花の香り。

 サクラの、匂い。

 

 サクラの身体と香りに包まれていると、これまで感じたことがないほどの安心感が湧き上がってくるのを感じた。

 波立っていた心が、静かになっていく。落ち着きを取り戻していく。

 

「……怖い夢でも見たの?」


 ゆっくりと頭を撫でられて、手櫛で髪の毛を梳かれて、とんとん、とやさしく背中を叩かれる。

 そうして耳元で囁かれるサクラの声は幼い子供に話しかけるようで、普段よりずっとやわらかなものだった。

 わたしは、彼女の胸の中で、小さく頷いた。


「そう……それは怖かったわよね。辛かったでしょう。きっとどこかの性悪な悪魔・・・・・がちょっかいを掛けてきたのね」

 

 サクラの背中に腕を回して、こちらからも抱きつく。

 ぎゅっと抱きしめる。


「でも大丈夫よ。たとえそれがどれほど酷い夢であろうと、夢は所詮夢でしかない。あなたが本当に生きているのはこの世界。この場所。この現実なの。――あなたは、たしかにここにいるのよ」


 頷く。

 何度も、頷く。

 

「人違いではなく。誰かの代わりでもなく。居るべくしてここに居て、在るべくしてここに在る。たとえあのときわたくしが迎えに行かなくとも、遠からず力の暴走によってあなたはこの地に招かれていたことでしょう。それがあなたにとっての運命・・なのだから」


 わたしの頭に、彼女の頬が寄せられて。

 存在をたしかめるように、擦り合わされる。


「なにも不安に思うことはないの。この世界もわたくしたちも幻ではなく、たしかにここにいる。あなたはたしかに望まれて、ここに在る。だから、あなたはひとりぼっちなんかじゃないのよ」

「…………」

「苦しい、辛い、悲しい……そう感じたときは、声を上げて助けを求めなさい。きっとあなたのことを好きで好きで仕方がない者たちが、我先にと駆けつけるでしょうから。それがたとえ、夢の中であってもね」


 それから、しばらくの間があって。

 

「……もちろん。わたくしもよ」


 消え入るように小さな声で、そう付け加えられた。

 その言葉が耳に届いて。

 わたしの心に届いて。

 言葉にできないものが、胸の中にあふれた。

 それは先ほどのように喉元まで迫り上がって、こぼれ出そうになったけれど、やっぱりわたしは唇を噛み締めて、押しとどめた。

 でも身体の震えを止めることだけはできなくて。

 落ち着かせるように、サクラはわたしの背中をゆっくりとさするのだ。

 

「――、――――、――、――」

 

 わたしを抱きしめながら、サクラは歌を口ずさむ。

 言葉をもたない歌。美しい音色。旋律。

 いつかの夕暮れのときも奏でていた曲だ。

 身体の中に染み渡ってくるようなゆったりとした歌を聴ききながら、わたしの意識は徐々に遠くなっていく。

 安寧の暗闇に沈んでいく。

 

 完全に意識が途切れる寸前。

 思い至ることがあった。

 

 サクラの奏でるこの美しい音色。

 それは、たぶん、子守唄だった。






 

 

 ――あらあら、またこんなところにまで降りて・・・きて。


 意識に、ノイズが走った。

 不快な音が、木霊する。

 

「つい先ほどもこの上なく芳醇で濃厚な、心が震えるほど素晴らしいモノを頂いたというのに。もしかして、また妾にご馳走してくれるのかしら?」


 それは耳元で、或いはずっと遠くから響いてくる。


「今度はどんなシチュエーションがご希望? またあちらの世界に戻される夢? それともこの世界の者どもに手ひどく裏切られる夢? ……いえ、そうね。あれほど美味しいものを食べさせて・・・・・くれたのだから、そのお礼に今度はとろけるほどに甘い夢を見せてあげましょう。そのまま溺れてしまうほどに。二度と目を覚まそうとは思えなくなるぐらいに」


 誘うように、媚びるように。

 蜘蛛の糸のごとく、まとわりついてくる声。


「そうして、この夢の世界でずっと妾と過ごすの。溶け合って。混じり合って。世界が終わるまで、永遠に睦み合うのよ。――ああ、それって、なんて素敵なのでしょう」


 なにかが、わたしに触れてくる。

 ひどく甘い芳香を放つなにかが、そばにいる。


「そうしましょう、おうさま。妾とここで、尽き果てぬ至上の快楽を――」


 やわらかなものが、わたしに覆いかぶさり。

 わたしのすべてを包み込もうとして。

 

 ――助けて。




「そこまでにしなさいな、性悪悪魔。それ以上この子に近づいてごらんなさい。――ぶち殺すわよ」




 わたしの身体にまとわりついていたものが、一瞬で掻き消えた。

 代わりに、先ほどとはまったく異なる、とてもあたたかくて安心するものに包まれる。

 

「かか様に手を出したのですから、問答無用で消し飛ばしてしまってもいいのでは?」


 それはひとつではなく。


「よいのではないか? どれ、吾れがじきじきに、二度とふざけた真似ができんよう粉微塵にすり潰してやろう」


 覚えのある気配が、次々に増えていく。


「いくら腹が空いたからってねぇ、今のこの子に手を出しちゃマズいでしょうに。アタシも止めるつもりはないよ」


 クジラの鳴き声もどこかから聞こえてきて。

 わたしは、とても暗くて深い場所から引き上げられていく。

 同じ暗闇で、けれど静かで穏やかな場所へ運ばれていく。


「ほ、ほほほ。いやぁね、ちょっとした冗談でしょう? 妾のお茶目な小悪魔ジョークよ。そんな、軽くつまみ食いしただけで、これ以上手をだすつもりは――あ、ちょ、うそでしょ? 冗談だって言ってるじゃない! 短気を起こすんじゃないわよ!? ルーナ! ルーナぁ! こいつらを止めなさいよ! 妾と同じ夜の眷属でしょう!? え、ビッチと一緒にするなって……ひっ、あ、やめっ、きゃあああああああああああ――――――!!」


 それが、この夜の夢の最後だった。

 わたしの意識は、夢も見ない深い眠りに包まれて。


 最後に、おやすみなさいと告げるたくさんの声を聞いた気がした。

  







         **********








「――彼女にお灸を据えるのも、ほどほどにしてよ」

「もとより本気で潰そうだなんて思っていないわよ。あれでもれっきとしたアタラクシアの住人だし、その性質上、仕方のないことでもある。彼女たちも、ある程度虐めれば気が済むでしょう」

「……よく言う。『ぶち殺す』とかいう念が外にまで伝わってきたんだけど」

「あら、品のない言葉。わたくしがそのように汚い言葉を口にするわけないでしょう?」

「…………」


「それにしても珍しいわね。この子がいる『時』をあなたが訪れるなんて」

「ちょっと、加減を誤ったみたい。……この様子だと戻りすぎた・・・・・かな」

「ふふ。なにを必死に視線を逸らそうとしているのよ。もしかして照れているの? 見てご覧なさいよ、この愛らしい寝顔。性悪悪魔の言葉ではないけれど、食べちゃいたいぐらいだわ」

「……うるっさい」

「今のあなたがどの程度の年齢かはわからないけれど、このときのこと、覚えているのかしら?」

「………………うるっさい」

「まあ、わかりやすいこと。そういうところ、やっぱりいくつになっても変わらないのねぇ」


「そろそろ、行くから。万が一にも顔を合わせるわけにもいかないし」

「運命を歪ませると、あとが大変だものね。でも残念だわ。大人になったあなたとも、もう少しお話ししていたかったのだけれど」

「いずれ嫌でもお話できるようになるでしょ。神的存在あなたたちにとってみれば、ほんのちょっと先のことでしかないんだから」 

「そうね。その日を楽しみに待っているわ。もちろん、この初々しいあなたと過ごす日々も新鮮で悪くはないのだけれどね」

「……ふん」

「あまりにも印象がちがうから、最初はどう接したらよいものか戸惑ってしまったわ。あなたにもこういう時代があったのね」

「当たり前でしょ。そっちだって人のこと言えないじゃない」

「……それを言われると辛いわね」

「お互い様ってことでしょ。――じゃ、本当にもう行くから」

「ええ。また、会いましょう」

「うん。また、ね」


「――甘ったれで、素直じゃなくて、呆れるぐらいに脆かった昔のわたしを、どうかよろしく」








 夢現ゆめうつつに、そんな、誰かと誰かが交わす会話を聞いた気がした。

 世界で一番安心できるひとと、よく知っているようで、まったく知らない誰かの声だった。


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