幕間その4 <陰謀と欲望と2>
「ふーん、で、お前さんは脅されて仕方なく、山賊どもに水や食料を提供して目こぼしをしてもらっただけだと。」
「も、も、もちろんでございます。将軍様、お慈悲を、我ら小さな村の民は、なんら守るすべもないか弱き民でございます。女房や子供を人質に取られればいかんともしがたく・・・。」
ハンカチを取り出し、目元をぬぐいながら、嘘泣きの涙すらこぼして見せるミレン村の村長。
セイジたちが来た翌日、教会の惨状に仰天した村長は、
『村の教会で、山賊たちが同士討ちをしでかし、大量の死者が出た』
と政府に連絡を入れた。
いくら村長でも、あれだけの死体の片づけをさせて、村人の口を封じることは不可能だからだ。
しかし、普通は連絡から最低でも一か月はかかるはずが、二日後に公国軍の一団がやってきて、村長を最も近いビルド砦まで連行したのだ。
『なぜ山賊が、村の教会まで押し入って来たのか』という質問に、必死に答えているところである。
「いや、俺は将軍様なんぞじゃねーんだがな。」
目元に隈があり、陰気な顔つきのブテンは、うんざりしながら返答する。
「いえいえ、その雄大な体つきと言い、見事な鎧と言い、将軍様と申し上げても過言ではございませぬ。」
揉み手で擦り寄らんばかりの歯の浮くようなセリフだが、将軍直属兵の一人であるブテンには、むしろイヤミとしか思えない。
「し、しかもでございます。」
村長はいけにえの羊を思いついた。それを思いっきり高く売りつけることにする。
「私の村に来ておりました、年寄りのボケた神父、それをだまして付き添ってきたハイネとかいう黒眼黒髪のシスターがおりまして、これがまたひどい淫売でして、」
「ほお、」
「山賊のすみかに何度も泊まり込み、つるんで悪さをし放題、ワシも何度脅されたことか、クウウウウ・・・」
「すると、おまえは被害を受ける一方で、えらい目にあわされ続けたと言うのだな。」
「さようでございます!、悪いのは山賊とあの淫売シスター、そいつらが村を苦しめ続けた大悪人でして。」
そして、村長はさらに上乗せをはかる。
「ついには、うちの村にたまに薬草を買い叩きにくる、ドレンという得体のしれぬ男がおりましてな、これの紹介だという男一人に女が三人連れの、さらに奇妙な連中が来たのでございます。妙に小柄で子供臭いくせに、やたら尊大なセイジとかいう男と、いかにも男ずれした、イーラとかいう大柄な女戦士に、フードをかぶった妙に血色のいい女が確か不遜にも公女様と同じ名前ディリエルと名乗っておりましたか、これまたひどく男を誘う気配を垂れ流して、たぶん名うての娼婦でございましょう。それにもう一人キアナとかいうのも、聞いたことない妙な話し方をする女でして、このあたりの人間ではありますまい、あれは怪しい。」
「ほお。」
「これが、私がお止めするのも聞かず、ハイネのいる教会に泊まるというのです。あれは絶対ハイネの悪い仲間でございましょう。その翌日にあの惨劇、おそらく山賊と分け前か何かの事で争ったのでございましょう。どうぞ、あいつらをすぐひっ捕らえて、縛り首にしてくださいませ。でないと、私どもは安心しして寝ることができませぬ。」
いやもう、本人がいないから言いたい放題である。
「では、これはなんだ?」
横の兵士が、箱を開けた。かなりの数の黄金、それもあまり見かけない形の金貨である。
村長の顔が明らかにひきつる。
「お前の家の暖炉の下に隠されていた。これは王都でもめったに流通しとらんチーヤイの大型金貨だ。そんなものがこんなに大量に、何であるんだ?。」
「こ、これは、私の祖父が、昔の取引でこつこつ貯めていたという、言い伝えのある金貨でして。」
「ほおおおお、だがな王都では、この金貨が全く取引が無いわけではないのだ。お前のような田舎者は知らんだろうが、この金貨は『三年前に』新しく鋳造されたものだ。」
ギクッ
村長の心臓が飛び上がり、気持ちの悪い汗が、だらだら滴り始めた。
「なあ、これだけの儲けが出る話、誰でも聞きたいとは思わんか?。俺も人の子よ、魚心あれば水心とも言うではないか。どうやってこれだけ稼いだんだよ、ちいと教えろ。」
急になれなれしげな口で、顔を寄せて話しかけてくる口調は、その手にひどく慣れた様子だ。これは助かるかもしれないと、村長は希望を持った。
「ふむふむ、では山賊の連中に、食料を渡すとき聞かれた事を教えていたら、仮面をかぶった連中が来て、情報を買っていったと。」
「さ、さようで。もしよろしければ、貴方様もご一緒にいかがで。」
「これだけの金貨、相当な額よな。いい話じゃないか。」
「でございましょう。私どもも知らなかったのでございますが、公王陛下のお通りのかいばや水などは、特にうるさく聞かれ、その口封じだったと思われます。」
「知らなかったか、そうかそうか。公王陛下のお通りと言って伝えたのに、知らなかったというのだな。」
「まさか、あのような事があるとは夢にも思いませんでしたのでございます。」
「いや、それを言っているのではない。そもそも、公王陛下のお通りの事、どのような事があろうと、外に漏らしてはならぬと言われておったであろうが。」
「え、い、いや、その、あの・・・・」
それまでの仲間じみた口調から、一変急に真面目な声に変わられ、村長は戸惑い、口調を乱した。
「俺は金儲けの話は聞きたいと言ったが、公王陛下を裏切って命令を破ることなど、これっぽっちも聞きたいとは言っとらんぞ。ああ?。」
ドカッ
椅子ごと蹴倒され、村長は床を転がった。
「ゲハッ、ゴホッゴホッ」
「つまり、キサマは恐れ多くも公王陛下を他国に売りやがったと言う事だ。」
「そ、そのようなことは、決して・・・・」
「しかもだ、」
ブデンは決定的な一言を申し渡す。
「キサマが我らの前で娼婦呼ばわりしたのは、本物のディリエル公女様だ。その不敬万死に値する。」
「そん・・・・な・・・、ウソだ!。」
「一緒に居られたのは、公王陛下とディリエル公女様をお救いしたドラゴンスレイヤー、セイジ殿よ。村人たちの中にも、罪に耐えきれず、ハイネ嬢に何もしてやれなかった事を悔いておった者が何人もおる。」
すでにそちらは、詳しく調べ上げていた。何より彼にはそれを聞き出せる伝手があった。
「それは、あの淫売に籠絡された連中です。私は無実ですうっ。」
「おい、いい加減にしろや。10年前に首を吊ったサリーを忘れたか。」
突然、とんでもない名前が出てきた。
「嫁入り直前で、キサマに呼び出され、翌日に首を吊った。しかもキサマは、不貞を責めたら恥じて死んだとぬかし、死を持って残そうとした娘の名誉まで汚した。」
教会が禁じた初夜権を、強引に振りかざして押し倒した、顔も忘れた娘の名前。
その亡霊が、村長の前に立っていた。もうとっくに忘れて、何の関係もないはずの亡霊が。
「その弟が村を飛び出し、各地で暴れに暴れ、グシャーネン様にとっ捕まってしごきあげられ、名も変えて、今じゃあ直属兵よ。」
「サリーの弟の、と、トマひゅ・・・あらららぁぁぁぁいひぇえぇぇぇ?!」
「汝 罪有」
その舌が、ぐいと鋼のような指先に掴まれ、引き出され、ブチリと切り落とされる。
「この売国奴を吊るせ。」
口から血を流し、あうあうと何か口走ろうとする村長は、ただの犯罪者、売国奴として引きずられていった。
『親父どの、あの村の名前を聞いた時から、俺を送るつもりだったのですな。』
ブテンは敬意をこめてグシャーネンの事を『親父どの』と呼ぶ。
トマスとしての過去も、姉の事も、グシャーネンは彼をしごきあげながら、酒を飲みかわしながら、詳しく聞いていた。
姉の敵を取ったとは思わない。そんなことはもはや小さなことだった。ただ、姉の墓を参り、その冥福を祈ろうと思う。
『親父どの、あんたって人は・・・』
彼の過去を知りながら、信じて大きな責任を与えてくれたグシャーネンに、改めて己の剣を捧げる事を誓うブテンだった。
幕間も含めて、ようやく20話となりました。
このような場所に書いたことはあまりありませんので、前書きや後書きに、何を書いて良いのかよくわかりません。
ただ、何か一言でもいただけたら幸いに思います。




