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1.始まりの朝

閲覧いただきありかとうございます!!

二日おきぐらいの頻度で更新できるように頑張ります。

遅れないように努力しますが、都合によってはそれが難しいときもあるのでその時は気長にお待ちいただけると幸いです・・・。

 枕元のスマホが音を立て、それと同時に目が覚めた。

 カーテンの隙間から薄暗い部屋に陽の光が差し込んでくる。

 今日は雨の予報だったのに、珍しいこともあるものだ。

 俺はさっきから鳴りっぱなしのアラームを止めた。時刻は午前七時。

 幸い寝過ごしはしなかったようだ。


 制服に着替え、眠い目をこすりながら部屋を出て、リビングへ向かうと既に俺の分の朝食が用意されていた。


「おはよう。新しい制服の着心地はどうだ?」


 父がタブレット端末を操作しながら俺に尋ねてきた。朝に弱く、普段はあまり話しかけてこない父だが、今日は機嫌が良いようだ。


「そうだね。まあまあかな」


 俺は少し笑みを浮かべそう返答した。母が全員分の味噌汁をお盆にのせ、テーブルにやってきた。


「入学式は何時から?お母さんとお父さん、後で観に行くからね」


 そう、今日から俺は高校生だ。

 自転車で十五分くらいの場所にある、偏差値は可もなく不可もなくの至って普通の高校へ進学する。

 唯一普通じゃない点を挙げるとしたら、コンピューター学部があるところだ。

 プログラミングやコンピューターの知識を専攻できる学科で、俺は少しそういった分野に興味があり、家から近いこともあってそこの高校を受験した。

 もちろん面接試験で志願理由を聞かれても、家から近いからなんてことは絶対に言えないし、コンピューターへの興味も当時はほんの少ししかなく、志願理由を上手くでっち上げるのに苦労した記憶がある。


美琴(みこと)はまだ起きてこないの?涼太、悪いけど起こしてきてくれる?」


 朝食を食べようとした瞬間、母に言われしぶしぶ妹の部屋へ行く。

 ドアを勢いよく開けて、起きろと言おうとしたら、パソコンを必死に操作している妹の姿が目に入った。


「何」


 話しかけるなと言わんばかりの不機嫌そうな声音が返ってきた。


「いや、何って、朝食の時間なんだけど?てか、お前、寝てないの?」


 俺は夢中でオンラインゲームをしている妹の後ろ姿に目をやりながら驚いたように聞き返した。


「今イベント中なの。このクエスト終わったら行くから先食べてて」


 モニターから目を離すことなくボソッと言われた。

 両親があんな姿見たらどう思うのやら。俺はリビングへ引き返す。


「トイレ行ってから来るみたいだから、先食べててだって」


 今日も朝から華麗な嘘をつき、三人で食べ始めた。

 俺の妹、美琴は今年度から中学三年生だ。赤いフレームのメガネをかけている。

 先ほどの出来事からも分かるように、俺の妹はかなりのヲタクである。

 オンラインゲームのプレイし過ぎ、テレビアニメの見過ぎで視力が落ちたらしい。

 学校や友達の前ではヲタクである事実を隠しているらしく、そのおかげでカバンにアニメキャラの缶バッジを付けてもいないし、普段の服装もスカートやワンピースだったり、外見では全くそう見えない。

 ダメな部分ばかりだが、徹夜しても学校にはちゃんと行っていたり、テストの前には勉強していたり、根はちゃんとしている。

 朝食を半分くらい食べ終わったところでやっと美琴が朝食を食べにきた。


「おはよー。あれ?今日入学式なの?」


 俺が着ている新しい制服に気付き、尋ねてきた。


「兄様の入学式くらい覚えておけよ」


 俺は味噌汁を飲もうとした手を一旦止め、不機嫌そうな妹に言った。

 そして、徐に時刻を確認すると、もう既に七時半を過ぎていた。

 普段は八時半に登校だが、今日は入学式に向けての連絡事項、事前準備があるため八時集合になっている。


「やべ、俺そろそろ行かなきゃ。保護者入場は九時からだからね」


 そう両親に伝え、カバンを持ち玄関へ向かった。

 寒さが和らぎ、春の訪れを告げるような暖かい空気が玄関に充満している。

 ドアを開け、桜の花びらに歓迎されるように外の世界へ入った。

 清々しいくらいの青空。昨日まで雨の予報だったのが嘘のようだった。

 ドアの横に停めてある自転車の鍵を開け、サドルに跨りペダルを漕いだ。

 今日のペダルは何だかいつもより軽い。

 これから始まろうとしている青春への期待と楽しみを胸に抱いているからなのだろうか。



桜並木のある緩やかな坂道を下ると、今日から通う高校が見えてきた。

 正門の前には、真新しい制服を着た同級生になるであろう人たちが校内へ入っていく姿が見える。

 駐輪場に自転車を停め、校舎の入り口に行くと先生方が一枚の紙を配っている。

 それをもらうと、新入生のクラス分けが記載されていた。

 入学式のクラス分け発表というと、掲示板みたいなボード全体に大きい紙で掲示されているイメージが強いが、この学校はどうやら違うらしい。

 入学する前からそういった光景を想像していただけあり、なんだか残念に思えた。

 配布された紙を見て、自分の名前を探す。俺はどうやら一年B組らしい。

 辺りには同じ中学校から進学してきたのか、既に他の生徒と仲良さそうに話している人たちが多い。

 そう言えば、俺の中学ではここに進学する人をあまり聞いたことがない。

 いたとしても、そんなに話したことのない人であろう。

 そんなことを考えていたら、一人の女子生徒が声をかけてきた。


「あの・・・もしかして、涼太くん?」


 初対面のはずなのに、なんだか聞いたことある声だ。

 というか、初対面のはずなのにどうして俺の名前を?そんなことを思いながら紙から目線を上げると、この人と会ったことはこれが初めてではないことに気付いた。


灯里(あかり)ちゃん!?ひ、久しぶりだね・・・」


 その声の主は、小学校まで同じ学校に通っていた俺の幼馴染、西野灯里だった。

 家が近いこともあり、小学生のときは頻繁に遊んでいたが、中学校が別々になったことをきっかけに、三年間会っていなかった。

 昔よりも髪が長くなってて、胸も少し出てきている。

 よく遊んでいた頃は何も思わなかったが、今会うと同年代の異性として少し意識してしまう。


「さっき配られた紙に見覚えのある名前があってね。それで、もしかしてって思って探してみたら本物の涼太くんだった!私もB組だよ。これからよろしくね」


 

 何だろう、同じ人と会話しているのに味わったことのないこの感覚。

 緊張に近いけど、完全にそうではない。俺はこいつのことが好きなのか?

 いやいやまさか、そんなはずはない。そんなことを考えながら返答した。


「う、うん。こちらこそよろしく・・・」


 素っ気のない返事をしてしまい、俺は後悔に襲われる。

 嫌われちゃったかな、そんなことも考えてしまった。

 灯里はその返事を聞いて、じゃあねと軽く手を振り教室へ向かってしまった。

 同じ教室なら一緒に行きたかった。それを切り出せなかった俺を責めた。

 カバンの中にある、新しい上履きに履き替え、六階の一年生の教室があるフロアへ向かった。

 総生徒数約千人のこの高校は、とにかく校舎が大きい。

 本校舎棟が十階建てで、新校舎棟が五階建て、さらには部活棟まである。

 一学年だけで十クラスあるが、俺はその中のB組に配属された。

 教室へ到着すると、もう既にほとんどの生徒が揃っていて、入学式の前からいきなり女子数人と仲良くしている男子の姿もある。

 黒板に、席の配置が書いてある紙が貼ってあった。

 それを見てみると、どうやら俺は窓際の席らしい。

 これで一番後ろなら完璧なポジションだったのだが。

 そう思いながら自分の席につくと、隣からさっき聞いたのと同じ声が聞こえてきた。


「あ、涼太くん!隣の席なんだ。よろしくね」


 中学で疎遠になった幼馴染と偶然同じ高校へ進学し、さらに一学年十クラスもある中の同じクラスで、しかも席が隣だなんて、すごい偶然もあるものだ。


「さっきはごめんな。俺、色々緊張しててさ」


 俺はそういうと、灯里は首を横に振り、笑顔で答えてくれた。


「入学式だもんね、緊張するよね。実は、今私もすごく緊張してて、心臓がすごくドキドキしているんだ。確認してみる?」


 そう言って灯里は俺の手を取り、自分の胸に当てようとしたが、俺は咄嗟にその手を引っ込める。


「だ、大丈夫だって!それより、もうすぐ八時だから静かにしてようか」


 俺はそう言ったが、思考は完全にストップしていた。


「涼太くんも大丈夫?顔少し赤いよ?熱でもある?やっぱり緊張のせい?」


 俺の顔を赤くした張本人なのに、灯里には全くその自覚がない。

 彼女は昔からそういった類いの事には無縁だったが、まさか今でもそうだとは思わなかった。

 きっと純粋な中学校生活を送ってきたのだろう。

 しばらくさっきの出来事で頭がいっぱいだったが、八時を知らせるチャイムの音が鳴った瞬間我に返った。

 そしてしばらくすると俺たちの担任になるだろう女性がドアを開けて教室に入ってきた。


「みなさんおはようございます。初めまして。このクラスの担任になりました、川島です。一年間よろしくお願いしますね」


 そう言って、俺たちにおじぎをした。二十代後半くらいだろうか。

 まだ若く、教師歴は短そうだ。すらっとした体型で、落ち着いた色のスカートがよく似合っている。


「綺麗な人だね・・・」


 隣の席の灯里が小さい声でそう言ってきた。

 俺はそれに頷いた、確かに綺麗な人だ。俺と灯里がやり取りをしている間も先生の話は続く。


「実は私、今年教員採用試験に合格したばかりで・・・担任はおろか、教師としても今年度から初めてなんですよ。至らない点がありましたら是非教えてくださいね」


「あの先生これが初めてなんだって!」


 灯里がさっきよりも少し大きめの声で俺に話しかけてきた。先生にも聞こえるくらいの声量で。

 周囲のクラスメイトの視線が一瞬俺たちに向く。

 恐らくベテランの先生なら注意する状況なのだろうが、川島先生はまだ新人で怒り慣れていないためかこっちに顔を向けフフッと笑った。

 しかし、川島先生が今日から初めての教員生活だとは驚いた。

 一つ一つの動作には余裕があるし、大勢の前で落ち着いて話せているし、そうだとは思えない。

 先生の簡単な自己紹介が終わった後、この後の入学式の説明が始まった。

 これはしっかり聞いていないとまずいと思ったのか、灯里の顔は教室の前へと向いていた。


「『新入生、入場』という声が聞こえたらA組の列が動き始めます。その列が全て体育館に入り終わったらその列に続いて入場してくださいね」


 しかし、本当に新人教師だとは思えない。

 教員採用試験を受ける前にこのような仕事をしていたのだろうか?塾講師とか。

 とりあえず今は置いておいて、入学式の説明をしっかり聞くことにした。

 一通り説明が終わった後、先生が何か質問はありますか?と訪ねてきた。

 この件について質問したいが、話の流れ的に入学式に関する質問をする場面だと思い控える事にした。

 しかしみんなビックリするほど無反応だ。


「やっぱり緊張してるかな?私に関する質問でもいいですよ。さっきの自己紹介中に気になったこととかあったら是非聞いてくださいね」


 先生がこの状況を見かねて、質問内容を譲歩してきた。

 これはチャンスだと思い、俺は手を挙げた。

 それに気付くと、先生がは席順の紙を俺の名前を確認した。


「君は浜岡涼太くんだね。質問はなんですか?」


「先生は先ほど今年から初めて教員になると仰っていましたが、今までの言動を見る限りこの仕事に慣れているように見えます。今まで似たような仕事をした経験はあるのですか?」


 質問内容を言い終わると、隣の灯里が紙片を見せてきた。

 そこには可愛らしい字で「私もそれ知りたかった!」と書かれていた。しばらくすると、先生が質問に答えてくれた。


「そうですね・・・まあ、人に物を教える仕事は経験があります。」


「塾講師ですか?」


「塾講師ではないけど似たような仕事ですかね。詳しいことはあまり言えません。おっと、そろそろ時間なので質問はここまで。みなさん廊下に並んでください。」


 なぜ言えないのか気になったが、時間が無いのでこれ以上は聞けなかった。

 しかし、なぜ詳しく教えてくれなかったのだろうか、謎の多い先生だ。

 そんなことを考えながら俺は席から腰を上げ、廊下に向かう。

 これから入学式か・・・。緊張する。

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