83.おそらくあれがジャングルバード獣。
俺は暗黒の霧を周囲30メートルに展開。結界としながらジャングル奥地へと進んでいく。
ブーン。ポトリ。
ただ俺が歩くだけで血を吸おうと近寄るモスキート獣が。
ピョーン。ポトリ。
これまた血を吸おうと飛び跳ねるヒル獣が、次々と地面に落ち魔石へ変化していく。
「へー。アンタのスキル。このジャングルと相性良いわね」
ほう? ようやく俺のスキルの有用性に気づいたか?
ジャングルといえばアンブッシュ。樹木に紛れての奇襲に最も注意が必要となるが、暗黒の霧を展開した俺には通じない。
「コココココココッ」
奇妙な鳴き声に見上げれば、ジャングルの上空を5羽の鳥が飛んでいた。おそらくあれがジャングルバード獣。
ジャングル記念に戦っておきたいところだが、さすがに暗黒の霧の射程外。こちらに降りてくれば一網打尽なのだが……
パン
突然の発砲音。
群れを成して飛ぶジャングルバード獣の1羽が地に落ちる。
この距離を1発で当てるとは……ハンナさんやるな。
「この拳銃。なかなか良い代物です」
ってこの声。発砲したのはイモか?
振り向けば、片手に拳銃を構えるイモの姿。
パン
再度の発砲。続いて1羽が地に落ちる。
昨晩のカーチェイスの時といい、イモには射撃の素質があったようだ。
「いやいやいや! おかしいってば!」
かと思えば、何やら1人で騒ぎ立てるハンナさん。
何ごとか? 近所迷惑だぞ?
「考えてみなさいよ? モンスターには魔力バリアがあるのよ? 銃は効きづらいの」
確かにそうだが……この階層のモンスターは魔力が低い。魔力バリアも弱いため銃があればイチコロだとハンナさんが自分で言っていたではないか。
「それは銃は銃でもアサルトライフルの話。しかもこの距離。拳銃で空を飛ぶジャングルバード獣を落とせるわけないってのよ」
言われてみれば……いくら銃とはいえ距離が離れるにつれその威力は減衰する。発射速度に劣る拳銃であれば、なおさらというもの。
「イモさんのギフト……雷を使うって話だけど……」
「正しくは電気です。この拳銃から弾丸を発射する際、電磁誘導による加速を加えただけです」
まさか……電磁加速砲。レールガン。その原理を応用したというのか?
「ありえないわ! レールガンの発射には膨大な電力が必要なのよ? まさかそれだけの電力を……それも専用の設備もなしに、拳銃で再現したっていうの……?」
雷の電力は数千万から数億ボルトという。
その雷を自在に操るのがイモなのだ。
「いえ。少し応用しただけですからレールガンというには誇張が過ぎます。電力を与えすぎては銃弾が暴発しかねませんから」
一体全体どういう理屈かよく分からんが……元々がギフトの力は未知の力。実際に実現しているからには、そういうものなのだろう。
パン
続けての発砲により、さらに1羽が地に落ちる。
事実。イモが撃ち落としたジャングルバード獣は魔素となり、俺たちに還元されている。これこそがギフトの力により倒した証拠というもの。
「……これって凄いわ。アタシのギフト。無碍自在と似たような真似ができるってことよ」
ほう? ハンナさんのギフト名は無碍自在というのか。
あらゆる事物にとらわれることなく自由自在であること。か。
銃弾に魔力を付与。銃火器でもってモンスターの魔力バリアを撃ち抜くことを可能とするそのギフト。現代兵器という枠にとらわれず、自由に魔力を付与できるといったところか。
パン
しかし、イモの射撃の腕はすさまじい……
空を飛ぶ相手。しかも距離があるにも100発100中ではないか。
「レーダー観測です。お兄様」
そうか。EXスキル超音波と電磁波をあわせたレーダー観測。遠距離攻撃するにはもってこいのその能力。昨晩の襲撃者を狙い撃ったのも同様というわけか。
「……イモさん。年俸100万ドルでうちの軍隊に入らない?」
黙り込んだと思えば、いきなり何を言い出すのかこの女は?
「イモさんとアタシが揃えば無敵よ。無敵軍隊の誕生よ!」
無敵軍隊か……なかなかに魅力ある響きである。
「いえ。私はもう就職していますので悪しからず」
え? そうなのか?
「はい。お兄様の伴侶として永久就職していますから」
……なるほど。そうだった。
「いやいや。なるほど。じゃないでしょ!」
先ほどから何を騒ぐのか? モンスターが寄って来るではないか。
「それよりだ。本当に年俸100万ドルだというなら、この俺様が考えてやっても良いがどうする?」
「アンタはダンジョン出たらゴミじゃない。いらないわ」
はい。




