82.ハンナさん。俺のギフトがSSRだというのは知ってるんだよな?
「ハンナさん。俺たちは地下1階のモンスターゲートに行きたいのだが、場所は分かるだろうか?」
「いいわよ。この階ならスマホに地図があるわ」
先導するハンナさんに続き、俺たちも茂みをかき分け後に続く。
ブーン ブーン
樹木が影となり見えないが、何やら近くで音がするな……
「この羽音はモスキート獣ね。刺されると血を吸われるから注意しなさいよ」
モスキートなど英語で洒落てみせたところで、ようは蚊である。
聞こえる羽音は複数。どうやら囲まれているようだが……やれやれ。異国での初戦が蚊を相手とは締まらない話であるが……
「ハンナさん。俺のギフトがSSRだというのは知ってるんだよな?」
「ええ。SSRの中でも希少なギフトということまではね」
ハンナさんは信用できる人物。
昨晩の襲撃でも俺たちを助けてくれたのだ。
まあ、襲われた原因そのものがハンナさんのため、若干自作自演気味ではあるが……
俺の視線に気づいたイモが、大きく頷いてみせる。
「それじゃあ俺のスキルを使う。あまりの威力に腰を抜かさないよう注意してくれ」
俺の目的。黄金肉の売却で一攫千金には協力者が必要。
日本の法律に縛られない海外。そして各種特権を持つ大使の娘でありURギフト持ちというハンナさん。おまけに胸がデカイとあれば、こ以上は望めない絶好の相手。
もはや隠す必要はない。こちらの力を見せつけ、ハンナさんの信頼を勝ち取るべき場面。
「天にあまねく暗黒の力よ。俺の呼びかけに応え顕現せよ……発動! 暗黒の霧」
モワリ。俺の身体を発する暗黒の霧があたりに漂うと同時。
ブーン。ポトリ。
辺りから聞こえていたモスキート獣の羽音が停止、何かが地面に落ちる音が聞こえてくる。
「ゴホッゴホッ……ちょっと? なによこの煙?」
俺の神聖なる暗黒の霧を煙などと同じにされては困るが……夏の風物詩といえば蚊取り線香。うるさい蚊を落とすにはこれに限るというもの。
ブーン。ボトリ。
聞こえる羽音全てが途切れたところで、ゴソゴソ茂みをかき分け辺りを探せば、6匹のモスキート獣が地面に落ちてうごめいていた。
俺ほどの存在となれば直接に手を動かすまでもない。少し気合を入れるだけで、御覧のとおりモスキート獣は瀕死である。
「なにやってるの? 早くトドメを差しなさいよ?」
体長30センチはある巨大な蚊。モスキート獣。
たかがデカイだけの蚊に見えて、地下2階に相当するモンスター。猛毒を受けてまだ息があるとはな……しかもキモイ……キモすぎる。常識的に考えてこんなキモイのに触れるのは無理だろう?
プチッ
しり込みする俺の前で、イモが足を振り上げ踏み下ろす。
プチッ
「お兄様の足が汚れてはいけません。ここは私が」
プチッ
靴底でモスキート獣6匹を踏みつぶしたイモの足元には、6個の魔石が転がっていた。
「イモさんナイスよ。それに比べて……ハア」
ハアとは何だ? ハアとは。
「いえ。いいわ。それよりアンタのスキル何なの? あの薄汚い煙は?」
薄汚いとは非道な言いよう。そもそもが煙ではない。神聖なる暗黒の霧である。
「神聖なのか暗黒なのか。ハッキリして欲しいものだわ」
デカイ胸に反して細かいことを気にするやつである。
「あのね。聖属性と闇属性は相反する属性。アンタの属性がわからなければ、パーティの行動に支障が出るでしょ? まあどうせ闇属性だろうけど」
どうせという言いようは気になるが、俺のギフトは暗黒魔導士。どちらかといえば闇属性なのだろう。
「どちらかもクソも完璧に闇属性ね。でも、なるほど。アンタは暗黒魔導士なわけだ」
ん? 暗黒魔導士を知っているのか?
「知らないわよ? でも基本的に神聖や暗黒を冠したギフトは同ランクでも上位ギフトなのよ」
ほう?
「スキルの属性相性ってやつね。火は風に強く風は土に強い。そんな相性があるのよ」
となると俺の闇属性はどうなるのか?
「全てに強いのよ」
マジで?
「聖属性と闇属性は、火風土水の4属性全てに強いの。その代わり、聖属性は闇属性が、闇属性は聖属性が弱点ってわけ」
ということは何か? 神聖なる魂を持つこの俺の弱点が聖属性であると。納得はいかないが、そういうことなのか?
「そういうこと」
なんてこった……と驚いてみせたが、実のところ属性相性は探索者試験にも出題される内容。100点満点の俺はもちろん知っている。せっかくハンナさんが得意げに解説してくれているのだ。気を使って驚いてみせたまで。
とにかく言えることは、俺の暗黒の霧は大体のモンスターに有効であるということ。唯一暗黒の霧が効きづらい相手となれば、俺と同じ闇属性のモンスターだけだ。
そして闇属性のモンスターに対しては──
「あの。ハンナさん。私の雷はどうなるのでしょうか?」
「イモさんは雷なの? 雷は準聖属性ね。4属性全てと闇属性にそこそこ強いって感じよ」
「ありがとうございます」
イモの雷が有効。
俺とイモの2人がいれば、属性相性で不利になることはない。
「それにしても……アンタのスキル。霧の形態をしたデバフ魔法。霧だけに障害物も関係ない、周囲複数まとめてデバフを与えられるってわけね」
樹木の生い茂るここオリジンジャングルであろうと関係ない。
どこに隠れようが、霧はその全てを覆い隠すのだから哀れなモンスターに逃げ場は存在しない。
「でも普通のデバフ魔法にダメージはないはず……モスキート獣が落ちたのはどうしてよ?」
何も不思議はない。暗黒の霧は複数のデバフにくわえて、状態異常。猛毒状態をも付与するハイブリッド魔法。
一撃必殺の威力はないが、相手をジワジワ弱らせなぶり殺しとする。それが暗黒の霧である。
「ふーん……陰キャのアンタにピッタリなスキルね」
おのれ……誰が陰キャか?
胸がデカければ何を言っても良いわけではないぞ?
「それが陰キャだってのよ。アンタ。こっそりジロジロ見るのやめなさいよ?」
……はい。
悔しいことではあるが、女子は視線に敏感という。いくら胸がデカくとも、チラ見にとどめざるを得ないというわけだ。




