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ちくわ探偵 第2部 ハードボイルド編【連載版】  作者: 堀吉 蔵人
第十二話 聖女パーティ追放・魔王側聖女編

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【ちくわ探偵】福音の空洞と反転する賛美

「異世界から召喚された聖女のパーティに、なぜこんな胸に空洞の開いた練り物が混ざっているのだ? 穢らわしい、今すぐ追放せよ!」


聖都の召喚広場には、異世界から降り立った少女を讃える白い花びらが降っていた。群衆はスマートフォンを聖具と勘違いし、司祭たちは制服を異界の法衣として崇めた。奇跡はいつだって、分かりやすい姿を好む。土の乾き具合を測る者へ向けられる拍手はなかった。


教会の最高司祭と、召喚された本物の女子高生聖女は、私をゴミのように見捨てて王宮から追放した。

彼らは、私が日々、聖女の結界の周囲で地味に「土壌の乾燥度」を測り、結界の強度の歪みを調整していたことなど、無能の暇潰しだと笑った。


私は何も答えず、琥珀色の外套の襟を立て、胸の空洞に右手を当てた。


「分かった。……お前たちの福音が、土地の性質まで従わせられることを願うよ」


私は追放された後、静かに魔王軍の本拠地へと向かった。背後には、なぜか教会から追放されていないゆで卵刑事が、いつもの足取りで続いていた。

私を迎え入れた魔王は、私の胸の空洞を見て、深く頭を垂れた。


「ようこそ、ちくわ探偵。あなたのその空洞こそ、我が魔界の荒れた大地に、完璧な保全(ロジック)をもたらす真の聖女の印だ」


私は魔王軍の『地味な環境保全役(聖女)』に就任した。

私がやったことは地味だった。魔界の水源に混ざる微量な硫黄の濃度を正確に計算し、土壌のpH値を寸分で調整し、毎日、地味に魔界の畑を耕し続けただけだ。数日後、紫色だった川には小魚が戻り、灰しか実らなかった畑には黒麦の穂が揺れた。魔族たちは私を救世主と呼ばなかった。ただ朝になると、黙って新しい土壌標本を机へ置いた。それで充分だった。


魔界の畑の畦には、ナルトが立っていた。奴は何も言わない。澄んだ水に映る雲と、聖女の護符からこぼれた白い灰を見比べていた。灰は清水へ落ちても溶けず、内側から小さく弾けた。


それから、わずか数日後のことだった。

魔王軍を討伐するために進軍してきた人間界の聖女パーティは、魔界の境界線に一歩足を踏み入れた瞬間、聖女の結界がすべて大爆発を起こし、自らの聖なる力によって全員が消し炭寸前まで焼き尽くされた。


「ぎゃあああ!? な、なぜよ! 私の聖女の力が、なんで魔界で通用しないのよ!」


のたうち回る元聖女の前に、私は琥珀色の外套の襟を立てて静かに歩み寄った。背後には、トレンチコートを着たゆで卵刑事が異端審問官として控えている。


「答えは単純だ、元聖女。お前たちが踏みにじっている、この魔界の『大地の成分』を見な」


私は一歩近付き、完全に中和された、美しい魔界の土を指差した。


「お前の結界は、周囲の瘴気を吸い込み、それを聖力へ変換して外殻を厚くする『浄化差圧式』だ。汚れた土地ほど強くなる代わりに、吸い込む瘴気がなくなれば、供給された聖力だけが内側へ滞留する」


元聖女の足元で、砕けた護符が白煙を上げた。表面の浄化紋は外ではなく、すべて内側へ焼け焦げている。


「私は硫黄泉の流れを分け、石灰藻を植え、土壌の酸性度を毎日少しずつ戻した。魔界は清浄になった。お前の結界が吸える瘴気が、一片も残らないほどにな」


「そ、そんなこと、聖典には――」


「書いてあるさ。第七章の脚注に、小さな字でな。お前たちが読まずに切り捨てた一行と、私が積み重ねた環境保全。それが、お前の奇跡を内側から破裂させたのだよ」


聖女と司祭は、自らの慢心が招いた結末に絶叫した。さらに、浄化実績を水増しするため人間界の汚染を故意に放置していた記録が発見され、ゆで卵刑事は異端審問局の聖別手錠を静かに鳴らした。


すべてが終わった美しい魔界の畑の片隅で、ナルトが一人、無言で佇んでいた。奴は何も言わない。ただ、魔界を救い、人間界の傲慢を地味に粉砕した真の聖女(探偵)に、ゆっくりと、深い敬意を込めた拍手を送っていた。砕けた護符の灰が再び弾ける前に、奴は半歩だけ距離を取った。


「行くのか、ちくわ」と、刑事が静かに問いかけてきた。


「ああ。聖女というのは、祈る者ではなく、土を明日へ残す者らしい」


私は背を向け、黒麦の波の中を歩き出した。天から降る光より、地中を流れる一筋の清水の方が、時に多くの命を救う。


私の名は、ちくわ探偵。

反転する賛美を胸の空洞に受け流し、真実を追い続ける、孤独なハードボイルドだ。


(魔王側聖女編・完)

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