第88話 残る銭
夜。
山裾の小屋。
火。
帳簿。
最近。
小屋では。
こういう時間が増えていた。
売れた。
終わり。
ではなく。
「どれだけ残るか」
「何へ回すか」
そんな話。
その日も。
万吉。
帳簿を見ながら。
口を開く。
「今年」
「税引いた後で、
一万三千ぐらい残りそうだな」
周囲。
少し静かになる。
最初の頃。
考えられなかった額。
だが。
万吉。
続ける。
「ただ」
「普請で、
三千ぐらい飛ぶ」
「ため池」
「水路」
「道」
「その辺だな」
井上之正。
頷く。
「まあ、
それぐらいは行くでしょうな」
さらに。
万吉。
指を折る。
「材料」
「炭」
「塩」
「麦」
「飴」
「これで、
三千五百ぐらいか?」
流れ商人。
少し考える。
「もう少し、
増えるかもしれませんね」
「最近、
焼き見世もありますし」
万吉。
頷く。
さらに。
「生活で、
千ぐらい」
女衆。
頷く。
子供。
増えている。
食う量も。
増えた。
万吉。
そこで。
少し止まる。
帳簿。
見ながら。
13000 - (3000 + 3500 + 1000) = 5500
「……五千五百、
残るな」
静か。
すると。
流れ商人。
ぽつり。
「……すごいですね」
「初めにもらった額、
五百文でしょう?」
万吉。
頷く。
すると。
流れ商人。
少し笑った。
「十倍ですよ」
周囲。
少し静かになる。
最初。
本当に:
・川さらい
・荷運び
・草鞋
だけだった。
それが今。
・見世
・保存
・焼き物
・普請
・流通
そこまで来ている。
そして。
万吉。
少し考えた後。
ぽつり。
「ため池、
もう少し増やせるか?」
周囲。
少し笑う。
結局。
また。
そこへ戻る。




