第36話 「蔵」 あるいは 「積み方」
それから三日ほど。
万吉は。
毎日のように。
母のところへ通っていた。
「そこ、
詰まる」
「そっち先」
「そこ滑る」
女中達。
最初は苦笑していた。
だが。
流石に。
ずっと後ろから見られる。
かなりやりにくい。
「若様、
めちゃくちゃ見てくるので……」
「なんか、
全部見つかるんです……」
「後ろ通るだけで緊張する……」
そしてある日。
母はついに万吉へ言った。
「万吉」
「あなた、
少し追い出されなさい」
万吉が止まる。
「……追い出されるのか?」
母は笑いながら頷く。
「ええ」
「皆、
緊張してしまうから」
女中達。
かなり頷いていた。
万吉は少し不満そう。
「でも、
危ない」
母は苦笑する。
「分かってるわ」
「だから今度は」
少し考え。
「蔵でも見てなさい」
万吉はきょとんとした。
「蔵?」
「ええ」
「どうせ見るのでしょう?」
母。
完全に理解していた。
万吉。
暇になる。
↓
見る。
↓
口を出す。
なので。
最初から。
「見ても困らない場所」
へ飛ばした。
そして万吉。
普通に蔵へ向かう。
黒田家の蔵。
米。
塩。
布。
道具。
俵。
大量の物が置かれている。
蔵番は。
万吉を見て驚いた。
「若様?」
「どうされました?」
万吉は当然のように答える。
「見る」
蔵番。
少し困惑。
だが。
止められない。
万吉は蔵の中を歩く。
見る。
積まれた俵。
置かれた箱。
通路。
人の動き。
しばらく。
黙って見ていた。
そして。
ぽつりと言う。
「これ、
出しにくくないか?」
蔵番が止まる。
万吉は俵を指差す。
「奥のやつ、
出す時」
「前の、
どかすだろ」
蔵番は少し驚いた。
確かに。
そうだった。
古い物を出す時。
前を動かす。
かなり面倒。
万吉はさらに見る。
「これも」
「通る時、
狭い」
「ぶつかる」
実際。
荷を運ぶ奉公人が。
少し身体を捻って通っていた。
蔵番は黙る。
困る事に。
また。
合っている。
万吉はさらに。
積まれた俵を見る。
「なんで、
同じの一緒にしないの?」
蔵番が少し固まる。
今までは。
空いてる場所へ。
とにかく置いていた。
だが万吉は。
「流れ」
で見ていた。
入る。
置く。
出す。
運ぶ。
どこで止まるか。
どこで詰まるか。
それを見ている。
万吉は。
俵の並びを指差す。
「塩、
あっち」
「米、
こっち」
「出すやつ、
手前」
「使わないの、
奥」
蔵番。
静かに思う。
(まずい)
(理解出来てしまう……)
しかも。
妙に合理的だった。
万吉は。
さらに通路を見る。
「ここ、
広くした方いい」
「二人通れる」
蔵番。
遠い目。
その日。
彼は思った。
「若様を、
蔵へ入れてはいけなかったかもしれない」
多分。
明日から。
色々変わる。




