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第128話 「御着」

第128話 御着


春。


道は乾いていた。


冬の名残はもう薄い。


山裾を離れた万吉たちは、そのまま御着へ向かっていた。


---


城下へ入る。


与吉は思わず周囲を見回した。


人が多い。


荷が多い。


馬が多い。


商人の声。


人足の掛け声。


行き交う荷車。


山裾とはまるで違う空気だった。


何かが止まることなく流れている。


そんな場所だった。


---


「やはり、人が多いですな」


与吉がぽつりと呟く。


万吉は周囲を見ながら答えた。


「荷も多い」


実際、その通りだった。


米。


塩。


布。


炭。


様々な荷が人の間を縫うように運ばれていく。


どこかへ流れ。


どこかへ集まり。


また流れていく。


万吉の目は自然とそちらへ向いていた。


---


まずは祖父である黒田重隆の屋敷へ入った。


荷を置く。


与吉はまだ少し緊張している。


だが万吉はいつも通りだった。


「置いたら城へ行くぞ」


それだけ言う。


---


やがて御着城へ登る。


門をくぐる。


家臣たちが行き交う。


廊下には静かな緊張感があった。


姫路とは違う。


ここは播磨有力国衆・小寺家の本拠。


多くの者が集まる中心地だった。


---


万吉は広間へ通された。


正面には小寺政職。


空気が静まる。


万吉は膝をついた。


「黒田万吉にございます」


広間に声が響く。


---


政職は静かに万吉を見る。


まだ幼い。


だが、その名は最近よく耳にしていた。


市。


流れ。


備え。


黒田の若。


様々な話が既に御着まで届いている。


---


やがて政職が口を開いた。


「其方は」


「利を我らへ与えた」


万吉は顔を上げないまま聞いている。


政職は続けた。


「市」


「流れ」


「人」


「其方のやった事で、御着にも利が流れておる」


静かな声だった。


だが重みがある。


---


そして言った。


「故に」


「近くで働いてもらう」


「仕事の割り振りは近習筆頭へ任せてある」


「よく勤めよ」


万吉は頭を下げる。


「は」


短い返答だった。


---


そのまま御前を下がる。


廊下へ出ると、一人の男が待っていた。


近習筆頭である。


年嵩の武士だった。


---


歩きながら声を掛ける。


「万吉殿」


「明日から荷場へ行ってくれ」


万吉は少し足を止めた。


「荷場?」


近習筆頭は頷く。


「市を回したと聞いておるのでな」


「まずはあそこを見てもらう」


---


万吉は少し考えた。


荷場。


荷が来る。


荷が溜まる。


荷が流れる。


人も集まる。


揉め事も起きる。


市に近い。


むしろ流れの根元とも言える場所だった。


---


近習筆頭は続ける。


「御着は物が多い」


「故に揉め事も多い」


「詰まりも出る」


「まずは見てこい」


万吉は静かに頷いた。


「分かりました」


---


その日の帰り。


城下を歩きながら万吉は荷の流れを眺めていた。


荷車が行き交う。


人足が怒鳴る。


商人が値を叫ぶ。


どこも忙しい。


だが所々で流れが淀んでいるのも見えた。


荷が重なる場所。


人が詰まる場所。


声が荒くなる場所。


自然と目に入る。


---


与吉はそんな万吉を見ていた。


御着へ来たばかりだというのに。


若は城よりも荷を見ている。


そんな気がした。


---


御着。


小寺家の中心。


その中で万吉に最初に与えられた役目。


それは――


流れの集まる場所を見ることだった。


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