第120話 「冬の飯」
冬。
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山裾。
かなり冷える。
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朝。
白い息。
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木々。
風で鳴る。
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小屋。
人が増えた。
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つまり:
・飯
・薪
・干し物
・穀物
。
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全部。
減りが早い。
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その夜。
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帳簿小屋。
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囲炉裏。
小さい。
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その火の横で。
黒田万吉。
帳簿を見ていた。
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麦。
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塩。
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干し柿。
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薪。
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樽。
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全部。
少しずつ減っている。
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万吉。
帳面見ながら。
ぽつり。
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「……減り早いな」
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横。
井上之正。
頷く。
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「人が増えれば、
食う量も増えます」
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「特に冬は」
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「飯そのものが、
命ですので」
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小屋。
少し静かになる。
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流れて来た者達。
その言葉に。
少し俯いた。
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自分達が。
食わせてもらっている。
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ちゃんと。
分かっていた。
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万吉。
少し考える。
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「銭、
どれぐらい残ってる」
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帳簿。
確認。
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流れ商人。
少し考え。
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「二千文ほどなら」
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周囲。
少し止まる。
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二千文。
小さくない。
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だが。
冬。
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問題は:
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「買えるか」
。
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流れ商人。
少し困った顔。
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「今の時期、
皆抱え込みます」
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「麦ですら、
高いですからな」
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「米など、
もっとです」
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小屋。
少し重い空気。
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冬。
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穀物。
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それは:
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「生きる日数」
そのもの。
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万吉。
少し考える。
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「……城からは?」
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井上。
首を振る。
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「無理ですな」
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「城の備蓄は、
兵糧です」
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「簡単には動かせませぬ」
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万吉。
さらに考える。
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「……黒田の館から、
買うか?」
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与吉。
少し驚く。
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「親類筋ですか?」
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井上。
頷く。
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「売っては、
くれるでしょう」
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「ですが」
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少し止まり。
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「相場よりは、
高いですな」
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「冬の飯は、
命そのものです」
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「安く流せば、
今度は向こうが困る」
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小屋。
かなり静か。
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皆。
分かっていた。
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冬。
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食い物。
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それは:
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「生きる」
そのもの。
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その時。
万吉。
ふと思い出したように。
顔を上げた。
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「市の焼き店」
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「残り出るか?」
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流れ商人。
少し考える。
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「多少なら」
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「売れ残りや、
端はありますな」
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万吉。
即答。
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「全部買え」
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「汁に入れる」
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周囲。
少し止まる。
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女衆。
思わず。
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「若」
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「それ、
かなり雑ですよ」
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万吉。
普通。
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「腹に溜まればいい」
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そして。
また帳簿を見る。
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「種用は、
どれぐらい残す」
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井上。
少し止まる。
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「若」
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「あれは、
春用ですぞ」
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万吉。
普通。
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「春まで生きねば、
種も撒けん」
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かなり静か。
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囲炉裏。
ぱちり。
鳴る。
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さらに。
万吉。
帳面見ながら。
ぽつり。
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「木の皮でも、
食えるなら使う」
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「腹に入る物、
全部数えろ」
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小屋。
かなり静かになる。
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流れて来た年嵩の男。
小さく頭を下げた。
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「……構いません」
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「我らの分まで、
無理に買わずとも」
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「冬だけ、
越せれば」
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女も。
子供抱えたまま。
頭を下げる。
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万吉。
少し考える。
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囲炉裏を見る。
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火。
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干し物。
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積まれた薪。
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今年。
皆で。
溜めた物。
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そして。
ぽつり。
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「いや」
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「春までは、
持たせる」
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かなり静か。
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万吉。
続ける。
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「汁増やせ」
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「干し物混ぜる」
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「山も使う」
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「麦は買う」
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「あと」
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少し止まり。
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「働ける奴は、
全部働け」
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男達。
すぐ頭を下げる。
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「はい!」
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「働きます!」
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井上。
その様子を見ながら。
少し笑った。
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「若は」
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「結局、
止まる気がありませんな」
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外。
冬の風。
かなり冷たい。
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だが。
山裾の小屋では。
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「どうやって春まで繋ぐか」
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そんな話が。
夜遅くまで。
続いていた。




