表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/27

限られた時間

「それにしても、あなた達お似合いね。付き合い始めて長いの?」

「oh!?あノ、私たちハ、その、付き合っテイルわけデハ……」


あの後、いくつかの事項を確認し、それが終わったら雑談の時間に移行していた。

そして、まったりと会話を交わしていた中で、いつしかそうした話題になっていったのだった。


最も、それは必然だったのかもしれない。

何故なら、巫咲は最初から、エデにダンテスと名乗るこの二人の仲に興味津々だったからだ。

あわよくば、その話題に持っていこうと狙っていた以上、この雑談タイムを逃すわけはなかったのだ。

あたふたしているエデに対して、更に突っ込んだ質問をしようとしている巫咲だったが、そこに陽気な声の主が割り込んだ。


「HAHAHA。よく言われるんですよ。さて、どうだいエデ?ここまでお似合いと言われるんじゃあ、また付き合い始めるかい?」


そうダンテスが話すと、エデは外国語でなにやらまくし立てていた。

信護には何と言っているのかはわからない。

それどころか、どんな感情を込めて喋っているのかも、よくわからなかった。

顔を真っ赤にしているのは、怒ったような、拗ねたような感じだったが、その視線は、咎めるような、切なげなような、冷ややかなような、複雑なものを感じさせる。

好意はあっても、単純なものではないのだろう。

それに、やんごとない身分とやらも関係しているのかもしれない。

エデをなだめていたダンテスの、ほろ苦さを感じさせる表情も、そう思わせるものだった。


「まあ、私達の関係はこんなものです。なかなか一筋縄ではいきません。今はとりあえず、護衛と警護対象といった所でしょうね。元々は、幼なじみからのスタートでしたが」

「幼なじみ!良いわねえ、そういうの。私にもいたわよ。ただ、ロマンスはなかったわね」

「それで、あなた達こそ、どうなのです?お似合いですよ」


巫咲に異性の幼なじみがいたという、初めて聞いた事柄に意識が向かっていたため、その次のお似合いという言葉への反応が遅れてしまい、動揺の色を隠せない信護だった。

ドギマギしながら、恐る恐る巫咲の反応を伺うと、当の巫咲は、にっこりとした向日葵のごとき笑顔を浮かべている。


「ふふふ。そうですかー。ありがとうございますー」


そう言い切ったきり、ひたすらニコニコしているだけだったため、どう解釈していいのかわからず、困り果ててしまう信護だった。


(いったいどっちだ……)


そんな反応を見せる二人に、ダンテスは肩をすくめて見せると、忠告するような事を口にする。


「まあ、なんにせよ、一番良いのは拗れさせない事です。じゃあないと、長い戦いになるかもしれませんよ。私達は、諸々の事情に縛られていましてね。ただ、時間も無くなってきているため、どこかでケリを着けるべきなのですが……」

「時間、ですか」


時間というキーワードに、信護は思わず反応してしまう。


「ええ。私達は、様々な経験を積んできた代わりに、時間を。この場合は、若さと言った方がわかりやすいでしょうか。それを失っていったのです」

「でも、人間の平均寿命はかなり伸びています。勝手ながら年齢を推測すると、まだ折り返しではないでしようか。ならば、若さを失ったというには早すぎますよ。まだまだ働き盛りだし、これからじゃあないですか」


ちょっと大げさだなと思いながら信護がそう指摘すると、ダンテスは苦笑いを浮かべて述懐する。


「ふふ。私もあなたと同じぐらいの年齢の時は、そう思っていました。でもね、だんだんと歳を重ねていくと、そう思えなくなりました」

「え、何故ですか?」


不思議に思い、そう尋ねると、ダンテスとエデは何かを滲ませたような顔を向ける。

これは……何だろう。

信護が訝しげに思っている合間に、ダンテスは思いの丈を述べる。


「人間の平均寿命が伸びても、歳という枷はあまり変わらないのです。例えば、プロサッカーの選手寿命は、伸びて来たと言っても、精々三十代です。それ以上で続けられる人は稀ですし、続けられたとしても、そのパフォーマンスは落ちていきます。これは幅こそあれ、どんな分野にでも言えます」

「その人のやりたい事が出来る時間は、人生の中でも限られてるって事ね」


したり顔で巫咲が述べると、ダンテスはその通りとばかりに頷いた。


「やりたい事が出来る時間は、若さと密接な関係があります。正確には、若さ以外にもありますがね。しがらみとか。とにかく、若い頃の私は、その事がよくわかっていなかったのです。後で挽回出来ると信じ、無茶をやってきました。その結果、その時間でしか得られぬ事を、取りこぼしてしまったのです」


この段階になり、その顔に何を滲ませていたか、信護は理解した。

それは、仕方ないという気持ちの中に巣食い続ける悔恨だと。


「どんなに長生き出来たとしても、自分らしく望みのまま、生きられる時間は案外短い。さて、あなた達は、どんな人生を選ぶのでしょうかね」

「「…………」」


その30分後、エデとダンテスは帰途に着いた。

結果がわかり次第、連絡すると約束して。


巫咲は預かった真紅の宝石である血の涙を握り締め、自分の部屋に閉じ込もってしまった。

集中したい時の行動なため、そういう時は、決まった時間に食事を、巫咲の部屋の前に置いておく。

その間、信護は巫咲に会えないため、寂しく味気無い時間を過ごさざるを得ない。

こういう時、信護はこれも仕事だと割り切り、自分の業務に集中するのが常だった。

ただ今回は、先のダンテスの言葉が胸に引っ掛かり、いつもより集中力が欠如していたが……。


そんな日々が数日続いたある日。

信護がテレビを見ながら、今日の夕飯は何にしようとぼんやり考えていると、遠くからドタドタと足音が響いてくる。

その音の主は一人しかいないため、ハッとなり立ち上がるのと、巫咲が勢いよく扉を開けるのは、同時だった。


「信護くん。エデ達に連絡して。判明したって」

「!ついにその時が来ましたか。わかりました。連絡はお任せ下さい……って、酷い顔ですよ!いったいどのくらい寝てないんです?」

「たった2日よ。なかなか手強い相手だったわ」


ふーっと、満足気に一息を付く姿からは、確かな成果を感じさせるに十分だった。


「何にせよ、お疲れ様です。春野さん」

「まあね♪でも、今回は思わず考えてしまったわ。ねえ、信護くん。これから言う"アイテム"の法則の仮説の一つを覚えてる?」


巫咲は真剣な面持ちで、出し抜けにそう切り出したのだった。

読んで下さりありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ