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魂の行方

あの後、朝までは時間があったが、眠りに着けるわけではなかった。

とりあえず、お茶を入れて、さっきまでの事を反芻しながら、剣や鏡を時折眺めるを繰り返した。

信護も巫咲も口を開かない。

ただ、物憂げな表情で思案気に座っていた。

いつまでそうしていただろうか。

巫咲は考えがまとまったのか、何度か自分を納得させるかのように頷いた後、口を開いた。


「ねえ冬崎くん。さっきの出来事、どう思う?」

「さっきと言われても、印象に残る事が何点もあって、どれについて答えればいいやら……」

「言葉が悪かったわね。じゃあ、最初の幽体達の騒ぎは?」

「幽体達ですか……。不可解でしたね。基本的に幽体は神社や仏閣、教会と言った場所を忌避する傾向にあります。あんなに乱舞するなんて聞いた事がありません」

「ええ、本来は私の神社であんなことが起こるなんてありえないのよ。幽体の性質はその通りだし、この神社は神秘的脅威に対しても高い防御力を持っている。でもね、中からの干渉には弱い所があるの」

「内部……ですか」

「ええ。私の出した結論から言うとね。あの幽体達は外からやってきたのではないわ。内部からやってきた。正確には鏡から溢れてきたんだと思う」

「内部から!すると、あの鏡の性質は幽体を作り出す効果だと?」

「その可能性もあるけど、私はそれよりも、あの幽体達は鏡に封印されていたんじゃないかと思ってる」


巫咲は喋りながら考えを整理しているようだった。


「では何故、今日になって幽体達が溢れかえってきたかと言うと、ごめん。たぶん、それはあたしのせいだわ」

「巫咲さんが?」

「ええ。私は鏡の片割れである剣を効能を解き明かしたでしょ。それが起動キーに当たるんじゃないかしら。私があの剣を初めて起動させたのはね、白状すると冬崎くんが戻って来るちょっと前だったのよ。日付はまたいでないの」

「はあ。そうだったんですか」

「幽体が暴れる時間は夜だったから、昼間は大人しかったのね。でなければ、あのタイミングでああはならないと思うのよね。あんな現象が起こった記録は、これまでないもの。」

「なるほど……」

「そして鏡だけど、私はこれまでどうやれば起動出来るのか調べていた。でも、勘違いをしていたのだと思う。きっとね、あの鏡はもう起動をとっくにしていたのよ。初めて人類が手に入れたその時から」

「だから、いくら調べても起動出来ないとしか思われていなかったと。実はあれが起動している状態だったというわけですね」

「うん。ただ、あの鏡の性質は確かな事は分からないわ。いくつか候補があるから。あの鏡は悪しき幽体を閉じ込めるものなのかもしれない。でもね、もしかしたらこの鏡は、転生に関する鏡なのかもね」

「転生ですか?!」


思ってもみなかった言葉に、思わず信護は声を上げた。


「うん。あの鏡は対象を一から作り直すためだったのかもって思うのよ」

「馬鹿な……」

「そうね。馬鹿を言ってるかもしれない。でも、それでも理屈に合うのよ。あの無数の幽体は、新たに生れ出るために削ぎ落とす不純物だったかもしれない。片割れの剣って幽体特攻を持っていたでしょ。あの剣を使うことが出来たら、それが合図。つまり、転生できるエネルギーが溜まって、不純物を処理できる状態にもなれば、本格的に始動するってね」


今言っているのはどれも仮定だ。

しかし、興味を引く事だったため、信護は耳を傾ける。


「そうなると、この鏡に入っていたのは誰だったのかしらという問題がでてくる。……私はね、あの男の子は、不死王だったんじゃないかと思うのよ。正確には、不死王になる前の姿」

「不死王ですか?あれが?」

「でなければ、あの男の子はいつから紛れ込んでいたのか。あの鏡を入手した経緯の報告書を読んだけど、あの男の子に触れたものは無かった。入手してからあの"アイテム"はずっと保管庫にあったのよ。まあ、報告書に漏れがあったら話は別だけどさ」

「そうですね……。あの男の子は何者だったのかは謎です」

「それにしても、気になるのはあの男の子の独り言よ。あれだとまるで、私達が気付かなかっただけで、すぐ傍にあの男の子だけがわかる誰かがいたという事になる」


信護にとっても、あの時の事を思い返すと、確かに不可解なだった。


「あの男の子は成仏したのか、それとも実は未だに健在なのか……」

「もし、あの男の子が不死王で、実は消えたふりしていたとしたら大事になるかもしれません。今のうちに捜して……」

「待って。捜してどうする気?不死王が悪意を持って復活し行動していたら、討つべきだと思う。でも、不死王ではなく、一人の純粋無垢な男の子だったら、過去が不死王だからって討つべきかしら。いえ、そもそも不死王になったのは、自分の意思だったのか……。亡くなった存在が悪意ある誰かに利用された結果が不死王なら、あの子も立派な被害者だわ。もしそうなら、ただでさえ気の毒な生前だったみたいなのに、更に追い打ちをかける資格が私達にあるの?確かな根拠もないのに」

「それ、は……」


難しい問題だった。

ただでさえあやふやなのに、新たに生まれ変わったといえる存在だった場合、その前の罪科で処罰なんて出来るのか、していいのか……。


「昨日の昼、魂について話し合ったけど、またそれについて考えさせられるなんてね。さっきの出来事を見ると、魂の存在を信じる気が強くなってくるわ」

「春野さんは、魂って存在すると思っていますか」


信護は好奇心をくすぐられて、思わず春野に尋ねた。

彼女はどう思っているのかと。

すると、彼女は事も無げに肯定した。


「ええ。私は存在すると思っているわ。だってその方がロマンチックだもの。人は繋がっていくってより信じられるわ。でも、そう思うのはあくまで公私の内の私の部分。公として魂というのは、科学的に認められていない事は、忘れないようにしなくちゃね」

「公私混同しないようにですね。ごっちゃにすると、仕事に支障が出る事もあるでしょうし」

「そういう事。それにしても、あーあ。神秘に詳しくなれば、よりこの世界の謎を解きやすくなると、最初は期待していたのに、よりわからなくなってきちゃった」

「ふふふ。ままならない事が人生ですよ」


会話をしている内に、朝日が地上を照らし出し始めるのを知った。


「それで、冬崎くんはこの件をどう報告するつもり?」

「ありのままですよ。ただ、あやふやな事は報告しません。上も個人の主観なんて求めていないでしょうし。だから、あの少年の正体については言及はしません。いえ、出来ませんと言った方が正しいですね」

「さすが冬崎くん。賢いわ」

「そうストレートに褒められると、反応に困りますね……」


背伸びをしながら信護が言うと、巫咲は欠伸をしながら立ち上がる。


「じゃあ、私はちょっと寝るわ。夜更かしはお肌に悪いのに、ここ最近続いているのよね」

「では俺は上司に連絡してきます。何はともあれ、ようやく上司の小言からは、しばらく解放されそうですよ」

「それは良かったわ。じゃあおやすみ」

「もう朝です」


そんな軽口を叩き合いながら、今日も一日が始まるのだった。

読んで下さりありがとうございました。

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