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神秘の実

"アイテム"は、その使用方法を解明しない限り、その力を発揮出来ないし、効果もわからない。それが常識だ。

しかし、例外はある。


その例外として上げられるのは、神秘の実と俗に言われる果実だ。

色々な異界の住人が落とすが、その中でも比較的落とす事が多いのが、植物系の幻想種だった。


その果実は、食してしまえば事前に詳細が解明されてなくても、効果が発揮されるのだ。

全て食べ切る事が、効力の発揮の前提条件になっているようだった。

その実の効果は様々だが、超常の力が発揮されるのは間違いない。

惜しむらくは、消耗品である事と、栽培が困難だという事だろう。


そうして、勇気ある先人達の決死の努力により(自発的や覚悟の上とは限らないが)、それぞれの実はどういう効果なのかが徐々に解明され、情報としてまとめられてきたのだった。


そのため、確実な効果が計算できる"アイテム"として、多くの人に重宝されてきた。

最も、"アイテム"自体落とす確率が低いため、その幸運(中には不幸な場合も)に恵まれる者は限られるし、その争奪戦は激しかったが……。


使用方法を解明する必要がないため、巫咲の元に持ち込まれる事がなく、そのため、神秘の実の類いとは縁がなかった。

これまではだが……。


「信護く〜ん。ちょっと来て〜」


巫咲の呼び声が木霊する。

何事かと思い、信護が駆け寄ると、封が解かれた箱から、見た事もない果実を手にして、喜色満面の笑みを浮かべていた。


普段から厳重に密閉され、あらゆるセキュリティが施されている箱だ。

運搬責任者と護衛達は顔見知りなのだが、既に巫咲と手続きを済ませていたようで、勝手知ったる感じで談笑したら、「では、よろしくお願いします」と快活な調子で挨拶をして去っていった。


後に残されたのは、ウキウキで見知らぬ果実を手にする巫咲と、予期せぬ物品に驚きの色を隠せない信護だった。


「これは……、どういう事です。まさか、神秘の果実が届くなんて」

「どうって?今日届く予定の"アイテム"じゃないの?」

「今日届く予定の"アイテム"は別なはずなんですよ。それに、果実は普通、ここには届かないのですが……」

「そうよね。だから私も驚いちゃった。まさか私の元に持ち込まれるなんてね。はっ、これはもしかして、日頃頑張っている私達へのご褒美では?」

「そんなわけないじゃないですか。寝言は良く寝てから言って下さい。今から確認して来ますから、待っていて下さい。……絶対に食べないで下さいね」

「ち、ちょっとお。食いしん坊みたいに言わないでよ。もうっ」


信護は巫咲の抗議をさらっと聞き流し、上司に確認を取るべく、その場を後にする。

そして、連絡を取り、事の経緯を報告する。すると……。


「ああ、その件か。急遽、予定が変更になってな。一応、そちらにメールを送っておいたのだが、まだ見てないのか」

「え、そうなんですか?……ちなみにいつ頃送ったのですか?」

「え?あー、えっとだな、……10分前」


その上司の言葉に呆れてしまう信護だった。


「現物が届く直前じゃないですか!もっと前に送って下さいよ」

「すまん。手違いがあった。なにせ、お偉いさんから結構強引にねじ込まれちゃってな。こっちも色々ゴタゴタしてたんだ。だが、反省はしている。だから、お前からも春野さんに頼んでくれ。むくれられると大変だから」

「心配せずとも、彼女はご機嫌ですよ。きっと神秘の果実が新鮮だったんでしょうね。本来こちらに送られてくるものではないですから。ところで、何故あれがこちらに送られて来たんですか?」

「ああ、実はだな……」


その経緯を聞き終えると、信護は興味深げな声を漏らした。


「なるほど……。そういう事ですか」

「お偉いさんの関心は大きい。最優先にと仰せだ。だから、くどいとは思うがよろしく頼む」

「実はですね、巫咲さんは果実が好きみたいなんです。何かしら見繕ってくだされば、きっと喜びますよ」

「……善処する」


連絡を終え戻ると、熱烈な視線で果実を眺めている巫咲の姿がそこにあった。

その姿に嫌な予感を覚えていると、その整った顔を徐々に果実へと近づけていく。

そして、口を開けようとした瞬間には、信護が高速で移動したかと思うと、神秘の果実を引っ手繰っていた。


「なーにしようとしているんですかーーー!!!この食いしん坊!」

「ちょっ!ご、誤解よ。どど、どんな匂いをしているのかと思って……」

「いーえ。今のは齧ろうとしていました。間違いありません」

「口をあけてなかった。……はず。うん。だから、現行犯じゃないし、証拠もないはずよ」

「いえ、口を開ける流れでした。間違いない」

「誤解!」

「有罪!」


しばらくの間、第三者がもしここにいれば、生温かい目で眺めていそうな不毛な争いが繰り広げられるのだった。

読んで下さりありがとうございました。

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