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第三十七話

「――――もう! なんで繋がらないのよ!」

 携帯を片手に憤慨する花音。通話先は涼穏だ。先程から何度も掛けているが、涼穏には一向に繋がらない。



「少し落ち着けって」

 花音の横でベンチに座っている遊祉。


 支部でのミーティングが終了した後、花音と合流した遊祉は現在、彼女と共にモノレールを待っている最中だった。本来であれば執行部で涼穏を待たせておき花音と合流してから志燎真緒について説明する予定だったが、彼女が執行部を飛び出してしまった為に予定が狂ったのだ。


「あんた、よくそんな呑気でいられるわね。涼穏、さっき様子がおかしかったんでしょ!? 今、繋がらないのも何かあったのかも……」

 涼穏に話をする為、再度連絡を取ろうとした遊祉達だったが、何故だか涼穏への連絡は取れなかった。それを心配した花音が遊祉を連れ、涼穏の家へと向かうと主張して今に至る。


 落ち着いた様子の遊祉とは対照的に花音はそこら中を歩き、一分毎くらいのペースで携帯を取り出している。



「今、焦ったってどうにもならないだろ」

「だって――――」

 いざ、伝えるとなればこうも上手くいかないのが花音にはもどかしかった。


 もっと早く伝えていれば――――そうも思ったが、それは過ぎた事である。

 花音にも今、焦ったところでどうにもならないのは分かっているのだ。


 しかし、どうしようもない焦燥感を抱えた今、花音には遊祉のように落ち着いて座っていることが出来ない。



「…………」

 そんな様子を見て遊祉はやがて諦観の面持ちを浮かべた。

 遊祉にも彼女の気持ちは分からない訳ではない。


「――――ッ、涼穏!?」

 そんな折だった。不意に彼女との通話が繋がる。


「あんた、今何処に居るの!? 大丈夫!?」

『…………』

 花音は繋がった先へ呼びかける。しかし、返ってきたのは無言とその向こう側から聞こえてくる激しい雨音だけだった。ザーザー、と聞こえてくる小さな音が花音の不安を駆り立てた。


「ちょっと! 大丈夫なの!? ねぇ、聞こえてる、涼穏!」

『――――つき』

「え、何?」

 突如として返ってきた言葉を花音は聞き取れなかった。


 当然のように花音はそれを聞き返す。

 そしてもう一度返ってきた言葉を最後に涼穏との通話は途切れた。


「え?」

 一瞬にして花音の表情が凍りつく。それを見ていた遊祉は何事かあったのかと立ち上がった。


「どうした? 何があった?」

「……えと」

 花音は自分の聞いた言葉を脳内で再構築する。


 あまりの衝撃に理解を超え、瓦解した言葉を花音はゆっくりと口にした。





「――――『嘘つき』って」



 その言葉は彼女に一体何があったのか、それを計り知る事は出来なかったが、何かあったのだと思わせるには充分なものだった。


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