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それは、終わったはずの恋だった  作者: 翠川稜


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12/12

12(梶谷side)






「梶谷さん……じゃなくて、お義兄さんの顔の腫れ引きましたねー」


 オレにそう声をかけるのは義妹になった日向ちゃんだ。

 本日は梶谷家と高瀬家の両家でごくごく内輪な食事会。

「オレの顔はどうでもいいんだよ。それより美咲さん、どう? 大丈夫? 気持ち悪くなったら言って」

 オレがそう言うとオレの両親がうんうんと頷いている。

 ちなみに美咲さんのご両親とオレの両親がこうして顔合わせするのは、これで二回目だったりする。

 そう、二回目。

 両家の顔合わせの最初の場は、美咲さんの入院先だった。




 オレは美咲さんが倒れて病院に運ばれたことを、美咲さんの妹、日向ちゃんからのラインで知った。会社終業後すぐさま役所に寄って、婚姻届をもらって美咲さんが運ばれた病院にかけつけた。

 その場でプロポーズして拒否られたけど、なんとか婚姻届けにサインをもらってオレもその場で記入した。

 結婚の証人のサインはだいたいが本人の両親父親名だと相場が決まっている。

 オレは病院出るとすぐさま実家に向かった。親父とおふくろに結婚する相手に子供ができた。と言った途端に、親父の鉄拳がオレの顔面に炸裂したわけだ。

「よそのお嬢さんにお前、何してんじゃああ! あほちゃうか!! 順序逆だろ!!」

「だって、ずっと好きだった人なんだよ! 偶然仕事で再会して! 頑張って口説いて逃げられたらいやだ!」

「狙ったのか! 犯罪者だな!」

「親子の縁なんかいらねーから! 婚姻の証人にサインはくれ!」

 そう言ったらまたぶん殴られた。

「チャラチャラしてた学生時代から比べると、ここ数年は落ち着いたと思ってたのに。で、彼女は?」

「妊娠してるの気が付かなくて仕事しててぶっ倒れて入院してる」

「……で、何週目なの?」

 オレと親父のやりとりを冷静な感じで見てたおふくろが訊ねた。

「6週目、つわりの症状が早く出て、けっこう重いみたいで」

「病院の面会時間は?」

「午後からなら大丈夫だって」

「あんたの退勤時間は何時?」

「6時」

 おふくろが病院の場所とオレの会社の位置からいろいろ計算しているみたいだ。

「でも、日中のほうがいいわよね、面会時間ギリギリに訪ねるのは失礼だし、アンタ、土曜日は仕事ないんでしょ?」

 オレが頷くと、おふくろが口を開く。

「明後日の土曜日、その先方のお嬢さんのお見舞いに行って、ご実家のご両親を訪ねた方がいいと思うの。アンタはその旨、向こうのお嬢さんに知らせて、ご実家にご挨拶する件を伝えて頂戴。それで、入院したって身体の方はどうなの? 赤ちゃんは無事なの?」

「……はい……」

「それが何よりよ。あたしゃ、反対しませんよ。もうアンタもいい年なんだから。だけど、向こう様にはまたぶん殴られるのを覚悟しておくことね。お父さんもそれでいいわよね?」

 おふくろがあっさりと認め、まだ怒りに震えている親父かにむかって「赤ちゃんがいるなら、こういう書類も早い方がいい、健康保険は効かないけれど定期健診もあるし、籍は早めに入れておいた方がいい」と促して証人のサインをもぎ取ってくれた。




 そして翌日、美咲さんのところに出向いたら、びっくりされた。

「か、梶谷……ど、どうしたのその顔」

 顔がめっちゃ腫れあがってるからマスクしていったんだけど、バレました。

「親父にぶん殴られた。それよりどう? 体調は」

 バレてるんだししかたないのでマスクは外す。

「うん……軽い貧血がある。でも、妊娠の初期症状にはよくあることなんだって。いま入院してるし、大丈夫。それより……梶谷……せっかくのイケメンがもったいない……」

 他人からイケメン言われたことあるけど、好きな人からイケメン言われるとスゲー照れるな。

「こんなの、そのうち腫れも引くし、美咲さんの親父さんに殴られるのも覚悟しておくから平気」

 いや別にマゾではないが、これは多分、覚悟しておいた方がいいだろう。

 本来なら美咲さん自身にぶん殴られてもおかしくないんだし。

 ベッドの端に座ると、美咲さんが手を伸ばしてオレの殴られた頬に指を触れる。

「ごめんね……梶谷……」

「謝らないでよ、ていうか逆じゃん。謝るのオレでしょ。ごめんね。オレばっか幸せで」

「殴られて幸せなの?」

「美咲さんと結婚できるから幸せなの。しかもオレの子供も一緒なのすっごく嬉しいの。だから誰に殴られよーが、なんともない」

「いや……その……わたしが、梶谷の顔好きだから余計にいたたまれないとうか……」

 え! そうなの!? ていうか美咲さんがいつもよりなんかデレてくれてる!?

 ちょ、いいかなギューしてもいいかな? てかしちゃう。

 ギューって美咲さんを抱きしめると、美咲さんは大人しくしてた。

「梶谷に似た子供だと嬉しいな……きっと、可愛い……」

 抱きしめたら、そんなことをもごもごと口にする。

「やだ、美咲さんに似てほしい! 女の子で、美咲さんとお揃いの服とか着てパパ言ってくれたらもうオレ溶けるね溶けてなくなるね」

「梶谷……」

「うん。それであのお願いが……」

「なに?」

「美咲さんも梶谷になるので、オレのことは名前で呼んでください」

「……なんで敬語なの」

「お願いだから敬語なの」

 呼ばれてみたかったの!

 美咲さんはなんか躊躇っているようだった。

 でも、それは照れてるんだなってわかった、

 

「えっと……祥吾さん……?」


 ……好きな子に名前呼ばれるの。こんなに嬉しいんだな。

 ああ、やっぱりオレ、恋愛知らなかったんだな。

 付き合ってきたオンナノコ達から名前呼ばれてもこんなに感動しなかったもんな。

 そりゃー「お前とは結婚したくねえ」とか言われちゃうレベルでクソだな我ながら。


「なんかやっぱり照れちゃうな……」


 美咲さんはそんなことこもごもと呟く。


「えっと、どうしたの祥吾……さん……?」

「うん?」

「わたしの指、そんなにほっぺに押し付けて痛くないの?」

「うん。痛くない。つーか、癒される」

「癒しになるのか……」

「うん。こんな男だけど、ごめんね。大事にするから。だからずっと傍にいて」

「……うん……」

「明日、家の両親が美咲さんに挨拶にくるから、そんでその足で美咲さんのご実家に寄らせてもらう」


「え、明日病院で両家顔合わせでいーんじゃないですか?」


 ガラ―っとドアを開けて入ってきたのは、美咲さんの妹、日向ちゃんだった。

「日向……」

「お父さんもお母さんも、仕事だし面会時間すぎるから、明日病院くるって、あたしに電話があって言ってたよ」

「そうなの?」

「うん。とりあえず、二人とも今後のことを相談した方がいいよ。お姉ちゃんの性格だと、多分、いつまでたっても切り出さないから、梶谷さん主導権とってもいいんじゃないの?」

「……えっと……」

「主に仕事面のことでお姉ちゃんはいろいろ主張しておきたいんだろうけど、現状そうはいかないからね」

 この子、若いんだけどしっかりしてるよなー。

 美咲さんはいちゃいちゃしてる場面を妹にみられてめっちゃ照れてる。

「結婚は恋愛と違うんですよ」

 見た目はふわっとしてるのに、シビアな貴重なご意見ありがとうございます。

 そしてオレ達は、面会時間が過ぎるまで、今後のことについて話し合いを始めたのだった。




「いやー病院で初めて会った時、めちゃくちゃ顔を腫らしてて、驚いたけど、祥吾君はイケメンさんだったのねー」

 美咲さんのお母さんからそんなことを耳にする。

 そうだよね、娘の入院先にいったら、顔を腫らしたオレと両親がいたら驚きもするな。 そのまま、病院のティールームでいろいろ今後のスケジュールを話して、今日に至るんだけどさ。

「だけど、本当に結婚式はしないでいいの?」

「はい。美咲さんの体調が一番なので……やはりだめですか?」

「うちは親戚もそんなに数はいないし、うるさいのもいないからいいんだけど」

 高瀬さんのご両親はそういってくれる。

 うちもそんなうるさい親戚はいない。

「結婚式って友人も呼ばないとダメでしょ、でも、ほら、私の場合はほとんどが結婚してるので出席率は悪いしバランスとれないし」

「それでお金かけて式するなら、両家で国内でも海外でも旅行に行ってその先で式をするのもいいかと提案したんですが……」

 美咲さんがオレの言葉を引き継ぐように発言する。 

「すぐに子供が産まれたらしばらく旅行どころじゃないと思うので、とりあえずこうやって両家で食事会しておけばいいんじゃないかと思って、それに……祥吾さんが……ウェディングフォトを予約してくれたので……」

 そう。個人的にオレは美咲さんのウェディングドレス姿が見たいんだよ。

 絶対綺麗だと思うんだ。普段も綺麗ですけどね!

 だから、予約入れてみた。

 ウェディングフォトぐらいはしておきたいということです。

 だってほら、ドレスとかもオレの好みとか押し付けられないじゃん。

 自分の好みの衣裳とか、着たいでしょ、女子ならば。

 とりあえず三セット。高瀬家と梶谷家とオレ達の分で作ることにしたんだが。

「まあ!」

「いいじゃない! 祥吾、うちの分も送りなさいよ!」

「三セットで予約入れてます、なんかそういうの全部、祥吾さんがやってくれて……住居も色々決めてくれたので」


 わいわいと女性陣が騒いでいると美咲さんのお父さんがオレに封筒を渡す。

 封は空いているので取り出すと婚姻届けの証人の欄にサインは二つとも入ってる。

「日向もだが、美咲の相手のご家族が、信用がおけると感じたからな……娘に結婚を申し込む男の顔を俺が腫らすことはなかったわけだ……というか、祥吾君はすでに親父さんにボッコボコにされた後だったからな」

「……はい」


「娘を頼みます」


 オレ、娘が産まれたらこんなカッコよく娘の相手を受け入れられるだろうか!?

 美咲さんって親父さん似なんだよね!

 雰囲気が似てるよ!! カッコイイんだよ!!

 

「幸せにします」


 もし美咲さんを泣かせたら、オレをボコるのは親父さんだと確定した瞬間だ。

 オレは美咲さんの方を見ると、彼女はお母さんと、オレのお袋と日向ちゃんに囲まれて、笑顔を見せてた。

 うん。絶対に泣かせない。

 両家の食事会はこうしてつつがなく終わった。


 



 食事会で伝えたように、今日は写真撮影だ。

 

「美咲さん、綺麗!」


 美咲さんは少しずつ仕事を会社の人に任せている。

 そしてつい最近まで受け持った軽井沢の案件を、他の人に移行してもいい状態になった日でもある。

 スケジュールを確認しつつ、仕事の終了ついでにフォトウェディングを軽井沢でやることにしたのだ。

 結婚式はしないので、ちょっと高めの二泊三日の旅行みたいな感じ。 

「そ、そうかな……」

 シンプルなAラインなのに、おなかはそんなに目立たないデザインだった。



「ていうか、どうして祥吾さんが泣くの!?」



 美咲さんが驚いて尋ねる。



「美咲さんと……結婚できるとは思わなかったから……だって終わったはずの恋だと思ったんだよ……?」


 告白もしないで、多分一生引きずる恋だったから。

 その相手と結婚できるなんて 夢みたいに幸せすぎて信じられない。

 ウェディングフォト予約してよかった。

綺麗な美咲さん見れてよかったよ。

 美咲さんは苦笑している。

「イケメンな花婿さんを自慢させてよ。祥吾さん」

 ほらほらとハンカチで俺の瞼をそっと抑えてくれる。

 立場逆か!?

 こういうの、感動して花嫁が泣くところ、オレがやっちゃってる!?

「うん。そうだね。ごめん。美咲さんが綺麗だから、嬉しくてさ」

「うん。わたしも嬉しいです。だって……」




 彼女は照れ臭そうにオレに笑いかける。

 そして、手を差し伸べてこう言ってくれた。




「わたしたち、これから愛がある生活を始めるんだよ」








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