第1話 うだつの上がらないおっさん、林藤
今回だけ三人称です。
夜勤の方が時給が高い。
林藤がこの仕事を選んだのはただそれだけの理由だった。
家族はいない。友達もいない。趣味もない。空っぽな独り身の30代にとって、昼に働こうが夜に働こうが、大した違いはなかった。
午後22時。
一台の黒い8人乗りのSUVが首都高を走っていた。
運転席には林藤。表情に生気のない、ミイラのような中年男性。
2列目の席には10代の若くて顔の整った男女。一番後ろの席には、小生意気に髪を金髪に染めたガラの悪い男子が座っていた。
少女が隣りにいる男子に話しかける。
「まさか練馬の方まで逃げちゃうなんて……。私たちが向かうより西東京地区の人間に任せたほうが速いんじゃないかしら、アキラ」
「いや、あくまでこっちの管轄から逃げたモンスターなんだ。俺たちで対処するしかないさ。残念ながら、西東京支部は本部の尻拭いなんてしてくれない」
後部座席の金髪が会話に割り込む。
「めんどくせーなー。別にほっといてもよくね? 他のパーティーにやらせときゃいいんだよ。おいおっさん、渋滞ってことにしてゆっくり行ってくれよ。つーかどっかでラーメン食わね?」
林藤が淡々と答える。
「無理です。車にGPSがついているので。これから外環道に入って練馬まで止まらずに進みます」
「ちっ、融通の効かねえやつ。だからその年でドライバーなんかやってんじゃねえの? 俺らみたいなガキに良いように使われてさ」
アキラなる男子が眉をひそめる。
「やめろリュウセイ。俺たちのように能力を授かった勇者だけじゃ、この厄災には太刀打ちできない。むしろ、戦えないのに戦地まで向かってくれるドライバーさんの存在を、ありがたいと思わないか」
「いや実際に命を賭けて戦うのは俺らだし。なぁツキホ、お前だってあんなおっさんダサいと思ってんだろ?」
ツキホと呼ばれた女子が、リュウセイを睨んだ。
「ならここから降りて一人で行けば?」
「こっわ。んな怖い顔すんなよ。このパーティーで一番強いのは俺なんだぜ? どうせ今日も俺がトドメをさすんだしさ、もう少し優しくしてくれよ。あ、そういえばこの前の約束どうなったん? たくさんモンスターを倒したらデートするってやつ」
「忙しいのよ」
「けけっ、おいアキラ、悪いな、お前の大事な幼馴染は俺と付き合うことになるから」
「…………」
空気が悪い。
すこぶる空気が悪い。
それでも、彼は勇者協会のなかでもエリートだから、文句は言えない。
林藤も心を無にして、ただ運転に集中していた。
音楽はかけない。耳障りだから。
だが流せと命令されたら、音楽を流すしかない。
ただのドライバーである林藤の地位は、彼らより圧倒的に下だから。
10年前、突如異世界と通ずるゲートが出現するようになった。
不定期に現れるダンジョンや、モンスター。
それらを対処するのが、同時期に異能力に目覚めた少年少女たち、通称ーー勇者だった。
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