第2話
だいぶ時間空いてすみません。
アキレス腱切れてました。
なにかご意見あればぜひお願いします。
感想もぜひ...
「これより1回目の作戦βを開始する。」
ゆっくり目を開く。
先程まで研究室にいたはずの俺は一瞬にして、見覚えのある住宅街のなかの空き地に立っていた。
冷房で冷えてしまった肌を真夏の太陽がジリジリ刺してくる。
ここは28年前の世界。
腕につけたタイムマシンには『7/28/2XXX』
(成功だ....)
俺たち3人が仲良く暮らしていた眩しい時代。
今から10年後の未来でこの空き地に先程までいた俺の研究施設が建つのだ。
「『リョウちゃん』、貴様のとなりに透子たんがいてはならんのだ。」
決意したような、あるいは諦めたかのような複雑そうな顔で、まるで呪うかのようにつぶやく。
「作戦の概要を確認する。」
胸ポケットにある小型のボイスレコーダーをチラリと見る。
「まず今回より始まる作戦βの最終目標は、『郷須透子』の心を『リョウちゃん』から遠ざけることにある。」
「そのうえで最も優先すべき事は、彼ら3人に俺の存在を認識させないことである。」
ふぅ、と軽く息を吐く。
心の内の絶望に蓋をし、この世界で暗躍する科学者Aとして環境に溶け込むのだ。
(ムッキムキでいこうぜ!)
目を閉じて最愛の人の口癖を思い出す。
(そうだ、これは透子たんを取り戻す戦い。
陰鬱な者に彼女はときめかない!)
顔の前でパンッと手を叩く。
「さぁ!始めよう!!」
目を開き、貼り付けた笑顔で高らかに宣言した!
(決まった...!)
「ねぇ...何あの人...」
「こわいこわい、見ないどこっ!」
「・・・。」
真っ赤に染まった顔で俺は通行人たちがそそくさと逃げていくのを見送る。
「オッホン、さてさて。
まずは透子たん達を探そうか」
恥ずかしさでぎこちなくなりながらターゲットを探しに歩き始めた。
(見つけた...)
どこかのアニメで見たようなコンパス型の機械を片手に、大柄の怪しげな男が物陰から少年少女を見つめていた。
(ふっふっふ。
これぞタイムマシンRe:Tickを開発する過程で生み出したいくつかの天才的アイテムがひとつ!
No.1 『生体レーダー』だ!!)
説明しようッ!!
『生体レーダー』とは、ある時にスポンサーからペットの捜索を頼まれた際に対象の遺伝子情報を読み取らせるだけで対象の場所を2次元的に表示してくれる便利アイテムである。
(...ん、スポンサー?)
なにか重大な忘れ物を思い出した気がするが、怖いので頭の外に無理やり追いやった。
ともかく、俺はこの生体レーダーにターゲットの遺伝子を読み込ませ、その位置を特定したわけだった。
問題はここからだ。
どうにかして透子たんとリョウちゃんの仲を引き裂き、彼女を奴の負の呪縛から救わねばならない。
そうこれは略奪ではない、救済なのだ。
「透子たんを幸せにするのはお前じゃない。
透子たん、俺が君を幸せにしてみせるッ!」
自分を鼓舞するようにそう呟き、俺は2つ目の便利アイテムを取り出した。
(タッタラーン!
ホレボレフェロモン&インビジブルコート〜!)
心の中でお決まりの詠唱をしながら小さな小瓶を取り出すと白い手袋をはめ、着ていた白衣の襟元に手を回しフードを深々と被った。
(フハハ、この白衣だって立派なメイドイン俺の天才的便利アイテムのひとつ!
この俺が無駄なものを持ち込むわけがなかろう?)
一体だれに勝ち誇っているのか。
おかしなテンションのまま俺はアイテムの説明を続けた。
(この白衣はその名の通り、姿を完全に透明にし行動することができる!
そしてこの瓶!
これこそが全人類が追い求めた最強の惚れ薬!
嗅いだものにとって最も魅力的な香りに変化し、遺伝子レベルで相性がいいのだと錯覚した相手は恋に落ちてしまう恐ろしいアイテムなのだ...)
作戦はシンプルだった。
俺はこのコートの能力でササッと3人のうちのアキラの背後へと接近し、軽ーくワンプッシュしてくるだけでいいのだ。
そうすれば、この香りを嗅いだ透子たんはきっとリョウちゃんではなくアキラを好きになるはず。
まぁふたつほど懸念すべき点があることはあるのだが....やるしかない。
(クックック....いやぁ、こりゃこの1回で決まっちまうなぁ)
不敵な笑みを浮かべながらフードをさらに下げ顔全体が見えなくなると、起動したコートの能力によって俺はその場から完全に姿を消した。
姿を消しても音が消えるわけではなく、ましてやホレボレフェロモンなど布に隠れていない物に関してはどうしても見えてしまう。
故に音を立てずコソコソと3人に近づき、死角となる背後から素早くフェロモンを振りかける必要があるのだ。
慎重に彼女たちに近づいていく....
「あっ!」
「ピェッ!?!?」
思わず出てしまった情けない声に、俺は口元を両手で抑えながらうずくまる。
突然、透子が振り向きこちらを指さしたのだ、
「「なんだよ...」」
アキラとリョウちゃんが指を指した方を見て問いかける。
「この子!登校中に見たよ!」
電柱に貼られた迷い猫の張り紙だった。
(なんだよ...)
少年らと同じセリフを心の中で吐き捨てながらホッと息をつく。
「一応、書いてある連絡先に知らせておこうか。」
そういったのはリョウちゃんだった。
アキラもそれにつづく。
「そうだな、今朝までの無事を確認できるだけでも安心できると思う。」
「そうだよね!」
目をキラキラさせて透子が答えた。
(ここだ...!)
アキラの背後から素早い動きでシュシュシュとホレボレフェロモンを振りかける。
冷静に次の行動を指摘しただけのリョウちゃんに対して、飼い主の不安までをもケアしたアキラの完璧な発言に、見つめあった透子たんとアキラ。
これ以上ないほど絶好のタイミングである。
(フッ...俺でなきゃ見逃しちゃうね...)
俺は得意気になりながらも気取られないよう素早く物陰へと身を潜めた。
もとの顔も心もイケメ〜ンなアキラの魅力を最高のタイミングで最高のお膳立をしてやったのだ。
(透子たん、ごめんよ。
君はアイツと一緒じゃ幸せになれないんだ....
俺が君を幸せに導いてあげよう!)
「ん?今首に何かがかかったような...」
「どうした?」
不思議そうに首をさするアキラにリョウちゃんが尋ねる。
「いや、なんでもない。それより早く電話しようぜ」
「うん!わかった!」
きっと気のせいだったのだと違和感を振り払うようにアキラは首を振り、チラシの電話番号に目を向けた。
(おかしい....あれだけの量を振りかけたのだ、既になにか反応があってもいいはず。)
「あれ?アキラくん...」
携帯に電話番号を打ち込んでいた透子たんの指が止まり、その瞳がアキラをじっと見つめる。
「な、なに...?」
「香水...使ってる...?」
「え、いや使ってないけど...」
透子たんの両手がアキラの肩に伸び、グイッと自分の方へ引っ張った。
「んん!?」
「な!?」
アキラは驚いて思わず仰け反り、リョウちゃんは目の前の光景にあんぐり口を開けたまま固まってしまう。
(きた...!)
「あ...」
ようやくリョウちゃんが2人へ手を伸ばす。
(もう遅い。リョウちゃんよ、すまないが透子たんを貴様から奪わせてもらう。
さぁ...共に見届けようじゃないか。)
透子たんは固まったままのアキラの顔へ、その瞳を逸らさぬまま近づけていく。
アキラは抵抗する力もでないままぎゅっと目を閉じ、リョウは立ち尽くす。
「うん。やっぱりちょっと匂いがするよ」
「え...?」
アキラが目を開けると彼女の顔は自分の唇を通り過ぎ、首裏で無遠慮にくんくんと鼻を利かせていた。
「というか、うん...ちょっと臭い(くさい)かも...」
「はぇ...???」
情けない声を漏らしたのはアキラで、力が抜けたリョウちゃんは虚ろな表情でドサッと地面に膝をつく。
そして例外なく、白衣のおっさんも喜劇のように地面にズサーっと倒れ込んでいた。
まさに地獄絵図である。
(はぁぁぁぁあああ!?臭い(くさい)!?!?
この俺のホレボレフェロモンが!?)
当の本人は、周りの凄惨な様子に気づいたようで驚いたように周りを見渡し、戸惑っている。
(なぜだ....?完璧な発明だったはず...
まさか、彼女が感じるリョウちゃんの魅力が上回っていたのか?いや、だとしても臭いって...)
「だ、大丈夫...?2人とも....」
透子たんは未だに地面に伏せる2人の周りで状況が飲み込めずあたふたしている。
「お、おまえ...いくらなんでも...」
最初に口を開いたのはリョウちゃんだった。
「そうだぞ...透子ちゃん今のは心臓に悪すぎる...」
アキラがフラフラと立ち上がりながらそう言った。
「え、え?....あっ。」
アキラに言われた『今の』が何か自身の行動を振り返り、気づいた彼女の顔はどんどん赤くなっていった。
「それに...臭いは酷いよぉ...」
アキラは力なくうなだれ、目に涙を浮かべる。
その姿はどこか色彩薄く....白く見えた。
透子たんはアキラの前で手を合わせ、申し訳なさそうに謝罪を繰り返す。
「まったくお前は....考え無しにも程があるぞ。」
呆れ少し、怒りも少し滲ませた声でリョウちゃんが言う。
「だから、謝ってるじゃない。
ほんとにごめんなさい!
匂いのことももちろん、
その....本当にそんなつもりじゃなかったの...」
少女の反省しきった様子に少年らはため息をつく。
「そんなんだから、天然だって言われるんだ。」
それでもまだ許してはいなかったのか、リョウちゃんが小さな子を叱るように彼女へ指を刺し、そう言ってしまった。
「はぁーーーー!?」
激昂したのは透子たんだった。
彼女は周囲から天然だと言われるのをひどく気にしていた。
地団駄を踏み、抑えられないものを滲ませるように上目遣いでリョウちゃんを睨め付ける。
「天然じゃない!」
「いいや、天然だ。」
むぅーーーー!っと言葉にならない言葉でリョウちゃんに詰め寄る彼女の顔からは先程までの可愛らしい恥じらいの赤は消え失せ、その表情は烈火のごとき怒りの赤に染まっていた。
負けじとリョウちゃんも腕を組み、見下すように立っていた。
「もうっ!!リョウちゃんなんて嫌いっ!」
「なっ!?こっちだって!」
「「ふんだっ!!!」」
ふたりは同時に背を向け、口を閉ざす。
「お、おい...一番の被害者は俺なんだからな...」
そんな青春の1ページを白衣のおっさんは未だ地面に屈したまま、恐ろしげな表情で少女を見つめていた。
一見すると透子たんとリョウちゃんの仲を引き裂くことに成功したようだが、腕につけたRe:Tickの計測器に変化はない。
それ以前に、俺にはこの試みが失敗したのだと強い確信があった。
(リョウちゃんが嫌い...?嘘である!!!)
フェロモンが臭い...
それはつまり、アキラと恋愛感情を抱くに強い抵抗があるということ。
いや、むしろ本命以外に興味がないのだろう。
だが、こにフェロモンは特別なのだ。
常人に抗えるものだとは全く思えない。
(透子たん...
いや、どんだけアイツが好きなんだぁぁあああああ!)
状況から導き出される結論に軽く恐怖を怯えたおっさんは心の中で叫び散らかした。
正直、最も強力な手段で終わらせるつもりだったのだ。
しかし、彼女の愛の強さは常人のそれではなかった。
俺は左手のRe:Tickを操作し始める。
(諦めないぞ...実験に失敗は付き物なのだ...。
待ってろ、透子たん。
君の未来は俺がもらう!!!)
作動させたRe:Tickの針が「P」から「N」へと動き、強い光が俺を情けない体勢のまま包んでいく。
(さぁ!もう一度だ!)
そうしておっさんは光とともに消え去った。




