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桜桜にして咲く櫻  作者: nor
第四章 銀樹(高二冬編)
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第百七話 転校生

 始業式の朝。

 大きく欠伸をして、全力で背を伸ばしてからベッドを下り、朝の準備を始める。

 優愛と凛とわたしのグループラインの通知が騒がしいが、フル無視してスマホをバッグに突っ込み、一階へ降りる。

 お母さんの作ってくれた朝ごはんを久しぶりに平らげて家を出る。


 昨日の夜とは全く違う。快晴の空の下春の甘い匂いがする空気の中を進んでいく。

 道端には小さな花がぽつぽつと咲いていて、冬に比べれば随分と色味が増した。


「は~~な~~~ちゃ~~~~ん!!!」


 住宅街の道路端を歩いていると、後ろから絶叫と共にハグがやってきた。ただのハグじゃない。助走のついた殺人的なハグ(タックル)だ。


「い゛っだい…………」


 そんな犯罪者本人は、背中に頬をこすり終わると、わたしのすぐ横にひょこっと顔を出して、並んで歩きだした。

 随分と破顔した悪魔のような子である。


「…………おはよう優愛」


「おはよう!葉菜ちゃん!」


 腰をさすりながら試しに「普通に挨拶できない?」と頼むと「むり!」なんて、今まででもう数百回は交わした一連を、今日もまたやってしまった。


「よっ」


 もう一方の隣からわたしの後頭部を学生バッグではたいて現れたのはグレたjk代表水尾凛。


「別に叩かなくてよくない?」


「気分」


 別に痛くはないが、なんとなく後頭部をさすりながら聞くと理不尽な回答が返ってきた。

 この二人こういうところ似てるな。


「さてと、クラス替えどうなっかな」


「やめてよ~!昨日それ考えすぎて過呼吸なったんだから!」


 普通に心配になる文言を吐く優愛は歩きながらくるくると回ってわたしたちの前に出た。


「もしも葉菜ちゃんとクラス違ったら…………」


「「違ったら?」」


 二人して聞くと、優愛は回転をフィギアスケートの如くピタッと止めて。


「教師陣を金で脅す」


 と言い放った。なんともマジっぽい顔で。


 わたしたち二人は一回顔を見合わせてから、何も見なかったかのように優愛の傍らを通り過ぎた。

 虚空に向かってキメ顔を晒している優愛は実に滑稽で、しかも中々私たちを追っかけてこない。

 ついに凛が真顔を破り小さく笑ってしまった。

 すると


「わらったなぁぁぁぁ!!!!」


 と、弁慶の形相で優愛が飛んできた。

 今日も中々平和らしい。


ーーーーー


 その後、始業式が始まった。


 体育館の中で校長先生の話を聞きながら、わたしは小さく欠伸をした。

 校長先生の話は長いが、いかんせん記憶力のせいで全部覚えてしまう。

 終業式の時に校長がよく言う「去年の始業式に言ったことを覚えていますか?」という問いに対して、ちゃんと答えられる女子を探しているなら、そう、わたしだ。


 さて、この高校。星舟高校は中々な富裕層高校でいろんな出の人が通っている。

 大手企業の跡取り。アイドルの隠し子。メイドや執事。

 大っぴらに自分の身分を言う人は少ないが、確かに異様な人の集まる高校である。


 そんなこの高校のクラス替えは今日行われる。

 朝は旧クラスで集まり、始業式の後、クラス替えだ。

 この後は、またクラスに戻ってから、各自に渡されるクラスの書かれた小さな紙切れと、玄関に設置される一覧表をもってクラス替えとなるのだ。


「よってわが校の校訓は―――であるからして―――――それに-あと」


 もういつまで続ける気なのかこの先生、ずっとしゃべっている。

 もうみんなクラス替えのことより、校長への怒りが募ってきてしまってる。


「また、今年。三年生には異例の()()()がやってくることから―――――」


 その文言を最後に、話は終わった。

 というよりは、校長先生が教師陣からの痛い目線に気が付いて空気を読んだという方が正しいだろう。去年よりかは話が短い。まぁ、人は学ぶものか。


 教室に戻る最中、異例の転入生とやらについて考えていた。

 周りは騒いでいるが、近くに優愛もいないので考え事くらいしかやることはない。

 『異例の』と言えば、確かに三年生の時に転入はなかなか難しいだろうし、珍しいだろう。

 でも、他に意味があるとしたら?


「んー」


 腕組んでなんとなく考えてもよくわからなかった。

 わたしは転校生に多大な興味を持ち、無神経にも話しかけに行くような人間ではない。どうせ関わることはないだろうし、もういいや。


 そうして教室に着いて、いよいよクラス替えの紙が配られた。

 一人づつ名前を呼ばれて、先生から紙を受け取っていく。

 席替えの様子というのは、おそらく全国共通。大騒ぎ。

 クラス替え?もう動物園かと思うほどのたくさんの音が聞こえてくるに決まっている。


 わたしは優愛からの熱い視線に耐えつつ、紙を受け取った。

 わが校のゆるふわを背負う廣瀬先生が渡す間際に「今年も(他校に)飛ばされませんでしたぁ♪」と随分嬉しそうに囁いた。なんか高橋先生の影響からか女子力上がったな、この人。


 席について紙を開くと、新しい出席番号とわたしの名前が上に一行小さく乗っていて、真ん中にクラスの数字が書かれている。


「なんだったよ、クラス」


 紙を受け取りに行っていた凛が帰ってきて、わたしの前の席に座る。

 凛は椅子の背もたれに肘をついてわたしに向かって尋ねてきた。


「一緒に紙見せない?」


「おけ」


 そうしてわたしたちはせーので互いの紙を捜査令状を掲げるがごとく開いて見せる。


「5やな」


「5だね」


 わたしたちは二人とも一緒に紙を下ろして少しため息を吐いて。


「「残留か~~~~」」


 と嫌味のように言葉を唸った。

 残留ということは担任が変わらないのである。担任だったら嫌な先生もいなくはないけど、残留はそれはそれでショックだ。

 


「それでは皆さん、新しいクラスでも頑張ってくださいねぇ」


 そんな言葉と共に、委員長の号令で最後の挨拶をする。

 わたしたちが立ち上がり、頭を下げて、「ありがとうございました」と言った後、先生が応答した瞬間、みんな近くの友人たちとすごい勢いでクラスを出て行った。


「はぁなぁぢゃ~ん」


 優愛は、紙を右手で強く握り、前方姿勢で腕をぶら下げながら生霊の雰囲気(悪い方の)でわたしたちの方へ歩いてきた。

 わたしと凛は残留なので、そのまま席に座って待機なのだ。


「どうしたの優愛?」


 聞くと優愛は体を落とすままに紙を机に叩きつけてきた。


「なんかいざ受け取ったら開くの怖すぎでぇぇぇぇ!

 なんかもう手汗とかやばいし去年のクラス替えの何倍も緊張しててもうやんなってきたのぉ!!」


 広げた両手を顔に押し当てて涙が浮かんだ絶望の瞳で捲し立てる優愛は、恋人が戦死したことを知ったヒステリックヒロイン(影の漫画影響)が如き剣幕であった。


「代わりに開けばいいの?」


 すると大きく首をぶんぶん振るので凛が小さく「面倒だなぁ」と呟いていた。

 わたしは優愛の顔を窺いながら、机に裏返して置かれた紙を伏せたままスライドさせて、身に寄せた。

 優愛の眼が指の間から見えていて乱れた髪が少しかかってるのと相まってホラー実が増してる。こわ。


「…………」


 わたしは静かに紙をめくり、数字を見る。

 周りにはもう人が少なく、徐々に新しいクラスメイトが入ってきていて音が少ない。

 緊迫した雰囲気(95%は優愛のせい)の中わたしは二人に紙を向けつつ告げる。


「ん~~ごぅ!!」


 というわけで、今年も無事、イツ面が同級生だとさ。ちゃんちゃん。


ーーーーー


 ある程度人がそろって、みんなそれぞれ好きな人と好きな場所に座った頃、ゆるふわ(廣瀬先生)の挨拶が始まった。


 さてと周りを見てみることとしよう。

 まず前に座ってる『凛』と廊下側に座る『優愛』。

 隣にいるのは、『夕君』も残留組かな?

 それに例の弟、『晴斗』が廊下側の前にいて、優愛に睨まれてる。

 中央列一番後ろにはいつものように真顔な『夜西』さんまでいる。


 そして一番気になるのは、一番パッとしないど真ん中の席に座っている、前髪が超絶長くて闇のオーラを醸し出すガタイのいい男子。

 『影』がそこにいることだろう。


 優愛にばれると気まずいので、隠れてちらちらと見るが、制服姿で大人しく椅子に座っている影が驚くほど解釈違いだ。いや解釈とか無いけども。

 まぁ、体締まってるし、首から下はブレザー制服も似合ってるかなぁ。


「なぁ葉菜」


 小さな声で凛が話しかけてきた。

 椅子の前足を浮かして心なしこちらに顔を向けてくる。


「転校生ってどんな奴だと思う?」


「関係ないでしょ」


 知らない人に、【授業中にちゅうちょなくしゃべるやつ】とかいう肩書をつけられるのは気に食わないので、できるだけ早く話の終わるように応答すると、凜が大人しく「だよなぁ」と言って姿勢を戻した。


 周りを見ると、仲のいいだろういくつかの男子と女子のペアかグループが小言でしゃべっている。晴斗も後ろの席の人と何やら喋っているし、ちょっと気にしすぎたかな。


 そんなことを考えていると、廣瀬先生の話にもひと段落付いた。

 ガタンと教壇にプリントを置いてから、先生はまた話し始める。


「先ほど、校長先生のお話にもありました転校生ですが、なんとこのクラスでお迎えすることとなっていますぅ」


 「んぇ」と、無意識に喉から漏れるくらいには驚いたわたしは(さっきのフラグだったかぁ)と少し反省した。


「皆さんも慣れないメンバーの中で緊張しているかもしれませんが、是非とも仲良くしてあげてくださいねぇ?」


 どうぞぉ、なんて先生の言葉と共にガラガラと扉が開く。


 時間がゆっくりに見えるほどの美貌というのは、アニメか、それか女優さんの演技くらいだろう。

 でも確かにその時、星に彩られる満月のように照る長い金髪の揺れる姿が、モデルのように軽いその足取りが、あまりに整った顔の笑顔が、燦燦とする瞳の光が。

 何より…………あの大胸筋運動が!!!

 わたし達の目をくぎ付けにしたのだ。

 普段なら声を上げる男子も、好奇心にあふれる女子の眼も、ただぽかんと見惚れるのみである。


 そう、噂の転校生の名前は…………



「こんにちは❢『如月星』です❢❢★★

 慣れない環境で緊張してるけど、ぜひ仲良くしてください❢☆彡」



 そして、わたしと影は誰よりも速くその魔性から抜け出して、頭を抱えるのである。


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