よく見て。可愛いから。
「フィア~、ほっぺ痛そうだよ?」
弱々しい声で俺の隣にしゃがむセリスのおかげで我に返る俺。改めて指摘されると余計に頬がジンジンしてきた。辛いわぁ。
「なんかあんた、Gランクの割に偉そうだったわね。尊敬したわ」
エリさん。それ誉めてんのか皮肉なのか分かんない。なんて返そうか分からずとりあえず苦笑いする俺の手を、今度はティリーが握り締めてくる。きゃー! ちょ、恥ずかしいマジで!
「フィアさん。あの、本当に、本当にありがとうございました! 私のせいでジルさんに……、ごめんなさい」
「ちげーよ! ティ、ティリーのせいじゃないって! ほんとに! マジで気にしないで! 全然痛くねえし! こんなのよりエリのビンタの方がよっぽど効く……」
「うるさいわね!」
スパーンと頭叩かれました。なんか俺、なんで一人だけこんなボロボロんなってんだろ。これ訓練よりきついんじゃね? 学園てハードなんだな。だがそこで全く会話に参加してこないアークに気付き周囲を見渡すと、俺たちとは少し離れた場所で突っ立っていた。何してんのかなーと話しかけようとしたとき、聞こえてきたのはアークの小さい呟き。
「……ジル、殺す」
アークさんんんん!! 格好いいなお前!! あまりの殺気にちょっとちびっちゃいそうだったけど気にしない!!
「ちょっとアーク。ぶつぶつ言ってないで食堂行くわよ!」
そんなアークに怯むことなく喝をいれるエリ。ちょ、お前勇者かよ。そしてなんだかんだで実習棟を出ると、学校中の生徒が談笑しながら廊下を歩いていた。お昼だもんね。楽しそうだ。まあ初の食堂にワクワクしてる俺の方が楽しいがな!!
アークたちに囲まれて、会話をしながら廊下を歩く。なんて学生っぽいんだろう俺。幸せだ。でも歩いてて思う。他のクラスの方達の目線がとても痛い。馬鹿な俺でも流石に分かるよ。これは『あ、あれ編入生じゃないっ? 素敵!』ていうより、『うわ、Gランク編入生だぜ』みたいな感じだな。悲しいなー。
「おい、あれだよあの茶髪の……」
「Gランクの編入生?」
「ティリー・フォールといいGといい、なんで能無しがあんな優等生グループにいんの?」
「自分の立場わかってないんじゃない?」
「でもGよりはティリー・フォールの方がマシなんじゃね?」
「そうか? さっき初級魔法で失敗したらしいぜ」
ぼそぼそと聞こえてくる声。お前らデリカシーってもんは無いのか。そういうことはせめて聞こえないように言うもんだろ。つーか『G』って! なに!? 俺のあだ名『G』に決定なの!? やだそんなゴキブリみたいなの!
「あーもう、本当にうっさいわね! ティリー、フィア! ああいうのはシカトが一番よ!」
苛々している様子のエリが頭をかきむしる。でも乱れないオレンジの髪。どんな魔法だ。セリスはセリスで、俺なんかより落ち込んだ表情を浮かべて俺とティリーの手を握ってきた。このぼそぼそ攻撃はきっと昨日今日に始まったことじゃないんだろうな。学生も苦労してんな。
しかし! 俺は怒ったぞ。俺のみならずティリーまで傷つけやがって。そっとセリスの手を離し、ぼそぼそ言ってた男女五人組に近付いていく俺。五人組は俺に気付いてキョドりだした。情けない奴め。
「おい、フィア!」
「フィアさん?」
アークとティリーが声をかけてきたが足を止めるわけにはいかない。俺はこいつらに言ってやらなきゃいけないことがある。
「な、なんだよ」
「あたしたちは別に本当のことを言ったまでで……」
「ば、馬鹿……!」
うろたえる五人組の中で一番近くにいた男を壁まで追い詰め、顔の横に荒々しく手をついて顔を近づけた。
「おいてめえ」
「ひっ!!」
びくっと肩を飛び上がらせる男。さっきまで能無しだのGランクだの馬鹿にしてやがったくせに、ほんと情けねえなあ。こんな奴に、こんな奴に……
「お前、ティリーのこと好きなの?」
「は、はあ!?」
ティリーはぜってえやらねえぞ。
「『はあ?』じゃねえよ! アレだろ!? 好きな子ほどいじめたくなるってやつだろ!? 知ってんだよ俺は! 学生というものを研究しまくった俺を舐めんな!」
「ち、ちげーよ! 誰が……」
「でもそれ、やりすぎると嫌われるんだからな! まあ好都合ですけども!」
「だから違ぇって! ふざけんなお前!」
そう言い返す男だったがその顔は真っ赤だ。林檎のように。なんだこれ。絶対ティリーの事好きじゃん。なんて分かりやすい奴だ。
「でも可愛いと思うだろ?」
「へ?」
「ティリーだよ。つーかあれを可愛いと思わない男なんか男じゃねえ。しかも魔法が苦手とか! めっちゃ可愛いじゃん! 手取り足取り教えてやれるチャンスじゃん! なんでお前らそういうの生かさないかなもう!! そう思うだろ!?」
「お、おう……」
「思うのかよ! テメエふざけんな!」
「おぶはッッ!!」
思いきり殴ってやった。お前なんかがティリーに手取り足取りやってたまるか。勢いよく壁に頭をぶつけて座り込む男。呆然と口元を拭っている。そんな男に、俺は最後の言葉を吐き捨てた。
「残念だったな。お前みたいなデリカシーのない奴にティリーはなびかねえよ。もっと紳士的な方法でアタックするんだな」
そして颯爽と踵を返す俺。やべー超カッコいい。俺のあまりのカッコよさにシーンとする中、堂々とみんなの元へ戻った。
「ふふ……。いい仕事したぜ」
「あんたなに馬鹿なこと言ってんの!? 恥ずかしいわね!」
「え? なんで?」
「は、恥ずかしいです……。で、でも、でも、ありがとうございました!」
「フィアおもしろーい!」
「流石だ、マス……フィア」
みんなの反応がいまいちパッとしないんだけどなんでだ。俺めっちゃ素敵だったはずなのに。でもぼそぼそと言う人はいなくなった。結果オーライなので爽快な気分でその場を後にする。とりあえず、初めての『食堂』っていう場所が楽しみだ。
────────
フィア達が去った後も廊下に座り込んだまま固まる男。そんな男の肩に、仲間の一人がそっと手を置いた。それによって我に返った男が戸惑いに満ちた表情を浮かべる。
「な、なんか俺、いつの間にかティリー・フォールに片想いしてる男にされた……」
「あいつはGランクなうえに馬鹿だな」
その言葉に思わず頷く野次馬達。
「でも確かに、ティリー・フォール可愛いかも……」
「はあ!?」
「Gも意外とカッコよかったよね、さっき」
「ちょ!!」
だがそんな野次馬の中からポツリポツリと聞こえてきた言葉。少しずつ、けれど確実に下位ランクの彼等に対する印象が変わりだした瞬間だった。




