腹黒い出来杉君と綺麗なジャイアン②
「そういえば、賢治に顧客を紹介したそうですね」
「え、なんでそこまで知ってんの!?」
「あれは僕の下僕その②ですよ」
「……なんだろう。その一言で納得しそうになる自分が怖い」
下僕その②はすっかり調教されている模様ですが、その①はまだ身売りはしたくありません。
「顧客というか、うちの部長?」
「君の直属の上司になったそうですね。色仕掛け……は無理か」
「え、なんで今すぐ否定した!?」
「出来るならしてもいいですよ、今すぐここで」
「すみません、私が間違ってました……」
しかし、どんな関係かと聞かれると一言では言いづらい。
言えるとすれば。
「特技を買われてギブアンドテイクな関係になりました?」
「……君の特技?<ソレ>のことですか」
顎でクイッと示されて、「それもバレたけど、違う違う」と首を振る。
「ムツゴロウ部長のお世話係に命名されただけ」
「ムツゴロウ」
「またの名をトップブリーダーとも」
全て呼んでいるのは高瀬一人だが。
「流石にそれは部長のプライバシーだからこれ以上は言えないけど、まぁ部長は私に職を、私は部長に心の安寧をもたらす感じで」
「……また取引ですか、君という人間は……。馬鹿が自分より賢い相手と取引としたところでうまくいくはずがありません。すぐに破棄しなさい」
「馬鹿って言われた~~」
「何度でも言ってあげますよ、この馬鹿娘。君は僕の下僕でいればいいんです。一生守ってあげますから」
「悪魔との契約にしか聞こえない……」
「失礼な。ハッピーウエディングですよ。希望するなら6月の花嫁にしましょうか?」
「最近良くそれ言われるんだけど、流行ってるのかなぁ……」
「……なんですって?」
これまで軽口を叩いていた竜児の眉が、ぴくりと寄った。
「僕以外の誰が君に求婚しているというんです。賢治のバカじゃないでしょうね」
「違う違う。ケンちゃんが私にプロポーズするなんて天地がひっくり返ってもないって!」
「……そりゃそうでしょうね。僕が子供の頃からずっと牽制してるんですから…」
「ん?なんか言った?」
「いいえ」
にこやかに答えながら、「で、誰です?その身の程知らずは」と問いただす。
「う~ん。それが例の似非霊能力者と、ムツゴロウ部長で…。あ、でも部長は自分が言ってるんじゃなくて、お友達の主任が勝手に画策しているだけだから」
「油断も隙もありませんね。……よし、タカ子、今すぐ婚姻届にサインしなさい」
バタン!
「「何故そうなった!?」」
「おや」
「あれ?ケンちゃん?」
夜中だというのに、突然現れたのは下僕その②こと、原田賢治その人。
屈強な体格に、浅黒い肌。どこか素朴な雰囲気をもったキラキラフェイス。
あ、これ説明間違ったな。
「スネ夫というより、綺麗なジャイアン……」
「は?何の話?」
「どら○もんでしょ?」
「そりゃわかる」
「じゃ何が疑問?」
「……?あれ、なんだろうな?」
「……この、馬鹿二人が……」
はぁ、と額に手を当て嘆息する竜児。
「なんでケンちゃんがここにいんの?」
「そりゃこっちのセリフ。タカ子こそなんで……」
「可愛いでしょ」
机の上でピラっとスカートをめくってやる。
それをまじまじ見下ろしながら、一言。
「その姿で竜児といるとまるで犯罪だなぁ」
「誰が犯罪者ですって?」
「「お前」」
またしても二人息ぴったりだ。
さすがは幼馴染兼下僕仲間。
「あ、なるほど。生身で来ると身の危険を感じるからそっちってことか。賢いな」
「勝手に納得しないでください、失礼な。金を払いませんよ」
「そりゃ困る。こっちは寝ないで走り回って情報を集めたんだぜ~」
賢治が取り出したのはA4サイズの茶封筒。
それを受け取り、竜児はちらりと一瞥すると、そのまま高瀬の前に差し出す。
「何の資料?」
「君が知りたがっているものですよ。例の神佑地の」
「大変だったんだぜ~調べんの。…あ、そういやタカ子、こないだはサンキュな!金払いも良かったし、ありゃ上客になりそうだわ。お前の上司なんだって?」
「うん」
「タカ子に求婚しているそうですよ、その男」
「…は?」
「違う違う。部長に斡旋されそうになってるだけで、部長にはその気はないから」
「斡旋ってお見合いじゃあるまいし、どうなってんの?」
「……う~ん、成り行き?」
「「成り行きねぇ…」」
「お、声ぴったり。やっぱり私たちトリオだねぇ」
友情万歳!!
「ってことで、これ貰っていっていいの?」
「いいわけないでしょう。ここで読んでいきなさい」
「ここと言いながら膝を叩くのをやめてー」
「交換条件です」
受け取ろうとした資料をひょいと持ち上げられ、ポンポンと叩かれた膝の上。
しかたないなぁ。
「じゃあ今回だけ……」