腹黒い出来杉君と綺麗なジャイアン③
「なるほどね~~」
しばらくの間、足をブラブラとさせながら資料を読みふけっていた高瀬は、全てを読み終えるとぴょんっとその膝から飛び降りようとし……竜児の腕に阻止された。
「危ないでしょう。何をするんです」
「いや本物の幼児じゃないから大丈夫だし。本体じゃないし」
「っていっても触れるならほぼほぼ本体とかわらないよな……」
「そりゃ二人共霊感あるし付き合いも長いからね~」
執拗に抱きとめられ、膝の上から降りることは諦めた。
とりあえず嫌がらせとしてすぐ真上にある奴の顎をバシバシと叩いておく。
「君の見立てだと、どうです?その祟りとやらは」
「…う~ん。多分だけど、なんとかなる…とは思う」
「例の男が既に払ったと?」
「あれが本体じゃないとは思うけど……。少なくとも、自分がもう歓迎されてないってことは納得したんじゃないかな」
資料を読んでから考えてみると、この間のやり方は少し悪いことをしたような気がしないでもない。
完全にゴキブリ対応だった。
「大本がかなり大きいから、そこまであの土地に執着することはないと思う」
「なら、反対運動をする必要はないか?竜児の仕事がなくなるなぁ」
「……それがそうとも言い切れない」
「?なんで?」
わけがわからない、というように首を傾げる賢治。
「自分で資料を用意しておいて理解していなかったんですか?……この土地は、手をつけては行けない場所です」
「うん…。やめといたほうが無難」
「だから、なんでよ?」
早く説明してくれよとねだる賢治に、竜児が簡潔に答えた。
「自然災害が起こる可能性が非常に高いからです」
「は?……そりゃ、祟りとかじゃなくて?」
「地形的な問題ですね……。まずは地名です。この辺り一帯の椿田という名前。これは川の増水などを受けて過去に洪水の被害にあったことをしめします。今切り崩されようとしている小山は、昔この地区の人間が洪水から身を守るために作った人工的な防波堤である可能性が高い」
椿、とは隠語のようなもので、本来の意味としては、「刈り取る」という意味の「戯<つば>く」からきているという説がある。つまりは、そこはかつて水害によって土地を大きく刈り取られたことがあるという警告だ。
集落を背にするように立つ問題の山が崩されれば、その反対に流れる大きな川が氾濫した際、直にその影響を受ける事になる。
「まずいじゃん」
「だからそういっています」
つい最近も似たような自然災害が発生し、街一つ壊滅的な被害に遭っていたはずだ。
その場合は、山を崩したのではなく、斜面の木を切り倒してしまったことが原因だったが……。
「あそこはそもそも何かを建てられるような土地じゃないってことか……。
でも、そんな土地になんでショッピングモールなんて建てようとしたんだ?」
「長く災害が起こらなかったことが原因でしょう。災害を甘く見た有識者の連中がGOサインを出したのを鵜呑みにしたのでしょうが、考えが甘すぎる」
「……切り崩せば、まず間違いなく禍は起こるよ。だってもう、そこに<神>はいない」
人工的に山を築く際にどこかから「神」を勧請して来たのだろうが、今度のことでその神はあの土地を見放した。
「もう、手遅れかも知れないけど……」
「怖いこと言うなって……。ともかく、ショッピングモールなんて論外ってこったな?」
「そのあたりは裁判でこちら側に有利に働きますね。もっと詳しく資料を集めて、専門家の意見も聞きましょう。……賢治?」
「俺の次のお仕事ってことね……。ったく…少しはいたわってくれよ……」
「充分いたわっていると思いますが?料金にも多少の色をつけているつもりでしたが、そこまでいうなら…」
「いやいやいやいや、それはそれって!!ううぅ。タカ子ぉ~。竜児がいじめるよぉ~」
「そこはほら、私じゃないでしょ、例の」
せ~の、で二人が息を合わせた。
「「助けてどら○も~ん」」
ドカッ!
「痛っ!チョッ!蹴るなよっ」
「あいにく両手ともにふさがっているもので……」
ねぇ?と見下ろされた高瀬も涙目だ。
「い、今キスしなかった!?口にキスしなかった!?」
「うるさい口を塞いだだけです。助けを呼ぶなら私にしなさい。百倍返しにしてあげます」
「悪徳弁護士怖いよぉ……」
「暴力弁護士……」
「ロリコン弁護士……」
ぼそぼそと文句を言い合う二人。
「霊体なんだから減るもんじゃないでしょう。大体ロリコンとは失礼な。タカ子は立派な成人です」
「んじゃセクハラ弁護士」
「裁判をするならかかってきなさい。返り討ちです」
「んな怖いこと俺に出来るかよっ。タカ子!潔く犠牲になってくれ!」
「幼馴染に見捨てられた!?」
生贄のごとく「さぁどうにでもしてくれ!」と捧げられてしまった。
「……生贄はありがたく受け取るとして、ところでタカ子。ずっと気になっていたんですが」
「?なに?」
「君、なんで今日は裸足なんです?いつも履いていた靴はどうしました」
「う~ん……。ちょっと大きめなゴキブリがいて……」
「ゴキブリ……?」
「まぁ、そのね。出来心でつい投げちゃった感じ?」
「靴を?」
「そう、靴を。……あ、でもでも!だそうと思えば出せるんだよ!?ほら」
そう言って足元を見れば、すぐに現れたのは以前履いていたものと寸分たがわぬ新しい靴。
だったらなぜ最初からそうしないんだとふたりが訝しんでいるのはわかる。
普通に考えればそうなるのは当然だ。
「でもさぁ、約束しちゃったんだよね」
あの男と。
「新しい靴、買ってくれるってさ」




