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金色の瞳  作者: 七篠 月
第二章 鬼導隊編
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鬼の乙女の悩み事

 真新しい服に袖を通す。

 それはどこか気分がいい。

 沙紀さきもまた気分がよかった。

 軍服のような黒い隊服は、沙紀の白い肌に見事に映えていた。

 端末を上着の内ポケットに入れると、沙紀は刀帯と呼ばれるベルトに刀を差した。

 そして、鬼導隊きどうたいとしての一歩を踏み出した。



「おっ、なかなか似合ってんじゃん。」

 鬼導隊本部の前で出迎えてくれた栄輝えいきが、嫌味など一切なしで褒めてくれる。

 沙紀は素直にそれが嬉しかった。

「ありがとう。今日からよろしくね。」

「おうよ。」

 栄輝はいつもようにニッカリと笑った。

 すると、本部の建物から高貴こうきが出てきた。

 すぐに沙紀たちに気づいたようで、爽やかな笑みを浮かべた。

「すごく似合ってるね、沙紀。やっぱり、スカートで正解だった。」

 そう言って、また、にっこりと微笑んだ。

「スカート?そーいや、沙紀、ズボンにしなかったんだな。」

 栄輝が不思議に思うのもそのはずで、沙紀は日頃パンツスタイルが多かったのだ。

「そ、それは…。」

 沙紀は恥ずかしそうに頬を染めて、昨日のことを思い出していた。


 沙紀は、自室で、長ズボンとスカートを見比べていた。

 もちろん、高校の制服はスカートを着ていた沙紀だったが、なんとなく私服はスカートを避けてしまっていたため、どっちを着るか悩んでしまっていた。

「沙紀、明日の事なんだけど…。」

 と、自然な感じで高貴は、沙紀の部屋の襖を開けていた。

 沙紀は突然のことに、言葉にならない声をあげながら、高貴を見た。

 もちろん、スカートとズボンは床に広げたままだ。

「あっと、ごめん。声をかけるべきだったね…。」

 沙紀のリアクションに対して、申し訳ないと思ったのか、高貴は気まずそうにする。

 そんな高貴を見て、そんなに見られて困ることでもなかったのではないかと、逆に申し訳ない気持ちに駆られて、今度は沙紀が謝っていた。

「こちらこそ、変な声あげちゃって、ごめんなさい。な、なんか、どっち着ようか迷っちゃって。」

 け恥ずかしさから、沙紀はそう捲し上げてしゃべる。

 すると、この状況に納得したようで、高貴は沙紀に近づいた。

「ああ、そっか、俺たちと違って、女の子はスカートもあるもんね。」

「そう!そうなんですよ!やっぱり、動きやすさとか考えたら、ズボンの方がいいかなとか思ったりして。」

 沙紀は、高貴が話に乗ってくれたので、さらにしゃべり続けた。すると、意外な言葉が返ってきた。

「うーん。スカートも結構動きやすいみたいだよ。スカート着てる子多いし。」

「はあ、みなさん、スカート派なんですか。それじゃ、スカートの方がいいかな?」

 沙紀は、浮いちゃうのも嫌だしなと思いながら、そんなことを口にした。

「ああ、でも、ズボン派もいると言えばいるし、って、こんなこと言ったら、余計迷っちゃうよね。」

 高貴はそう言って、困った顔をした。

「そんなことないです!貴重な意見ありがとうございます!」

「参考になってればいいんだけど。ま、結局のところ、沙紀が着たい方を着るのが一番だと思うよ。」

 高貴はそう沙紀に微笑んだ。普通なら投げやりな答えに聞こえるけれど、高貴は本心から自分で選んだものでいいと言ってくれているようだった。

 そんな高貴の言葉に、沙紀は温かい気持ちになっていた。

 そんなとき、はたと、自分の部屋に高貴と二人きりだと気づいてしまった。

 すると、沙紀の気持ちは温かいものから、一気に沸騰した。

「そ、そういえば、なんの御用だったんですか?」

 沙紀は、熱くなった気持ちを隠すように、少しドギマギしながら、話題を変えていた。

「あ、そうだった。明日の任務の事なんだけど、俺は本部の用事を済ませてから行くから、本部前で集合ってことで。」

「了解です。明日からもよろしくお願いします。」

 沙紀は明日から師匠+上官になる高貴にペコリと頭を下げた。

「こちらこそ。じゃあ、また明日。」

 そういうと、用を済ませた高貴は、沙紀の部屋を立ち去ろうと廊下へ出た。

 しかし、襖を閉める手が止まった。

 どうしたのだろうと沙紀が高貴を見つめていると、高貴は少し恥ずかしそうに顔をかいた。

「俺は、ズボンでも似合うと思うけど、…沙紀にはスカートの方が『より』似合うと思うよ。」

 高貴には珍しくボソッという感じでそう言った。

「え?」

 思ってもいなかった言葉に沙紀は思わず、聞き返していた。

「い、いや、余計なお世話だったかも。お、おやすみ。」

 これまた、珍しく慌てた感じで、高貴は襖を閉めた。

「おやすみなさい。」

 沙紀はすでに閉まった襖に向かって返事をしたが、頬は風邪でもひいているのかと思うぐらい熱かった。


 沙紀は昨日のことを思い出して、あの時のように頬を熱くしていた。

「ま、俺は沙紀が強くなるなら、ズボンでもスカートでも、どっちでもいいけどな。」

 栄輝はそう言うと、ニカッと笑った。

「へ?」

 沙紀はその言葉の意味がよく分からないでいた。

「俺は、強いやつが好きだから。沙紀も早く強くなって、俺のライバルになれってこと。」

 そう、栄輝は愉しそうに言った。

 確かに、栄輝は高貴と張り合ったりするのが好きだということは、今までの付き合いで分かっていたが、本日任務デビューの沙紀には、荷が重いと沙紀は思った。

 同じくそう思ったのか、高貴が栄輝の頭にチョップを入れた。

「いって!」

「なーに、新人にプレッシャー与えてんだよ。少しは、先輩らしくしろ。」

 高貴はそう言うと、沙紀に手を差し伸べた。

「改めまして、今日からよろしく。」

「はい。宜しくお願い致します。」

 沙紀は、高貴の手を取った。

「それじゃ、早速だけど、自分の端末を出して。」

 沙紀は言われるがまま、内ポケットから、端末を取り出した。

 すると、高貴が端末を沙紀に見えるように操作した。操作のためとはいえ、かなり近づいた距離に沙紀の心臓はドキドキしていた。

 そして、いつの間にか、端末の画面には、身分証明書のような画面が出ていた。そこには、沙紀の写真と、氏名、生年月日などが書いてあった。

「所属、山及びふもと周辺討伐課?」

 沙紀は今まで空欄になっていた自分の所属を口にした。

 沙紀は鬼導隊に入ることは決まっていたが、所属をどうするかというのが、意外に決まらず、とりあえず高貴の管理下で任務はこなした方がいいと、任務が所属よりも先に決まってしまっていたのだ。

 しかし、それも任務の直前で決まったらしい。

「村に隣接する山やその麓の村に出たじゃを討伐するのが任務の課で、俺や栄輝が所属している課なんだ。」

「でも、名前長いから、『一番隊』って呼ばれてるけどな。」

 いつの間にか、端末の傍、つまりは沙紀の傍に寄っていた栄輝がそう言った。

「一番隊?」

「そうだぜ、なんでか知らないけど、そう呼ばれてる。」

「まあ、それは置いといて。身分証明を求められたら、これを見せればいいから。」

 高貴はそう説明すると、すぐに端末を操作して、次の画面を出した。

 先程と打って変わって、文字がたくさん出てきた。

「これが任務画面。任務内容が書かれてる。これは昨日、俺が書面で説明したものだけど、書面での説明は初回だけだから、これからはこの端末で確認するように。」

「はい。」

「昨日も説明したけど、鬼導隊の任務は、すべて端末を通して割り振られて、報告も端末で行う。最初は慣れないかもしれないから、何でも俺に聞いてね。」

「はい。」

「俺でもいいからな。」

 栄輝は、先程の高貴の言葉を気にしていたのか、先輩らしくそう言った。


 それから一通りの説明を終えると、高貴は、村の入り口の方へと体を向けた。

「さあ、行こうか、沙紀。」

 高貴のその頼もしい姿に、沙紀の初任務に対する緊張は少しほぐれた。

 高貴についていけば問題ないと、そう思わせてくれるのだ。

「はい!」

 沙紀が元気よく返事をすると、高貴も微笑む。

「おお、やる気満々じゃねーか、沙紀!俺も暴れまくるぜ!」

 なぜか火がついてしまった栄輝に、高貴は苦笑いしていた。

 もうすぐ、日が傾き始める頃、沙紀たちは村の外へと向かった。

 


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