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金色の瞳  作者: 七篠 月
第一章 鬼となった少女
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鬼たちのぶつかる希望

「山田沙紀さんですね。こちらが、端末と隊服です。」

 ニコリとビジネススマイルを浮かべる女性から、一式を受け取った。

 そう、それだけ。それだけで、鬼の選ばれた者のみが入れるという鬼導隊きどうたいへの手続きは終わった。

「こんなに、あっさりでいいのかな?」

 沙紀は、政府機関の建物から出ると、思わず本音が漏れた。

 首をかしげていた沙紀は、いきなり手首を捕まれた。

 グンっと、引っ張られる衝撃に、沙紀は驚いた。

「ちょっと、アンタ何考えてるわけ!?」

 血相変えた泉希みずきが、ものすごい力で手首を握っている。

 その様子に沙紀も血の気が引く。そして、自分が何をしたのだろうかと必死に考えた。しかし、答えは出てこない。

「え、えっと…?」

 情けないけど、沙紀はそんな言葉しか出なかった。

「アンタね、鬼の頭領の推薦を蹴って他のトコに行くなんて馬鹿じゃないの!?」

「で、でも、推薦だし。」

 まくしたてる泉希に、オドオドしながらも、沙紀は言い返した。

「推薦って言葉でも、それが菊さまの希望ならそれに従うのが私達の生きる道なの。アンタ、村八分にでも、遭いたいわけ?」

 その言葉に、沙紀は凍りついた。確かに泉希の言うことにも一理ある。少なからず、沙紀は菊の厚意を踏みにじっている。

「とにかく、筋だけは通しなさい!村八分だけは回避よ!」

 泉希は呆然としている沙紀をグイグイと引っ張って行く。

 そうかと思えば、急に止まるので、沙紀は泉希にぶつかった。

 痛いと思ったが、そんな文句を言える雰囲気でもないので、黙っていると、泉希はこちらをくるりと見る。

「言っとくけど、アンタのためじゃないから。高貴がこの件の責任を取らされないようにするためなんだからね!!」

 そう言い切ると、泉希はまた沙紀を引きずっていった。



「そう、鬼導隊に入ることにしたの。」

「はい。き、菊さまが頭領屋敷で働けるように推薦して下さったのに、すいませんでした。」

 菊と向かい合う沙紀の指は震えが止まらない。

「そうねえ。少し残念ね。私の傍で支えて欲しかったのだけれど…。」

 菊は怒りもせず穏やかにそう言った。

「そんなに言っていただけて嬉しいです。」

 菊の様子にほっとした沙紀は、つい素直にそう言ってしまった。

 そのとき、菊の様子が変わった。

「なら、今からでもここで働くのはどうかしら?あちらには私から言っておくから。」

 菊は穏やかな笑みを浮かべながらそう言うが、二人の間にある空気は少し冷たくなる。

 菊は、とても冗談を言っている様子ではない。むしろ、否とは言い出せない雰囲気で沙紀に選択を迫っているのだ。

 今度、菊の希望に背けばそれは無知故の誤りとはみてはくれない。

 頭領への反抗になる。

 沙紀の頭の中は、ぐちゃぐちゃになっていた。

「これはね、私の希望でもあるけれど、あなたのためでもあるの。」

 黙り込む沙紀に菊は優しい言葉で選択を迫る。

(私のため?)

 沙紀はその言葉に引っかかっていた。

 自分のための答えは何だろうかと沙紀は考えた。

 すると、頭はクリアになって一つの答えが浮かんだ。

「すみません、菊さま。」

 沙紀にとっての、「自分のため」の答えは一つだ。

 それを言おうと、沙紀は息を吸い込んだ。

「失礼します!」

 沙紀の言葉を遮るように、凛々しい声とともに襖が開いた。

 そこに立っていたのは、高貴だった。

「何の用かしら?今、彼女と話していたところだったのだけれど。」

 高貴は何も言わぬまま、沙紀より少し前に座って、菊を見据えた。

「沙紀は鬼導隊に入るべきだと思います。」

 沙紀は思ってもいなかった言葉に驚いた。

「どういうことかしら?」

 菊も思ってもいなかったようで、怪訝そうな顔できいた。

「沙紀は、十六年間も人間として暮らしてきました。人間の社会で任務をこなす鬼導隊には、彼女の力が必要になると思います。」

 その言葉に菊はため息をついた。

「あなたの理由にも一理あるわ。正直に言いましょう。私はね、沙紀をみすみす危険にさらしたくないの。」

 菊は困った顔で、駄々をこねる子供を見るかのように、高貴と沙紀を見た。

 しかし、高貴はいまだしっかりと、菊を見据えていた。

「菊さまのおっしゃることも分からなくもないです。しかし、『護る』ということは、危険にさらさないことだけではないと思います。強さを身につけさせることも、また、『護る』ことだと思うんです。」

 高貴の言葉に沙紀は聞き入ってしまっていた。こんなに、他人が自分のことを思って語ってくれているのは、初めてだった。

「それでも、もし、任務で危険があれば、私が全力で守ります!!」

 高貴は強い眼差しでそう言い切った。

 一方で、沙紀の鼓動は大きく鳴り出してしまう。

 菊はまたため息をついた。

「いつから、そんなに弁の立つ子になったんでしょうかね。」

 高貴は、その時、我に返ったように頭を下げた。

「申し訳ありません。生意気なことを言いました。」

「いいえ、次期頭領なのですから、このぐらいなければ困ります。」

「それじゃあ…。」

「いいでしょう。沙紀の鬼導隊入隊を認めましょう。」

 そう言って、菊は軽く微笑んだ。



「もう!アンタたち、私の寿命を縮めるつもり!?」

 菊の部屋を離れると、ドキドキしながら待っていたであろう泉希が二人を出迎えた。

「特に、高貴!あそこは、この子に頭領屋敷で勤めるよう言うべきとこでしょ!」

「なんだ、盗み聞きか?」

「今は、そんなこと関係ないでしょ!」

 相変わらず、怒っている泉希に高貴は呆れた顔で対応していた。

「そんなことより、もうすぐ、夕餉の時間じゃないか?」

「っ!もう、こんな時間!?とにかく、アンタも高貴にこれ以上、迷惑かけないでよね!!」

 そう言い放つと泉希は忙しそうに、廊下を小走りで去っていった。

 二人きりになった沙紀は、高貴の顔を見上げた。

「高貴さん、先ほどはありがとうございました。あんなに言ってもらって嬉しかったです。」

「大したことじゃないよ。俺も俺が思ったことを言ったまでだし。まあ、師匠としては、弟子の願いを叶えてあげたいしね。」

 沙紀は、師弟関係を大事にしてくれることをうれしく思いながらも、弟子だからかと少し寂しい気持ちになった。

「だって、外に行きたかったんでしょ?」

 高貴の突然の言葉に沙紀は固まった。

「やっぱり、図星かな?まあ、普通に会いたいもんね、家族とか。」

 優し気な瞳で高貴は、微笑みかけた。

 この師匠には隠し事はできないなと沙紀は心の中で苦笑した。それでも、頬がいつもより熱を帯びていることは隠しておきたい、そう思った。

「はい、会いたいです。こんなことが理由で入隊するなんて、失礼かもしれないですけど。」

「いいんじゃないかな。俺だって、その気持ち分かるしね。」

「え?」

 沙紀は、思ってもいなった言葉に聞き返した。

「あ、そっか。言ってなかったね。俺、菊さまの養子だから、本当の子供じゃないんだ。」

 いや、それは知ってるけどと沙紀は思ったが、続く高貴の言葉に耳を傾けた。

「それでもって、赤ん坊の時に捨てられてたから、本当の親に会ったことないんだ。」

 そんな大層なことを平気そうに、高貴は言う。

「だから、家族に会いたい気持ちは、少し分かるよ。」

ただ、高貴が平気そうな顔を繕っても、少し傾き始めた日の光に照らされて、その顔は切なく見えた。


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