旅立ち
どうやって、お金を稼ぐか。
いろいろ考えた結果、俺が街に出稼ぎに出ることになった。
もともと両親は年頃になったら、俺を街に出す気だったらしいので、ちょうどよい機会だということで賛成してくれた。
ジェドさんにも相談に乗ってもらって、しばらくはここのあたりで一番大きい街であるエルダリアを拠点にすることにした。
職業斡旋ギルドに行けばいくつか仕事は紹介してもらえる。
俺には一般常識はちょっと足りてないかもしれないが、文字の読み書き計算もできるのでそこそこの仕事は紹介してもらえるそうだ。
もし、街での仕事が合わないのであれば、冒険者として生計を立てることも勧められた。
俺の実力であれば、冒険者としても十分やっていけるらしい。
でもまずは、人間社会にも慣れるため街での仕事に就きたいと思っている。
街には生まれてこの方数回しか行ったことがないので、実はすっごい不安だったりするんだけど、あと一年で成人なのだからいつまでも甘えていられない。
何より、これからも森で暮らしていくためにも、両親の安全のためにも俺は土地を買いたいのだ。
両親に見送られ、日の出とともに北の森を出た俺は、ますは北の森に一番近い、クレセタという村に向かっている。
日も高く上がった頃、開けた平原に突如として、視界の端から端までを埋め尽くす長く堅牢な造りの防壁が現れた。
この防壁の向こうがクレセタである。
これまた立派な、見上げるほどに高い石造りの門入ると、頑丈な防壁や門とは打って変わって、更地にこじんまりとした木造の家が立ち並ぶのどかな農村風景が広がる。
のどかな村に似合わない、堅牢な防壁は大戦期にサリエルとの防衛の最前線としてここに砦があった名残だそうだ。
クレセタには、年に2回ほど買い出しに訪れているが、はじめは防壁の外側と内側のギャップには拍子抜けしたのを覚えている。
通い慣れた今では、この防壁ものどかな町並みも優しい人々も慣れ親しんだものである。
今回クレセタに寄ったのは、エルダリアまでの旅支度のための買い出しと、村の人達に出立の挨拶をするためだ。
「キース!」
とりあえずは買い物…と店に向かっていたところを、俺とあまり年の変わらない、亜麻色の髪がキレイな女の子に呼び止められた。
「やぁ、レナ。今日も亜麻色の髪がキレイだね。」
「…あんたは相変わらず軟派というか、キザな奴ね。」
レナは挨拶すると、いつもキザとかタラシとか言って少し顔を赤くするのだが、それがまたかわいい。
この前、「赤くなっちゃってかわいい」と言ったら、殴られた上にそのまま逃げていってしまったので、もう言わないけどね。
「思った通りを口にしてるだけなんだけど、いけない事なの?特に女性は誉めろって言われたんだけどな…」
「悪い事ではないんだけど、あんたのその顔と声でやられるとねぇ…天然タラシって恐ろしいわ…。それより今日はどうしたの?結構な大荷物じゃない?」
天然タラシだとか言ってるけど、俺にはどの辺がタラシなのかわからない。人を誉めるとタラシになるの?
人間社会って難しいね。
その後、エルダリアに行くことなど簡単にレナに説明すると、「知らない人について行っちゃだめ」とか「人の話を鵜呑みにしちゃいけない」とかまるで小さい子どもに諭すように言われた。
さすがに、迂闊に知らない人について行くことはないと思う…多分。
更に、買い物に寄った雑貨屋のおばさんにも、顔なじみのおじさんにも似たような事を言われたんだけど、俺って人間の目から見たらそんなに騙されやすそうな顔をしてるんだろうか。